表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/454

荒ぶる妖蝶 番外編 踊る妖蝶

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 1942年1月中旬。


 戦艦[大和]の出港とほぼ同時刻に1機のMB-22Jが厚木飛行場より離陸した。


 台湾の航空基地を経由し、向かうのはフィリピン近海の洋上に待機中の輸送艦[しょうない]であった。


 その機内には総隊司令官付特殊作戦チーム副主任の霧之と特別顧問の辻、2人の護衛として、この任務に選抜されたレンジャー隊員と大日本帝国陸軍より憲兵が乗り込んでいた。





「霧之少佐」


 離陸してずっと、全員が無言という異様な空気に耐えかねたのか、辻が話しかけてきた。


「何でしょう、中佐?」


 隣に腰掛けてきた辻に、霧之はさり気なく距離をとって座り直した。


「・・・貴官が私の事を嫌っているのは十分理解している。そしてその理由も・・・しかしだ、我々の任務を考えてほしい。個人的感情はこの際封印するべきではないかと私は思うのだ」


「わかっています。私は自分の職務はちゃんと果たします」


 資料に目を通しながら、霧之は答えた。


 霧之にすれば、史実の辻は許せないが、今自分の目前にいる辻はどうでもいいというのが本音である。


「予定通り、南方作戦が実施されていれば・・・」


 小さな声でつぶやく。


 フィリピンで足止めを食ってしまったため、シンガポール攻略が大幅に遅れた。


 シンガポールに駐留するイギリス軍に、時間を与えてしまった。


 史実であれば、とっくにマレー半島に進撃しているはずが、すっかり歴史が変わってしまった。


 予定では、第2航空艦隊の航空攻撃で東洋艦隊のZ部隊を殲滅するのと同時進行で、第2艦隊の援護の下、親日派であるタイ王国に、事前に特使を派遣して王国領内通過の許可を得ていたタイ王国のシンゴラ、パタニへ上陸。第2護衛隊群は、イギリス領であるコタバルへの陸軍と陸自の強襲上陸の上陸支援を行うはずであった。


 しかし、この作戦は最初の段階で破棄され、予備案の1つである第2案が実行される事になった。


 霧之は昨年、密かに入国したタイで元満州国の警察官で現在は帝国陸軍の諜報員の軍属と共にある人物に会い、タイとマレーの国境近くのジットラで構築中のジットラ・ライン(ジットラ陣地)の、要塞構築の妨害工作を要請していたが、ある程度想定の範囲内ではあったのだが、こちらの作戦が遅延した事で彼らにかなり負担を掛けてしまっている。


ちなみに、その人物の事を「虎さん」と御堂は言ったが、第25軍司令官であるマレーの虎、山下奉(やましたとも)(ゆき)中将の事ではない。


「・・・カッコ良いい男性はやっぱりいいな・・・」


「・・・は?」


 急に、つぶやいた霧之の言葉に、辻はポカンとなった。


「あ、中佐の事じゃありません。私、眼鏡男子は好みじゃないので」


「・・・・・・」


 地味に失礼なセリフを述べながら、霧之はドイツ大使館経由で海軍軍令部第3部からもたらされた急報に目を通していた。





 イギリス海軍の、戦艦[キング・オブ・ジョージ5世]を旗艦とする艦隊が、イタリア海軍に制海権の大半を奪われた地中海を強行突破。


 スエズ運河を通過し、イギリス領インド帝国の軍港に寄港、である。





 その目的は、フィリピンからのアメリカ軍の撤退と、マニラに戻ったケソン大統領によって宣言された、フィリピン独立の宣言を受けて我らも続けと言わんばかりに、イギリス領各地でくすぶり始めた、独立機運を牽制するためだろう。


 そのためには、彼らの目前で日本海軍を撃破する必要がある。


 イギリス海軍は威信を賭けて、全力で日本艦隊を潰すつもりだろう。





 それに呼応して、オランダ海軍とオーストラリア海軍も動き出すだろう。





 南洋の海は更なる血を欲しているようだった。





 一方の[大和]を旗艦とする第1艦隊はトラック諸島へ寄港、新世界連合軍を表敬訪問した後、昨年12月8日の開戦と同時に第8艦隊と海自の秘匿艦隊の共同作戦によって陥落したグアム、ウェーク島に寄港した後、ハワイへ向かう事になる。





 その[大和]に乗艦した石垣は、喫煙室で1人ぼんやりとしていた。


 史実と異なり、[大和]には様々な設備が追加されている。


 女性兵士用の居住区と喫煙室等だ。


 もっとも、この時代は分煙などされていないので、わざわざ喫煙室を利用する者は、ほとんどいなかったが。


 大日本帝国は徴兵制度に幾つかの変更を加えた。


 男子の徴兵は変わらないが、志願制で女性兵士の募集を、試験的に実施を始めたのだ。主任務は後方支援や衛生兵としてだが、女学校等から士官候補生を募ったところ意外な事にかなりの人数が集まった。


 その女性たちに、自衛隊から女性自衛官を招いて教育をする事になったのであった。


 その第1期生から選抜された女性士官候補生も数名乗艦している。





「はあ~」


 煙草の煙と共に、何度目かわからないため息をついた。


 厚木飛行場での1件で、ずっと考えていた。黒島に指摘された通り、自分はメリッサの問いかけから逃げた。


 あの時自分は、なんと答えれば良かったのか・・・ずっと、自問自答をしていた。


「はあ~」


「だから、ため息をついていると運が逃げると言っているだろう」


「ぎゃあぁぁぁぁ!!」


 心臓が止まる程驚いた。


「何だ、その幽霊に会ったような反応は?」


「み・・・みみみ・・・御堂1佐・・・いつからそこに・・・」


「君が喫煙室に入室する前からだ」


「・・・すみません」


 まったく、気が付かなかった。


「・・・かなり堪えているようだな」


「・・・・・・」


「まあ、仕方あるまい。人間に他人の心の内の傷が、わかるはずはないからな。今の君ではどれだけメリィに同情しても所詮は他人事に過ぎん」


 煙草に火を付けながら、御堂は突き放すような冷たい口調で言った。


「それに、新世界連合軍に志願した連中はどいつもこいつもワケありだ・・・ドラマや小説の登場人物のような、甘々な気持ちの同情など通じない。肝に命じておけ」


「あの、1つ聞いていいですか?」


 石垣には気になった事があった。


 御堂はメリッサの事をメリィという愛称で呼び、メリッサは御堂の事をラン大佐と呼んでいる。


 これは、2人の間に深い信頼があるからだろう。


「私とメリィが初めて会ったのは、彼女が陸軍士官学校に在籍していた時だ。当時、私は教官として派遣されていた」


 石垣の聞きたい事を先読みしたのか、御堂は紫煙を吐きながらそう答えた。


「それで?」


 どうやって、御堂はメリッサの信頼を得る事ができたのか?聞いてみたかった。


「女は恋人以外の男に、軽々しく過去を語ったりしない。自分で考えろ、他人の答を参考にしても、それは君の答ではない」


 煙草の火を消して、御堂は立ち上がった。


「私の持論は、人間が死に絶えない限り、恒久的世界平和はない。だ」


「・・・・・・」


 確かに、人間が誕生してから世界のあちこちで戦争の火種が絶えた事はない。しかし、人間は学習する生き物だ。失敗から学んでいく限り、いずれは実現できる。


 そう言い返そうと思ったが、やめた。こんな、本で読んだような意見しか言えない今の自分では御堂の納得する答を出せそうにない。


「違うと言うなら、それを証明してみせろ。私の目の前でな」


 そんな石垣の様子を見て、吐き捨てるような口調で御堂は言い捨て、喫煙室を出て行こうとしたが、一瞬だけ石垣を鋭い視線で見た。


 この世のありとあらゆるものを憎悪する目。


 石垣はそう思った。

 荒ぶる妖蝶 番外編をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ