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こぼれ話 トラファルガー沖海戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

「あ~あ、どっかにふるいつきたくなるような美女はいないかね~」


 イタリア・スペイン合同艦隊旗艦戦艦[ヴィットリオ・ベネット]の艦橋でそうぼやいているのは、この急遽編成された艦隊の司令官に無理やり任じられた、ダリオ・バリーニ中将だった。


 いい加減を絵に描いたと言う表現が相応しいこの男は、40歳という自分の年齢にふさわしくない高い階級に辟易していた。


「・・・これは、死ねって暗に言っているのか・・・」


 イタリア海軍の主力は現在、地中海の制海権を確保するためにマルタ島攻略に本腰を入れている。


 合同艦隊などと大袈裟な名前を与えられているものの、実際は単なる混成小艦隊である。


 自分に与えられたのは、[ヴィットリオ・ベネット]と[クリストファー・コロンボ]級の戦艦2隻、[アキラ]級空母1隻、[アレッサンドロ・ポエリオ]級駆逐艦3隻と支援としてスペイン海軍から申し訳程度に派遣された駆逐艦2隻である。


 一応それなりの戦力ではあるが、乗艦している兵員は寄せ集めで練度も何もあったものではなく、士気は最悪と言っていい。


 これで、受けた命令が「ジブラルタル海峡を通過し、マルタ島の救援に向かうであろうイギリス艦隊を捕捉、殲滅せよ」である。


 フランスが早々に降伏してくれたおかげで、フランス海軍を相手にしなくてすむのはありがたいが、代わりに質も量も段違いのイギリス海軍を相手にしなくてはならなくなった。


「何で、俺なんだよ」


 自分より優秀な指揮官は大勢いる。


 よりにもよって、何故自分なのか・・・結局、悶々とした思考の堂々巡りであった。


 そのため、結局現実逃避に陥っていた。


 彼自身も知っていたが、「禿げてない女ったらし」と兵や下士官が自分の事を言っている事を。


 彼の従卒が、毎朝彼の自室から出て来る髪の色の違う女性の姿に呆れかえっている事を。





 数日後の早朝。


 緊急電を手に、艦長がバリーニの私室を訪れた時に目に入った光景を見て、我が目を疑った。


 怠惰でズボラで、女性にだらしない司令官が早朝から制服をきちんと着て、執務机に地中海全域の地図を広げて真剣な表情で見入っていたからだ。


 女性の姿は影も形もない。


 艦長は天変地異の前触れではないかと本気で思った。


「何だ?」


 口調もいつものやる気のない投げやりな口調ではなく、低く落ち着いた口調であった。


「何か用か?」


「はっ、海軍司令部より電文が届いております」


 艦長から、電文を受け取った電文にバリーニは目を走らせた。


「艦長、幕僚と各艦の艦長を招集せよ。作戦会議を開く」





 作戦室に集合した幹部たちは、普段とは別人の司令官の姿に目を丸くした。


「情報部から、連絡が入った。イギリスに潜入している諜報員からの報告で、イギリス海軍は[キング・オブ・ジョージ5世]と先頃就役したばかりの[デューク・オブ・ヨーク]を基幹とした30隻の艦隊を出港準備中だそうだ」


「!!」


 その言葉に全員が息を呑んだ。


「目的地は、シンガポール。つまりだ、地中海の制海権は完全無視。そういう事だ」


「閣下・・・それは一体・・・」


「どうやら、マレー近海で日本海軍の巡洋艦に[プリンス・オブ・ウェールズ]が撃沈されたという情報は本当だったという事だ」


 この情報に関しては、かなり不確定な情報が錯綜している。


 ドイツ第3帝国からの情報も今一つはっきりしないのだ。


 ただ、1つ言えるのは日本が異常なほど軍事力を増しているという事だ。


「それと、連中はこう言っている。攻撃を受けない限り、反撃はしてはならない。速やかに地中海を通過し、エジプトを経由しインド帝国へ向えと」


「・・・・・・」


「わざわざ、こちらに傍受させるように平文で交信を交わしている。要は連中の言いたい事を翻訳するとこうだ。『貴族様の行進を、田舎者が邪魔するな』・・・舐められたものだな・・・ローマ帝国の版図にブリタニアが含まれていた事をすっかり忘れていやがる」


 バリーニはそこで言葉を切り、挑発的な視線を派遣されて来ているスペイン海軍の駆逐艦の艦長たちに向けた。


「栄光あるスペイン海軍も堕ちたものだな。かつてはイギリス海軍と肩を並べる程の海軍を擁していたのも昔の話、今や駆逐艦2隻しか出さないショボい海軍に成り下がった」


「・・・・・・」


 2人の艦長がムッとした表情を浮かべた。


 それを見ながら、バリーニはさらに挑発的な言葉を叩きつける。


「上からの指令はこうだ。イギリス艦隊には手を出さず、そのまま通過させよだ」


「何と!」


「ここまでコケにされて、指を咥えて見ているだけと!?」


「そりゃそうだろう。一応は世界最強のイギリス海軍を相手にしないで済むならそれに越した事はない。連中がスエズ運河を通過したところで、ドイツ陸軍とイタリア陸軍がエジプトを攻略すれば、連中が帰る頃には大西洋に出るには喜望峰を大回りしなきゃならん。大西洋に出れば、牙を研いで待ち構えるUボートの餌食だ。ただし、俺の予想では連中は日本海軍にやられて、帰って来ない」


「しかし・・・それは、いくらなんでも・・・」


 参謀の1人が疑問を口にする。


「いくらなんでも、あり得ないか?なら聞くが、30年ちょっと前にロシア帝国の海軍を破ったのはどこの国だ?」


「それは・・・そうですが・・・」


「あの当時も、東洋の小国が大国に敵う訳が無い。それが世界の常識だったはずだ」


「・・・・・・」


 確かにそれはそうだが、2度も3度も幸運が続く訳が無い。


「何か根拠があるのですか?」


「ある」


 自信に満ちた表情で、バリーニは言い切った。


「未来から来た軍隊。大日本帝国はそれを味方につけた」





 これに関しては、例え一時であったとはいえ日独伊三国同盟を結んでいたからこそ、得られた情報であった。


 ドイツ第3帝国軍部もアメリカやイギリスに比べれば、かなり正確な情報を掴んでいたのだが、あまりに荒唐無稽過ぎて、逆に戦場伝説のような形で切って捨てられ、政府まで届いていなかった。


 それは、イタリア王国でも同じであった。


 それをバリーニは信じたのだった。





 1941年12月中旬、遂にイギリス海軍シンガポール派遣艦隊がジブラルタル海峡近海に姿を現した。


「空母はなしか、堂々たる艦隊決戦で日本艦隊を叩くつもりか。進歩がないな」


 偵察機の報告を受けながら、バリーニはつぶやいた。


 史実を知る菊水総隊や新世界連合軍は首を傾げるのだが、どういう訳かムッソリーニが空母建造案に積極的で、既にイタリア海軍は2隻の空母を保有していた。


 この2隻は客船だったものを空母に改装したものだが、新たなる空母も建造されつつある。


 艦上戦闘機は、大日本帝国海軍が保有していた支那事変(日中戦争)で実績のある九二式艦上攻撃機を購入し、独自で改良を加えた。


 それに、かなり早い段階で空母運用のノウハウを学ぶ事もできた。


 奇遇であったが、バリーニは日本の山本五十六(やまもといそろく)と同じ航空主戦論派であった。


 もっとも、この理論は軍上層部にも、政府にも全く受け入れられなかった。


 それを立証するためには、試験運用段階である空母[アキラ]を有効に使ってこそ認められるだろう。


「空母がもう1隻あれば、完全だったのだがな・・・ない物ねだりをしても仕方ないか」


 ボソリとバリーニはつぶやいた。





 単縦陣に戦列を組んだイギリス艦隊はトラファルガー岬の手前で目前に広がる光景に唖然となった。


 ジブラルタル海峡の最も狭い所は幅が14キロメートル程しかなく戦列が伸び過ぎるという欠点はあるが、仕方がない事であった。


 無論、浮遊機雷等の妨害工作は考慮されていたため盾代わりとして、老朽化した客船を最先頭に立てていた。(これは、掃海艇では足が遅いための措置であった)


「何だ、あれは?」


 イギリス艦隊の進路を阻むように、ズラリと漁船らしき木造船が並んでいる。その数は目視で数えきれなかった。


「警笛を鳴らして針路上から排除せよ」


 事実上最先頭の駆逐艦の艦長が航海士にそう命じた。


 ボオォォォ。


 警笛が響き渡る。


 しかし、木造船は動かない。


「前方の木造船は無人のようです」


 見張り員からの報告が届く。


「単なる嫌がらせか?」


 そう考えた。


 この辺りは、イタリア海軍の小艦隊が、フランスが降伏した時期に合わせてどさくさ紛れにスペインによって占領された、イギリス領ジブラルタルに駐留しているはずだ。


 艦長は指示を乞うために旗艦に通信を入れた。


 旗艦からの返信は「無人ならそのまま突っ切れ」だった。


 その指令を受け、念のために後方に客船を下げると、駆逐艦は速力を上げ主砲の照準を木造船団の中央に合わせる。


「ファイア!」


 主砲が火を噴き、砲弾が撃ち出された。


 1隻の木造船が木っ端みじんに吹っ飛んだ。


 しかし、それだけでは済まなかった。連鎖反応を起こすように、次々と木造船が誘爆していく。


「爆薬を積んでいたのか!?」


 爆薬だけでは無く、重油も積載されていたのか、一瞬で炎の壁が出来上がった。


「何の真似だ?」


 見た目は派手だが、大した事はない。


 こんな虚仮脅しに何の意味があるのか。


 疑問が浮かんだ。


 ただ、これでは艦隊速度を落とさざるを得ない。だがそれだけだ。


 艦隊に損害がでていない以上、単なる意味のないパフォーマンスに過ぎない。





「敵艦隊より砲撃を確認。自衛のための作戦行動に入る」


 ニッと口の端の片方を釣り上げて笑ったバリーニは、作戦の開始を告げた。


 砲撃って、無理やり撃たせただけでは?[ヴィットリオ・ベネット]の艦橋要員は全員がそう思った。


 艦隊速度を落とさせるために、仕掛けた奇策。


「航空隊に可能な限り低空を飛行せよと、指示は出しているな」


「はい」


「いかに、高速戦艦と言えど、この状況じゃ自慢の足も鈍るだろう」


「本艦はいかがいたしますか?」


 艦長が問いかける。


 それもそうだ、[ヴィットリオ・ベネット]をはじめ、戦闘艦はトラファルガー岬近海で、錨を降ろして停泊したままなのだ。


「なあに、そろそろ連中ご自慢のレーダーがこちらを捉えるはずだ。何隻かがこちらに向かって来る。もちろんそう仕向けるが、その時のための仕掛けを用意しているのだから、無駄にはしたくないからな」


「はあ・・・」


 確かに、司令官の命令で海中にある仕掛けを施した。


 しかも大規模に。


 しかし、とんでもない大博打だ。


 外せば確実に損害は甚大だ。


(ああ~、神よ。我らに加護を)


 艦長は、心底からそう祈った。





 海上の炎が、弱まった。


 その時、見張り員から報告が届いた。


「本艦隊、12時方向に航空機の編隊を確認!低空で真っ直ぐ突っ込んできます!!」


「何!」


 双眼鏡で確認すると、20機程の編隊が視認できた。


「死角となる低空での接近か?あの小細工はこちらの目を欺くためか」


「魚雷の投下を確認!」


「各艦に警報、回避行動!!」


 すぐに回避行動に移った艦は幸運だった。


 回避行動の遅れた艦に、何本かの魚雷が命中する。


 2隻の駆逐艦と1隻の巡洋艦が被弾した。


「落ち着け、こちらの陣形を乱して、指揮系統を混乱させるのが狙いだ」


[キング・オブ・ジョージ5世」に乗艦する司令官はそう怒鳴った。


「すぐに被害状況を確認せよ」


「はっ」


 さすがにこの挑発行為には苛立ちを隠せない。


 レーダーで、すでに小艦隊の存在は捕捉していたが、何もなければ素通りするつもりであった。


 自分たちが帯びた任務は決して軽いものではないからだ。


「[デューク・オブ・ヨーク]に連絡。艦隊を率いて小艦隊を殲滅せよ。しかる後に被弾した艦を率いて本国へ帰投せよ。本艦は当初の予定通り、インド帝国へ向かう」





「掛かった」


 漁船に偽装した船で、イギリス艦隊の動向を逐一報告していた連絡挺はイギリス艦隊の一部が戦列を離脱し、トラファルガー岬を目指して針路を取った事を確認していた。



 


「ほぼ、時間通り。運命の女神はこちらに微笑んだ」


 懐中時計を確認しながら、バリーニは微笑んだ。


「間もなく敵戦艦の射程距離に入ります。砲撃準備に入りますか?」


 双眼鏡で黒煙を確認しながら、艦長が問いかける。


「いや、必要ない。敵は砲弾を1発も撃てない。それより、津波の衝撃にそなえよ」


「は?」


「5、4、3、2、1爆破!」


 その瞬間、20キロメートル以上離れた海面が白く染まり、大きく盛り上がった。





 異変は突然起こった。


トラファルガー岬に急行していた[デューク・オブ・ヨーク]のほぼ真下の海中で何かが爆発した。


「何事だ!?」


 それが何か理解する間もなく、[デューク・オブ・ヨーク]はその衝撃に艦体のバランスが取れず、転覆した。


[デューク・オブ・ヨーク]に追従していた駆逐艦、巡洋艦も突然起こった巨大な波にバランスを失い横転する。


 その光景を見ていた[ヴィットリオ・ベネット]以下の艦隊も押し寄せる巨大な波に大きく揺れた。


 しかし、予め艦首を波に向けて立てていたのと、錨を降ろして艦体を固定していたため被害はほとんどなかった。


「・・・敵艦はすべて転覆ないし横転・・・戦闘継続は困難と判断します・・・」


「あれだけの仕掛けを施した割には、小さい戦果だが・・・まあ、こんな所だろうな」


 少し不満顔で、バリーニはつぶやいた。


「しかし、閣下。このような戦術はどんな戦術の教本にも載っていないと思いますが・・・」


「そりゃそうだろう、3週間ほど前に寝た女が、聞いてきたのだ『もし、船の真下で爆発が起こったらどうなるの?』とね。それが、ヒントになっただけさ」


「・・・・・・」


 そんな素人の意見を戦術に取り入れたのか?そもそも、これって戦術と言っていいのか?


 そんな疑問が沸き起こるが、一応は成功と言っていいだろう。


 ドラム缶にメタンガスを詰め、それを大量に海中に沈め、人間魚雷に使用される時限式魚雷をセットして起爆させ誘爆によって人工的に津波を作り出すとは誰も考えまい。


 余程の天才か、余程の馬鹿。そのどちらかだろう。





「まあ、空母がいなかったのが幸運だった。しかし、護衛の空母さえ付けないのは何か意味があるのか?」


 バリーニはそれが疑問だった。


 これは、何か裏がある。そう思った。





 この、疑問が解消するのには、まだ幾何かの時間が必要だった。

 こぼれ話 トラファルガー沖会戦をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回からこぼれ話を2週間かけて投稿します。内容はヨーロッパの情勢とオアフ島での海上自衛隊と航空自衛隊の戦闘に近い話を投稿します。2話づつの投稿になります。

 次回の投稿は3月15日を予定しています。

 その前に3月11日にこれまでの登場人物紹介と今後の内容についての予告をします。登場兵器の説明も予定していますが、まだ、投稿する準備段階ですので遅れる場合もありますので、ご了承ください。

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