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時間跳躍 第4章 役者は揃った

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 今回の話で、陸海空の主役級が揃います。

 すみません、予定日時の入力を間違えてしまいました。お詫び申し上げます。失礼いたしました。

 閣僚会議が終わり、原田は山縣、霧之、石垣、ダニエルの4人を首相官邸の首相執務室に呼んだ。


「まあ、掛けてくれたまえ」


 原田は4人にソファーを進める。


「失礼します」


 山縣が自衛官を代表して、言った。


「・・・・・・」


 ダニエルは無言でソファーに腰掛けた。


「いま、お茶かコーヒーを持ってくるように指示しよう。皆は何がいい?」


 原田が言うと、山縣、霧之、石垣、ダニエルという順で注文した。


「私はコーヒーを」


「私はお茶で」


「自分はコーヒーです」


「なら、私もコーヒーをお願いしよう」


 4人の注文を聞いて、原田は秘書にコーヒーとお茶を持って持て来るように伝えた。


 数分後、執務室にコーヒーとお茶を持った秘書が入ってきた。


「失礼します」


 秘書はコーヒーやお茶が入った湯飲みとカップを置いた。


 山縣は慣れているようだが、石垣と霧之は緊張した様子である。


 コーヒーとお茶を配り終えると秘書は一礼して、執務室を出ていった。


 原田もソファーに腰掛けると、コーヒーをすする。


「総理。我々を呼んだ用件はなんでしょう?」


 山縣が口を開いた。


「ああ、それはな。君たちは大東亜戦争時代に行く意思があるのか、聞いておきたくってね」


 原田が3人の自衛官の顔を見回しながら、言った。


 石垣は山縣と霧之と顔を見合わせた。


 先に口を開いたのは山縣である。


「私は行くつもりです。自衛隊のトップとして、部下たちだけを、こんな危険な任務につかせる訳にはいきません。私が指揮官として現地に行きます」


 山縣の言葉に原田はうなずいた。


「本来ならば決断した私がいかねばならないのだが、私は軍事に詳しくない。自衛官たちの足を引っ張るだけだ」


 原田は残念そうに告げた。


「それで、君たちはどうする?」


 彼は霧之と石垣という順で問うた。


「私は行きます」


 石垣だった。


「私は太平洋戦争のデータをもとに作戦を立案しました。立案した者として、その結果がどうなるか最後まで見ておきたいのです」


 石垣の言葉に原田はうなずいた。


「私も行きます。部下である石垣2尉が行くのであれば、上官である私が行くのは当然です」


 霧之の言葉に原田は力強くうなずいた。


「君たちが行ってくれるのであれば安心だ」


 原田は立ち上がり、3人の自衛官と握手した。


 握手をすますと原田はソファーに腰掛け、気になっている事を口にした。


「問題は旧日本政府にどう説明する。その辺は考えているか?」


 原田の問いに石垣と霧之が顔を見合わせた。


「総理。実はそこが問題なのです」


 石垣が言った。


「我々が未来から来た日本人である事を明かしても信用されない可能性があるのです。それどころか・・・」


「アメリカのスパイとして、片付けられる可能性がある・・・か」


 原田が腕を組んで、つぶやいた。


「はい。そうです」


 その時、ダニエルが笑った。笑ったといっても、笑い声を出さず、必死に押さえていた。


「何がおかしいのです。ダニエル氏」


 原田が訝しげに尋ねた。


 3人の自衛官も同様である。


「いや、失敬、失敬。あまりにも小さい所を心配しているから、つい、おかしくなってしまった」


 ダニエルの言葉に原田たちは顔を見合わせた。


「それはどういうことでしょうか?」


 山縣が尋ねる。


「この時代に私が来たという事は過去の日本にも使者が行ったと考えられないか?」


 この言葉に原田たちは驚いた。


「まあ、過去の日本に派遣された者は大変だったと愚痴をこぼしていたが、うまく行ったと連絡があった」


 ダニエルの言葉に原田たちは顔を見合わせた。


「連絡する事ができるのですか?しかし、一度過去に行ったら、もう戻れないはずでは」


 原田が尋ねた。


「連絡とそれとは、別な話だ。だから、安心しろ」


 ダニエルが腕を組みながら、言った。


 原田と自衛官3人は再び顔を見合わせた。まったく、今まで思い悩んでいたことはなんだったのだろう。





 横須賀沖。


 海上自衛隊自衛艦隊護衛艦隊第1護衛隊群所属イージス護衛艦[あかぎ]は日米合同演習を終え、母港である横須賀基地へ帰投していた。


「本艦の周囲に船影は確認できません」


 見張り員が報告する。


 イージス護衛艦[あかぎ]は[あたご]型イージス護衛艦をベースに建造された新造艦である。[はたかぜ]型ミサイル護衛艦の後継艦である本艦は、イージス艦[こんごう]型、[あたご]型を遥かに超えるイージス艦だ。


 弾道ミサイル迎撃システムとミサイル迎撃ミサイルを搭載し、日本本土を守る盾として政府からも国民からも期待されている。


 全長170メートル、基準排水量8200トンの大型艦である。


 そして、記念すべき初代艦長は、驚く事に女性である。


 彼女の名は神薙(かんなぎ)真咲(まさき)1等海佐だ。


 19歳で防衛大学に入学し、23歳で幹部候補生学校に入校した。24歳で3等海尉に昇進し、20年間勤務して1佐に昇進した。


 神薙は防衛大学と幹部候補生学校時代も首席だったが、部隊勤務でもかなりの好成績を残し、上層部から期待された人材だった。


 海幕(海上幕僚監部)からはいずれ女性初の海上幕僚長になるのではないかと、思われている。


 イージス艦[あかぎ]の艦長になった彼女への風当たりはまずまずであった。海幕から期待されている事は海士まで耳に入っているが、期待する者と不信感を持つ者に別れた。しかし、彼女はそんな事は気にせず、現場で自分の力をフルに発揮し、不信感を持つ海曹や海士を驚かせた。


「コーヒーをお持ちしました」


 海士の1人がトレイに2つのコーヒーカップを載せて、姿を現した。


「艦長」


 海士は艦長席に座る神薙のもとへ行くとコーヒーカップを渡した。


「ありがとう」


 神薙は礼を言いながら、コーヒーカップを受け取った。


「副長」


 海士は神薙に渡した後、副長兼船務長である切山(きりやま)(ひろ)()2等海佐に渡した。


「ありがとう」


 切山も礼を言いながら、受け取った。


「はい。失礼します」


 海士はそう言いながら艦橋を後にした。


「1ヶ月ぶりの日本ですな」


 切山がコーヒーをすすりながら、神薙に言った。


「ああ。船乗りになってから、思うようになったが、日本の陸地をしばらく見ていないと、こんなにも落ち着かない気持ちになるとはな」


 神薙がコーヒーをすする。


「第2次大戦以来半世紀以上。日本は1度も戦争をしていない。これほど平和な国家は世界中どこをさがしてもありません」


「ああ。日本が世界に誇れる1つだ。平和な国家は数えるぐらいしかない。ほとんどの国は1度ならず2度以上は戦争をしている」


 神薙は艦長席から立ち上がり、艦橋横のウィングに出た。


「やはり艦橋はいい。CICは潮風を感じられないから、自分が船の上に居る事を忘れてしまう」


 心地よい潮風に目を細めながら、神薙は満足そうにつぶやいた。


 穏やかな風が、肩の上で切りそろえられた、髪を揺らしている。


「はい。私も艦橋は好きです。朝日に染まる海、夕日に染まる海を見るのが私の楽しみです。海を見ていますと、世界で起きている悲惨な現象が嘘のように思えます」


「確かにな」


 神薙はうなずいた。


 その時、通信員が通信文を持って、神薙のもとに現れた。


「艦長。群司令から通信です。[あかぎ]が横須賀基地に入港したら、[いずも]に出頭するように、です」


 通信員から知らせを聞いた神薙は彼から通信文を受け取った。


「わかった」


 通信員が挙手の敬礼をすると神薙のもとを離れた。


「何事ですか?」


 切山が声をかけた。


「私にもわからない。だが、何かよっぽどのことだろう」


 神薙は通信文を読みながら、言った。





 飛行教導群司令である谷本(たにもと)1等空佐は空幕(航空幕僚監部)からの辞令に目を通していた。


「ううむ」


 谷本は唸り声を上げた。


「いかがされました司令?」


 副司令が尋ねた。


「見てみろ」


 谷本は副司令に辞令書を手渡す。


「拝見します」


 副司令は辞令書にすばやく目を通した。


「飛行教導群から高居(たかい)(なお)()1等空尉と嘉村慶彦(きむらよしひこ)1等空尉の2名を第10航空団第10飛行群第205飛行隊に配属する」


 副司令が読み上げると、谷本は不機嫌そうな顔をした。


「そういうことだ。数10年に一度現れるかわからない空戦の天才が引き抜かれるのだ。いくら空幕でもこの命令は俺個人としては受けたくない」


 谷本の言葉に副司令もうなずいた。


「確かに、あの2人は30代前で飛行教導群に選ばれましたから、ここで引き抜かれるのは痛いですね」


 副司令の言葉に谷本は腕を組んだ。


「が、しかし、空幕の命令である以上は従わなければならない。2人を呼んで来てくれ。訓練飛行はもう終了しただろう」


「はい」


 副司令は10度の敬礼をして、部屋を出て行った。





「ほらよ」


 高居が缶コーヒーを友人に投げた。


「おっと、ありがとう」


 嘉村が高居におごってもらった缶コーヒーをキャッチする。


「ちっ」


 高居は舌打ちする。


「その舌打ちは俺が缶コーヒーを、キャッチしたからか?」


 樹村が笑みを浮かべながら、言った。


「そうだ。落とす事に期待したのだが、無駄だったよ」


 高居が残念そうにぼやいた。


 その後、2人は笑い出した。


 2人の毎日の恒例のようなものだ。


 空に上がれば空の王者に相応しい飛行と空戦を繰り広げるが、一旦地上に降りればこうして笑い合う。


 2人は缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲む。


「やはり、訓練の後のコーヒーはうまいな」


 高居が笑みを浮かべながらつぶやく。


「いつも同じ事を言うね・・・」


 嘉村が聞き飽きたようにつぶやく。


「うまいんだから仕方ないだろう」


 高居が笑みを浮かべながら告げる。


 2人が缶コーヒーを飲み終えると、副司令に呼ばれた。


「嘉村1尉、高居1尉。群司令がお呼びだ」


 副司令の言葉に嘉村と高居は顔を見合わせた。


「なんだろう?」


「なんか、まずいことをしたか?」


 2人はお互いの顔を見ながら、質問するが、思い当たる事はなかった。


 それに気付いた副司令は穏やかな笑みを浮かべて、言った。


「安心しろ。2人が思っている様な事ではない。早く群司令のもとへ出頭しろ」


「わかりました」


「了解です」


 嘉村と高居がそう言うと、群司令の部屋に向かった。





 群司令の部屋に着くと、高居がノックをした。


「高居1尉以下1名、入ります」


「入れ」


 部屋から声が聞こえると高居はドアを開けた。


 谷本の前に立つと、2人は10度の敬礼をした。


「楽にしたまえ」


 そう言うと、谷本は2枚の書類を2人に渡した。


「辞令書だ」


 谷本からそう言われると、高居と嘉村は辞令書を見た。


「第205飛行隊に異動する?」


「司令。205飛行隊というのはどのような部隊ですか?自分の記憶の限りそんな部隊はなかったはずです」


 嘉村が谷本に尋ねた。


「ああ、確かに205飛行隊も第10航空団も私の知る限り、存在しない部隊だ。恐らく新しく編成された部隊だろう」


「何のために?」


 高居が尋ねた。


「あくまでも噂だが、現在日本政府と自衛隊のお偉い方は自衛隊の派兵を計画しているという噂があるそうだ。君たちも聞いた事ぐらいはあるだろう?」


 群司令に言われ高居と嘉村は顔を見合わせた。


 確かに聞いた事がある。防衛省と統幕、陸海空の幕僚監部が何かしていると、だが、それが何かまではわからない。そのため、自衛官たちの間で色々と憶測が飛んでいる。


「まあ、そういう事だ。真意は自分たちの目と耳で確認したまえ」


 群司令はそう言うと2人を下げさせた。





 自衛隊福岡病院の病室で、朝野(あさの)秋吉(あきよし)3等陸尉は目を覚ました。


 デジタル時計を見ると、0600時だった。


 いつもの起床時間。自衛隊で鍛え上げられたから、身体が覚えている。


 上半身を起こすと、朝野はテレビをつけた。


 こんな時間だから、ニュースぐらいしかしていない。


 ニュース番組にすると、若い女性アナウンサーが簡単な挨拶をして、最近の出来事を話始めた。


「中国が崩壊して、早くも1年が経とうしています。中国ではいまだに混乱が続いており、治安の悪化が懸念されています。現地に派遣されている国連平和維持軍は武装勢力からの攻撃により、数多くの犠牲者が出ております。国連はさらに兵力の増員を決定した模様です。周辺諸国からは日本が自衛隊の派遣をしない事に非難が続いております」


 朝野はテレビのボリュームを上げる。


「朝野3尉。検温に参りました」


 カーテンを開けて、陸曹の男性看護師が入ってきた。


「お願いします」


 男性看護師は体温計を朝野に渡し、血圧計を取り出した。


「集団的自衛権と憲法第9条改正に反対する反戦団体が首相官邸に集まり、反対活動をしました」


 画面が変わり、首相官邸前でデモをする反戦団体の抗議が映し出された。


「憲法改正は違憲だ!」


「戦争法反対!」


「徴兵制反対!」


 等々と抗議している。


「徴兵制って、いつから自衛隊は徴兵制を採用したんだ?・・・」


 朝野は首を左右に振りながら、突っ込んだ。


「まったく。この人たちはわかっているのですかね?我々がいるから、平和に暮らせているのに。国を守る組織がなくなれば、周辺諸国から攻められるというのに」


 男性看護師が吐き捨てるように言った。


「彼らが言っている事は間違ってはいない。戦争は、死ななくてもいい人間を無理やり死に追いやるからな。死なないで済むなら、それに越した事はない」


 朝野は体温計を渡しながら、告げた。


「しかし、あの人たちは言い過ぎです。物事には限度があります」


「確かに物事には限度がある。反戦活動をしている者たちのほとんどは中国崩壊で職を失った者たちだ。怒りをぶつけるところがないのさ」


「聞く耳を持つ必要がないと?」


「そうだ」


 男性看護師の言葉に朝野はうなずいた。


「それでは、具合の方はいかがですか?」


 男性看護師は自分の仕事に戻り、尋ねた。


「昨日と変わらない。」


 朝野の言葉に男性看護師は笑みを浮かべながら、告げた。


「では、予定通り、明日退院ができますよ」


「ああ、早く退院して、部隊に戻りたい」


 男性の看護師の言葉に朝野はうなずくのであった。


 ニュースは反戦団体から、スイーツの話題に変わり、さっきまでの緊迫感はまるでなかったかのようにアナウンサーは喋っていた。





 朝野が朝食を終えてから数時間後、彼が所属する部隊の上官である持山(もちやま)(たける)1等陸尉が見舞いに来た。


「中隊長」


「あ、そのままでいい」


 朝野が起き上がろうとした時、持山が止めた。


 持山は置かれているパイプ椅子に腰掛けた。


「医官に聞いたが、明日退院だそうだな?」


 持山が黒革の鞄を開けながら、言った。


「はい、朝の検温でも退院は予定通りだと言っていました」


 朝野は横になったまま、答えた。


「実はな、今日、俺がここに来たのは、お前の意思を問いに来たんだ?」


「意思ですか?」


 朝野は上半身を起こす。


「そうだ」


 持山は1枚の命令書を朝野に渡した。


「いいか、これは極秘書であるから、ここに書いている事は何も言うな」


 上官が注意する。


 朝野は渡された命令書を黙読した。


 内容は彼が所属する水陸機動団に出動命令が出るという事だ。それも現代ではなく過去の日本。太平洋戦争時代の日本に、だ。


「これは?」


 朝野は驚き持山に尋ねる。


「質問はお前が退院した時に聞く。それで、どうする。この任務を受けるか受けないか?」


「・・・・・・」


 朝野はどうするべきか一瞬判断ができなかった。


 この命令書には一度過去の日本に行けば二度と元の時代には帰れない、と書かれているからだ。


 しかし、それは一瞬だけの事、朝野はすぐに決断した。


「私は行きます」


 それは、どこか他人事のように淡々とした口調だった。





 この日、陸海空の各自衛官に、それぞれの隊司令から極秘命令が、通告された。

 時間跳躍 第4章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月29日を予定しています。

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