間章 6 不測の事態
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
「状況終了」
CDCで牟田が艦隊内の通信を行うマイクを持って、言った。
緒方は艦内マイクを持って、艦内放送した。
「艦長より達する。本日行われた陸海空の運用試験の第1回目のテストは問題なく終了した。今回のテストではそれぞれの要員は持てるだけのすべての力を発揮し、とりあえず、問題ない結果が出た」
緒方がそう言った後、[あまぎ]の乗員たちが心中で歓声の声をあげたような思いがした。
「だが、これはあくまでも1回目のテストだ。これから、実戦を想定した運用試験と各種演習が開始される。この時代に派遣されている第1護衛隊群と第2護衛隊群は当然の事だが、アメリカ、イギリス、フランス海軍の空母艦隊にも遅れをとってはならない。我々に与えられた時間は僅かだ。諸君等の奮闘を期待する」
緒方はそう言って、艦内マイクを置いた。
牟田は緒方が[あまぎ]乗員の労を労うと、自分も艦隊マイクのスイッチを押して、第1空母機動群に所属する全隊員の労を労う事にしたのだが・・・
「群司令、艦長。水上レーダーに感あり」
[あまぎ]のCDCで水上レーダーを担当する1等海曹が報告した。
「微弱な反応ですが・・・あきらかに艦隊です」
水上レーダー員の報告に[あまぎ]の砲雷長である2等海佐が水上レーダーのディスプレイを見た。
「群司令。艦長。3隻の不明艦がこちらに接近中です。速力18ノット」
砲雷長の報告にCDCの陸海空の自衛官たちがざわめいた。
「日本海軍か?」
牟田が問う。
「いえ、日本海軍を含むこの時代の艦艇にはステルス性はありません。だから、ここまで微弱な反応はしません。この反応は新世界連合軍の艦と思われます」
砲雷長が首を振って、報告した。
「確認急げ」
緒方が指示する。
すぐさま通信士が通信回線を新世界連合軍に繋ぎ、交信した。
「接近中の不明艦に告ぎます。貴艦は第1空母機動群に接近中である。所属と航行目的を教えられたし」
しかし、応答は無い。
通信士が2回目の確認をした時、不明艦3隻から応答があった。
突然、CDCに警報アラームが鳴り響く。
このアラームは射撃管制レーダー波を探知した時に鳴る警報アラームだ。
「不明艦より、レーダー照射!」
「本艦をロックオンされました!」
担当の海曹たちが悲鳴をあげる。
「なぜだ!どういう事だ!俺たちは味方だぞ!」
「もしかして、あいつらは俺たちを裏切った!?」
CDCのオペレーターから次々と憶測が飛び交う。
「第1護衛隊司令より、群司令。指示を願う」
ヘリ搭載護衛艦[しらね]に乗艦する第1空母護衛隊司令の葛木隆明海将補(区分2等)が落ち着いた口調で指示を待った。
CDCにいる陸海空自衛隊員の視線が牟田に集中した。
その時、口を開いたのは牟田でも緒方でも無く、群司令付けの服部久治准海尉だった。
彼は動揺している陸海空の自衛官たちに怒鳴る。
「落ち着け!接近中の不明艦群は友軍だ。笑い者にされたくなければ取り乱さず、それぞれの職務を遂行しろ!」
服部の言葉に若くて経験の浅い3等海尉が取り乱した口調で叫んだ。
「こんな状況で落ち着いていられる訳がないだろう!レーダー照射をされているのだぞ!今すぐにもミサイルが飛んで・・・」
その3尉が言葉を止めた。
「そういや、なんでミサイルが飛んでこないのだ?」
海曹の1人がつぶやいた。
レーダー照射を受けてからすでに5分は経過している。もし、彼らが本気で[あまぎ]を攻撃するつもりならとっくにしている。だが、対空レーダーには対艦ミサイルの光点は無い。
「本日の演習はこれで終了だ」
牟田が艦隊内の通信マイクでそう言った。
「え?演習?」
取り乱して服部に食ってかかった3尉が目を白黒させながら、つぶやいた。
その答えを牟田が通信マイクを持った状態で言った。
「そうだ。これは単なる訓練だ。第1空母機動群に所属する全隊員が不測の事態に備えて、どう対応できるか、そのための訓練だ。先ほどレーダー照射してくれたのは新世界連合軍連合海軍に所属するミサイル戦艦[ミズーリ]だ。諸君等の訓練結果と評価はこれから行う。各自今回の結果を見て、反省と今後の対応を考えてくれ」
牟田がそう言うと、艦隊通信マイクを切った。
その日の正午過ぎ。
[あまぎ]の飛行甲板に第1空母機動群に所属する各艦のヘリが着艦した。
ヘリには各艦の艦長と各艦に各種訓練指導を行う為に乗艦した菊水総隊海上訓練指導集隊(同部隊は元の時代で護衛艦隊の下で編成されている海上訓練指導隊群から編成された)に所属している指導官たちが搭乗していた。
第1空母潜水隊に所属している潜水艦2隻の艦長はゴムボートで[あまぎ]に乗艦した。
各艦の艦長と指導官たちは幕僚室に案内された。
幕僚室には牟田と上条、緒方の4人もいる。
さらにアメリカ海軍からオブザーバーとして派遣されている2人の大佐もいる。
艦長たちと指導官たちが席に着くと、幕僚室係がコーヒーと茶菓子を配った。
「準備が終わった所で始める事にしよう」
咳払いをして、牟田が言った。
「では、艦隊運動等について私から説明します」
海上訓練指導集隊第1海上訓練指導隊司令の谷圀旦伸2等海佐が書類を片手に口を開いた。
「艦隊行動や各艦の対空、対水上、対潜戦闘訓練や火災、浸水等の各種事態については各艦の差はありますが、一応問題ないレベルです。しかし、艦を動かす乗員はベテラン、新人を問わず、まだ、新しい艦に慣れていない様子です」
「つまり練度は低いが、個艦の練度は悪くないと?」
上条が問う。
「はい、個艦の練度に関してはベテランの乗員がよく新人の乗員たちを指導し、引っ張っていますから、問題ないと思います」
谷圀がうなずいた。
幕僚室にいる指導官たちがうなずく。
「問題なのはここからです。空母艦隊である第1空母機動群はこれまで海上自衛隊では想定していなかった。運用や作戦があります。そのため、第1空母機動群に所属している全隊員が頭ではわかっていますが、身体の方がまだ覚えていないようです。時間をかけて今後訓練を続けていけば問題ありませんが、その時間がありません」
谷圀の報告に各艦の艦長たちがうなずく。
「本日のドッキリ訓練ですが、不測の事態が発生して、各艦の乗員があれほど取り乱しては、実戦時に本来の艦隊としての作戦行動や艦隊防衛ができるか、かなり、怪しいものです」
谷圀の言葉に緒方はCDCでの状況が頭に過ぎった。
[ミズーリ]によるレーダー照射は第1空母機動群の群司令、隊司令、幕僚、艦長、副長、准尉等の一部の者に聞かされていた。そのため、彼らの目には落ち着いた雰囲気があった。
だが、何も聞かされていない陸海空自衛官たちの中には、取り乱す隊員もいた。冷静に上官の顔を見ればすぐにわかる、ものであったにもかかわらず。
「しかし、今回の経験で第1空母機動群に所属している隊員たちは幹部、曹士を問わず、いい経験ができたと思う。実戦は突然起きるものと、考える隊員もでてきただろう。それが理解できただけでも今回のドッキリは無駄では無かった」
イージス護衛艦[みかさ]の艦長である柿松洋輔2等海佐が言った。
イージス艦の艦長は通常の場合は1等海佐(2等)が任じられるが、菊水総隊に配属される1佐と元の時代に残る1佐に別れてしまうため。第1空母機動群第1空母護衛隊に配属された新造艦のイージス艦[みかさ]は、艦長職に条件に該当した1佐がいなかった。
そのため、2佐の階級でその条件に該当した者を任命したのだ。
当初は定年退職した1佐を現場に復帰させて、艦長に任命しようとしたが、特別な艦隊であるため、検討の段階で却下された。
これが第1空母機動群の特徴で、[あまぎ]を除く艦で本来なら1佐が任命される艦長職に、2佐が任命される場合もある。ただし、2隻の潜水艦の艦長は本来の2佐である。
柿松の言葉に谷圀もうなずいた。
「確かにその通りです。しかし、次のドッキリで同じ状況だったら、実戦時はかなり心配な事があります」
戦艦[ミズーリ]。
艦橋の艦長席で女性将校用の、純白の制服を着た長身の女性が腰掛け、水兵が持ってきたコーヒーを楽しみながら、海上を眺めていた。
彼女はニューワールド連合軍連合海軍打撃艦隊第1水上打撃群戦艦[ミズーリ]艦長のケイト・トミナガ・バギー大佐である。国籍はアメリカである。
名前からもわかるように彼女は生粋のアメリカ人である白人男性と日本人女性との間で生まれたハーフである。肌の色と金色の髪は父親譲りだが、目の色や顔立ちは母親譲りだ。
海軍軍人家系の長女として生まれたバギーは、父や祖父と同じくアメリカ海軍兵学校に入学した。
入学試験の成績と卒業試験の成績も上位だった。父親は海軍作戦本部に勤務する少将であったため、彼女への期待は高かった。
そのため、30代前半で少佐に昇進し、太平洋艦隊の重要なポストに配属された。しかし、バギーが中佐に昇進して間もなく、父親が海軍長官暗殺未遂事件の容疑者として逮捕された。
動機等は不明だったが、海軍MPと海軍犯罪捜査局からの厳しい取り調べで、父親は精神を壊し、海軍病院の保安病棟で自殺した。
だが、捜査はこれだけでは終わらなかった。当時ミサイル駆逐艦の艦長であったバギーにも捜査の手が及んだ。だが、彼女は事件とは無関係であったため、すぐに潔白が証明された。しかし、海軍省は彼女を閑職へ追いやった。
それが、戦艦[ミズーリ]の艦長職だ。
[ミズーリ]は前大統領の指示で現代でも実戦に参加できるよう改装と補修がされたが、ほとんどは観光客等に実際に航行する姿や砲撃する光景を見せるための観光名物だった。
バギーは[ミズーリ]の甲板に艦長として初めて足をつけた時、「お前も不幸な人生ね」と語りかけた。
だが、彼女と[ミズーリ]の活躍の場はすぐに訪れた。ニューワールド連合軍連合海軍打撃艦隊に組み込まれた。
その時、バギーも中佐から大佐に昇進した。父親が起こした事件から3年後の事である。
バギーはコーヒーを飲みながら、隣にいる黒いスーツを着た青年を一瞥する。
「特別補佐官殿。最高司令官にはどのように報告するのですか?本艦は老人艦では無く、まだまだ、実戦で戦えると報告してくれるかしら?」
バギーは顔に似合う穏やかな表情で聞いた。
「自分は事実を言うだけだ」
桐生は無表情でそう答えた。
彼がここにいるのは艦の視察のためである。彼は最高司令官の目であり、耳でもある。
「艦長。第1空母機動群旗艦[あまぎ]より、通信文です」
通信兵が通信文を持って報告した。
バギーは通信文を受け取ると、その通信文を黙読した。
通信文には、第1空母機動群の乗員たちに喝を入れてくれた事についての感謝の言葉と明日からの合同演習についての挨拶が書かれていた。
(彼らは赤子を一人前にする。私たちは現役を引退した老人を若者に後れを取らないようにする。どちらが先かこれは指揮官としての腕の見せ所)
バギーは心中でそうつぶやくと、コーヒーをすすった。
一瞬だが桐生が彼女を一瞥したが誰も気付かなかった。
陽が沈み、周囲を闇が支配した。
緒方と関島はCDCにいた。牟田とその幕僚たちもCDCに詰めていた。
「群司令。時間です」
関島が報告した。
「わかった」
牟田はうなずいた。
関島は艦内マイクを持って、艦内放送した。
「空母航空団司令より達する。予定通り艦載機の夜間発艦及び着艦訓練を開始する。夜間であるため、昼間に発着艦するのとは訳が違う。各員十分注意せよ」
関島がそう言い終えると艦内マイクを置いた。
「航空団司令。気象長の報告ではこの時間帯は天候が荒れるそうだ。訓練を延期してはどうかね?」
牟田が関島に告げた。
「いえ、その必要はありません。実戦時に天候が良好という可能性はありません」
関島は首を振り、訓練の開始を予定通り行う事を主張した。
「それもそうだな・・・」
牟田は少し心配した表情でつぶやいた。
緒方は艦内マイクを持って、艦橋に繋いだ。
「艦長より、艦橋へ、天候が悪い。常に航海レーダーと気象レーダーから目を離すな。特に艦載機の着艦には細心の注意を払え」
緒方は艦橋要員に注意した。
航空管制室とカタパルトで発艦準備をしているF-35CJのパイロットとの交信内容がスピーカーから聞こえる。
「発艦許可する」
航空管制室から許可がでると、F-35CJが滑走し、[あまぎ]から発艦した。
1機目が発艦すると2機目、3機目と発艦する。
「発艦は順調だな」
F-35CJが半数発艦する光景を見届けると、牟田がつぶやいた。
「発艦時間に多少の遅れはありますが、順調に発艦しています。すべて想定範囲です」
関島が腕時計を見ながら、言った。
F-35CJが全機発艦すると、すぐに関島は艦内マイクを持って航空管制室に指示した。
「次は着艦だ」
激しく雨が降る空を銀色の機体が音速の壁を越えて、空気を切り裂く。
航空自衛隊第1空母航空団第101戦闘飛行隊に所属する織部圭3等空尉は操縦桿を左に倒した。
彼が操縦するF-35CJは左に旋回した。
織部は首を回し、洋上をゆっくりと航行する[あまぎ]の艦影を確認した。
飛行隊長から着艦を開始する指示を受けて、しばらく経過した。
[あまぎ]の飛行甲板に次々とF-35CJが着艦している。
彼の着艦の順番は最後である。
「サムライ4へ、こちら航空管制。着艦許可する」
フライトヘルメットに設置されている通信機から航空管制官からの声がした。
「サムライ4。着艦する」
織部がそう言うと、操縦桿を傾け、自分が操縦するF-35CJを[あまぎ]の後部飛行甲板に向ける。
サムライ4は織部のコールサインである。
「こちらサムライ4。着艦コースに侵入した。着艦に問題なし」
「こちら航空管制。気象長より、まもなく天候が回復する。機体操作に十分注意しろ」
「こちらサムライ4。ラジャ」
航空管制室から警告を素直に聞いて織部は即答した。
(心配性な奴らだ。俺は経験だけは浅いが、空母航空団パイロットの中では操縦技術は上位を確保している。何も心配いらない)
織部はそうつぶやくと、着艦の最終チェックを行った。
着艦には何も問題ない・・・少し速度が速いだけだ。
その時だった。急に視界がぼやけた。
(ん?どうした・・・)
織部は自分の身体に違和感がある事に気付いた。
(最近、寝る時間を削って空母航空団の運用について勉強していたから、こんな時に疲れが現れたか?)
そう思うと、どういう訳か急に疲れが身体にのしかかるような感じがした。
だが、この一瞬の集中の乱れが彼の命取りになった。
「航空管制室より、サムライ4へ。着艦速度が速い上にコースをずれている!着艦中止!機首を上げろ!」
航空管制室から怒号が響く。
「はっ!?」
わずかな一瞬の集中の乱れにより、織部のF-35CJは[あまぎ]の飛行甲板にそれなりに接近していた。
(馬鹿な!俺とした事が!)
織部は自分を叱責した。しかし、そんな事をしている場合では無い。
彼は慌てて操縦桿を引き、F-35CJの機首を上げた。しかし、速度が速いと言ってもそれは着艦を目的した速度の話だ。機を上昇させるには十分な速度ではなかった。
突然、コックピット内に失速警報が鳴る。
「しまった!」
織部はそう叫び、慌てて無意識にエンジン速度を上げてしまった。
通常の場合では、失速したら速度を上げれば何とか機体を立て直せる。だが、それは十分な高度があっての話だ。着艦コースであるため、高度は当然高くない。
つまり・・・
失速し、落下速度とエンジン出力を上げてしまったため、さらに落下速度を高めた。
織部のF-35CJはそのまま海上に激突し、その衝撃をまともに正面に受けた。
F-35CJは一瞬にして墜落時の衝撃でバラバラになり、原形をとどめなかった。
織部が目にした光景は墜落時の衝撃でコックピットが潰れる瞬間だった。
それが彼の見た、最後の光景だった。
間章6をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は4月19日を予定しています。




