間章 1 ノーフォークにて
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
アメリカ合衆国バージニア州ノーフォーク海軍基地に緒方の姿があった。
家族に密かに別れを告げ、自衛隊の輸送機でアメリカに入国した緒方は自分に与えられる艦が錨を降ろしているノーフォーク海軍基地に来たのである。
(ここが世界最大の海軍基地か?確かに横須賀基地とは比べものにならない)
緒方はノーフォーク海軍基地の施設を見回しながら、つぶやいた。
彼もアメリカに来るのは初めてでは無い。演習等でアメリカ海軍基地であるパールハーバーやサンディエゴに行った事もある。
しかし、それはアメリカの西であり、太平洋に面する陸地若しくは離島である。
緒方は基地内の案内役を命じられたアメリカ海軍士官の後を追いながら、艦艇が停泊している港に向かった。
「こちらです」
アメリカ海軍の士官が港に案内すると背広の男が埠頭に立っていた。
彼の視線の先はマストに日本国旗が掲げられた航空母艦が錨を降ろしていた。
アメリカ海軍が保有する航空母艦より小さいが、海上自衛隊が保有する護衛艦の中では最大だ。
「こ、これは」
緒方は驚いた。
日本が空母を保有する話は聞いた事が無い。なぜ、ノーフォーク海軍基地に停泊しているこの空母が日本国旗を掲げているのか、それが驚きだった。
「よく、来てくれた緒方1佐」
背広の男は緒方に身体を向け、笑みを浮かべながら、言った。
彼の顔を見れば誰かわかる。一度も会った事は無いが、自衛官なら全員知っている。
「知っていると思うが、私は防衛副大臣の十河だ」
十河は手を差し出した。
「海上自衛隊の緒方粂八1等海佐です」
緒方は十河の手を握り、握手した。
「副大臣。この艦は?」
緒方は日本国旗を掲げている空母を見ながら尋ねた。
「君はどこまで聞いている?」
十河が問うた。
「日米開戦が勃発する前に菊水総隊(自衛隊、警察、消防、海保等の混成集団)を含む特別編成された日本の組織と新世界連合軍(アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、シンガポールの各軍等、准軍事組織、情報機関、捜査機関、PMC(民間軍事企業)等の多国籍連合)がタイムスリップし、恒久的世界平和と核なき世界を構築する、と聞かされました」
十河がうなずいた。
「そうだ。それで、なぜ、君がここに送られたかは聞いているかね?」
「いえ、ここに来ればわかる、と言われました」
緒方はそう言うと、十河はさらにうなずいた。
「まあ、そうだろうな。この空母は日米が共同建造した最新鋭の通常動力型航空母艦だ。つまり、第2次大戦後初となる日本の航空母艦だ」
十河の言葉に緒方は驚いた。
「日本が空母を!?」
「そうだ。アメリカ海軍が保有する最新鋭原子力航空母艦[ジェラルド・R・フォード]級をベースに建造された」
十河の説明を受け、緒方は日本の空母を再度見上げた。
「艦名は[あまぎ]だ」
「[あまぎ]」
「そして、君が空母[あまぎ]の初代艦長だ」
十河の言葉に緒方は彼の顔を見た。
「自分が空母の艦長」
「そうだ。空母[あまぎ]・・・いや、[あまぎ]を旗艦とする第1空母機動群は第1から第4護衛隊群がこれまで行って来た任務とは比べものにならない。そのため、艦のナンバー1とナンバー2、空母航空団のナンバー1とナンバー2には高度な判断が要求される。艦長及び空母航空団司令は1等海佐1等と1等空佐1等が任命される。わかりやすく言えばアメリカ海軍の空母と同じ編成だ」
十河の説明に緒方は納得した。
十河と共に[あまぎ]に乗艦すると、すでに青い作業服を着た海上自衛隊の曹士たちが作業していた。
彼らは緒方たちに気付くと、作業をやめて挙手の敬礼をした。
緒方は海上自衛隊の純白の制服を着ているから、海曹士たちからすれば上官である事はすぐにわかる。
「まだ、[あまぎ]に乗艦する陸海空の自衛官は全員到着していないが、全乗員の4分の1が乗艦している」
十河が歩きながら説明する。
「艦を運用する副長、空母航空団司令、空母航空団副司令等の1佐クラスは全員到着している」
十河はそう言いながら、艦内を進み、艦橋に上がった。
「防衛副大臣が上がられます」
艦橋にいる海曹長が声を上げた。
艦橋にいる艦橋要員たちが作業をやめて、挙手の敬礼をした。
「続けてくれたまえ」
十河がそう言うと、1佐の階級章をつけた陸海空の自衛官たちの元に向かった。
「諸君。紹介しよう。[あまぎ]艦長の緒方粂八1等海佐だ」
十河が簡単に紹介した。
1佐たちは緒方に挙手の敬礼をした。
「本艦の副長兼船務長の水野家正1等海佐です。区分は2等です」
長身で屈強な体格をした中年の男が名乗った。
「本艦の第1空母航空団司令の関島欧也1等空佐です。区分は貴方と同じで1等です」
水野程の長身ではないが、長身の部類に入る航空自衛隊の夏服を着た男が名乗った。
「同じく第1空母航空団副司令の渡邉澄治1等空佐です。区分は2等です」
航空自衛隊の夏服を着た中背の男が名乗った。
「本艦に乗艦する陸上自衛隊即応レンジャー隊隊長の辻村仁1等陸佐です。区分は2等です」
日焼けが目立つ中背の男が名乗った。
「同じく同隊副隊長の浜中鉄馬1等陸佐です。区分は3等です」
眼鏡をかけた穏やかそうな顔をした男が名乗った。
「とりあえず、全員では無いが1佐たちの紹介は終了した。他の者たちも今週中には全員が到着する」
十河が言った。
自衛隊の階級で1佐は3段階に区切られている。基本的に1佐3等は指揮官経験が無い1佐である。1佐2等は指揮官経験がある者。1佐1等は団や群等の幕僚長若しくは首席幕僚である。
例をあげるなら、第1、第2護衛隊群の村主、久賀が1佐1等。神薙、橘田、向井、杉山らが1佐2等。特務作戦チームの坂下、御堂が1佐3等である。
「副大臣。海自と空自が[あまぎ]の乗組員である事はわかるのですが、なぜ、陸自まで?」
緒方は十河に尋ねた。
「それは簡単だ」
十河が答えた。
「空母[あまぎ]を旗艦とする第1空母機動群は日本本土の防衛だけを担当する訳では無いからだ。もちろん、主任務は日本本土防衛だが、海外派遣を目的として、建造されたからだ。集団的自衛権と駆けつけ警護が可能になった現在の自衛隊では、それらを専門的にできる陸海空自衛隊の統合運用が求められた。そこで空母[あまぎ]を多目的型航空母艦として運用する事を決めたのだ」
「なるほど」
十河の説明に緒方は納得した。
わかりやすく言うならばこういう事である。例えば紛争地域に空母[あまぎ]を旗艦とする第1空母機動群が派遣され、現地で武装勢力からの攻撃で治安維持活動をしている友好国軍から救援要請若しくは国連の要人等から救助要請が出た場合に[あまぎ]から艦上戦闘機がスクランブル(緊急発進)し、空の安全を確保すると、ただちに[あまぎ]から陸自の航空部隊が即応レンジャー隊の部隊を乗せて、現地に急行するのだ。
まさに海外派遣を目的とした陸海空作戦を遂行できる多目的空母だ。
翌日。[あまぎ]の艦長室で緒方はデスクでノートパソコンを開き、起動させた。
第2次大戦後初に建造された航空母艦[あまぎ]の詳細について記載されたファイルを開く。
航空母艦[あまぎ]型1番艦[あまぎ]
全長290メートル、全幅75メートル、吃水12メートル、主機ガスタービンエンジン4機とディーゼルエンジン4機、推進器2軸、最大速力27ノット、乗組員は操艦要員900名(海上自衛隊)プラス海上自衛隊の航空要員200名、航空要員750名(航空自衛隊)、即応レンジャー隊350名(陸上自衛隊)プラス陸上自衛隊航空要員60名、これと陸海空自衛隊のパイロットが100名以上いる(予備要員も含む)。
[あまぎ]に乗艦する陸海空自衛官を合わせれば2360名いる。
建造目的が海外派遣であるため、遠洋航海と長期の作戦行動が想定されているため、活動期間はこれまでの護衛艦をはるかに超える。
このため、乗員の娯楽のために娯楽設備が充実している。
どちらかいうとと、アメリカ海軍の空母とほぼ同じの娯楽設備だ。主な娯楽設備は売店、軽食店、ゲームセンター、フィトネスクラブ等(さすがに教会はない)である。
それらを運用するのは病院船[こんよう]と同様に特別な訓練を受けた民間人である。
そこまで読んでいると、艦長室のドアからノック音がした。
「入れ」
「失礼します。第1空母機動群司令が本艦に到着する時刻になりました」
水野が入室すると、そう報告した。
「そうか、わかった」
緒方はそう言うと、ノートパソコンを閉じて、立ち上がった。
艦長室の電気を消し、部屋を出る。
制帽を被り、水野と共に通路を進む。
通用甲板に出ると、第1空母機動群司令を出迎える準備をする。
しばらく待つと、4人の陸海空自衛官の制服を着た男たちが[あまぎ]の甲板に足をつけた。
緒方たちは海将補の肩章をつけた50代後半の男に挙手の敬礼をした。
「お待ちしておりました。群司令」
緒方が歓迎した。
「俺がまた前線部隊の指揮官になれるとは思わなかったよ」
海将補の男は答礼しながら、そう言った。
彼が第1空母機動群司令の牟田修康海将補である。ちなみに海将補の区分は1等である。
海将補も2等と1等に別けられている。わかりやすく言えば護衛隊群司令や航空群司令等が海将補の2等である。1等である海将補は海に出ることは無く、陸上勤務だ。しかし、第1空母機動群は特別な艦隊であるため、2等では無く、1等海将補が指揮官として任命された。
「では、俺の下で陸海空の作戦を補佐してくれる先任幕僚たちを紹介する。まず、陸自から鷲尾東吾1等陸佐(高級幕僚)、海自は上条嗣明1等海佐(首席幕僚)、空自は折原啓1等空佐だ。3人共1等1佐」
3人の先任幕僚が挙手の敬礼をする。
緒方は彼らに答礼する。
首席幕僚である上条の顔を見た時、緒方は驚いた。
(村主と同期で、才能は同等とかいう天才児じゃないか)
噂は聞いた事がある。
戦術シミュレーションとはいえ、天才と言われた村主を完敗させた唯一の人物。
そして、村主、神薙、御堂と合わせて自衛隊始まって以来の天才的才能を持った集団、四重奏の1人。
防衛大学校、海上自衛隊幹部候補生学校を優秀な成績で卒業し、その後はアメリカ合衆国アナポリス海軍兵学校とイギリス・ダートマス王立海軍兵学校に留学し、両国海軍上層部を驚かせた英才。そのため、海上自衛隊でも将来を期待された人材である。
緒方も話だけなら聞いた事がある。
第1空母機動群。
空母[あまぎ]を旗艦とする護衛艦4隻、潜水艦2隻、支援艦2隻で編成されている。
護衛艦の中核はイージス護衛艦[あかぎ]型2番艦[みかさ]である。[みかさ]を中心に汎用護衛艦[あきづき]型5番艦[しもつき]、汎用護衛艦[あさひ]型2番艦[はつひ]、ヘリ搭載護衛艦[しらね]である。
しかし、どの護衛艦も[あまぎ]と同様に長期の作戦行動を想定しているため[しらね]を除く他の護衛艦は1番艦をベースに再設計されている。
イージス艦[みかさ]は基準排水量が200トン増量され、全長が1番艦よりも長い上に乗員の居住性の向上や娯楽設備([あまぎ]や[こんよう]と比べれば遠く及ばない)、医療設備等の向上がされている。もちろん、他の護衛艦も同じである。
[あまぎ]を護衛する第1空母護衛隊の中心艦である[しらね]は退役した旧式の艦であるが、菊水総隊旗艦である[くらま]と同様に近代化改修と艦齢を伸ばす改修を行った。
空母の天敵である潜水艦から[あまぎ]を護衛するために第1空母機動群の指揮下で編成されている第1空母潜水隊の2隻の潜水艦は[そうりゅう]型潜水艦では無い。[そうりゅう]型潜水艦をベースに居住性を向上させた新造の通常動力型潜水艦[おおなぎ]型が建造された。この1番艦[おおなぎ]と2番艦[ゆうなぎ]が[あまぎ]と同行する。
第1空母機動群の各艦の燃料、弾薬、食糧、水、医薬品、衣類等を補給する新造補給艦[しんせい]、新造潜水艦救難母艦[しらさぎ]が随伴する。
どちらの支援艦も個艦防空装備や戦闘艦程では無いが自艦防衛用の大口径の火器や自衛火器が装備されている。
補給艦[しんせい]は前級の補給艦[ましゅう]型より大型化され、全長は270メートルである。補給艦としての能力だけでは無く、医療設備や入院施設も[ましゅう]より向上している。
潜水艦救難母艦[しらさぎ]も今まで就役した潜水艦救難艦より大型である。全長は185メートルあり、潜水艦の救難能力は[ちはや]型潜水艦救難艦と同様だが、医療設備、入院設備以外に潜水艦の乗員の宿泊施設は2隻分の潜水艦の乗員が宿泊できる設備がある(収容人員は160名と一般公開されている)。
基本的に第1空母機動群司令とその幕僚たちは旗艦である[あまぎ]に乗艦するが、第1空母護衛隊司令とその幕僚はヘリ搭載護衛艦[しらね]、第1空母潜水隊司令とその幕僚は潜水艦救難母艦に乗艦する。
この編成はこれまで海上自衛隊が行って来た人事とは大きく異なるものだ。
それだけこの艦隊が特別なものである事がうなずける。
この艦隊の総指揮官は群司令である牟田である。
航空母艦で軍艦のCIC(戦闘指揮所)に相当するCDC(戦闘指揮所)がある。
ここに設置されている小さなモニターが第1空母機動群に所属する各隊の司令と直接会話するテレビ電話機能が付いている。
このテレビ電話は最新のセキュリティーがあるため、傍受する事も電波ジャックする事もできない。
間章1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




