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荒ぶる妖蝶 終章 蠢く思惑

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです

 トラック諸島、トラック泊地。





 その錨地に停泊しているニューワールド連合軍旗艦指揮艦[ロッキー]。


 その個人用の執務室で、提出された報告書に目を通して彼はため息をついた。


「またか・・・」


 ニューワールド連合軍総参謀長ヴィクトル・バルツァー大将。メリッサの父親である。


 なぜメリッサと姓が違うのかと言うと、メリッサは父親を嫌い、母親の姓を名乗っているからだ。


 思えば全ては湾岸戦争から始まった。


 イラクがクェートに侵攻した事から始まった戦争。それに、多国籍軍の1将校として参加したバルツァーは、戦功を挙げ名誉勲章を授与された。


 そんな栄誉も吹き飛ばしてしまうような悲劇。


 テロリストにハイジャックされた、飛行機にたまたま搭乗していた妻と上の娘はよりによってメリッサの誕生日に命を落とした。


「・・・殺したければ、何故私を殺さない」


 テロリストにもテロリストの大儀と言い分はあるだろう。


 だが、それを向ける矛先が完全に間違っている。


 深くため息をついて、バルツァーは目を閉じた。


 メリッサが問題を起こしたのはこれで3度目だ。


 イギリス軍士官との乱闘騒ぎ。さらに別の日には口論から始まり挙句に相手のドイツ連邦軍士官に軽傷を負わせた件等である。


 どちらも、意見の違いがきっかけとなった。


 この2件に関しては、双方の上官の話合いの上、叱責処分で片がついた。


 別に元に時代でもよくある事である。


 担当したMPも調書は取ったものの、当事者に一応嫌味を言って不問にした。


 バルツァーにまで報告は届いていないが、フランス軍ともカナダ軍ともトラブルを起こしたらしい。


 アメリカ陸軍の方から、ニューワールド連合軍の協調にひびを入れかねないメリッサの傍若無人な言動に控えめではあるが苦情が届いている。


 父親には娘の気持ちがわかる。子供じみているが、政治宣伝の道具にされる事への精一杯の抵抗なのだ。


 自分がただの父親なら、絶対に娘を政治宣伝の道具になどさせなかった。


 どんな手段を使っても娘を守っただろう。しかし、自分にはできなかった。


「失礼します」


 副官が入室してきた。


「菊水総隊より、大日本帝国海軍第1艦隊がトラック諸島に向けて、出航したと連絡が入りました。到着日時は予定通りとの事です」


「了解した」


「・・・・・・」


「どうした?」


 何か言いたそうな副官の様子に、バルツァーは問いかけた。


「いえ、何でもありません」


「・・・何故、ケッツァーヘル少尉を日本に行かせたのか?かね」


 副官の言いたい事は予測がつく。


「・・・はい。ケッツァーヘル少尉なら、今回のような問題を起こすであろう事は予測できていました。自衛隊だけならともかく、大日本帝国軍ともトラブルになれば、今後の作戦に支障が出る事は否めません」


「その通りだ。親バカと言われるのは承知の上だか、私はあの娘を救いたいのだ。このままではメリッサは壊れる。悲劇の子としての重圧に押しつぶされて・・・あの娘を救えるのは国を守る国軍でありながら、国民に否定されるという矛盾を背負った不確定な存在である自衛隊の自衛官しかいないのではと思うのだ。幸い、帝国海軍の山本長官は理解を示してくれたようだからな。彼が日本人に軍神として慕われているのもわかる気がする」





 副官が退室した後、人の気配を感じてバルツァーは目を開けた。


「ノックもなしに入室か?」


 その人影に声をかける。


「最高司令官より、新たな命令が下った。昨年の12月8日に起こった日本の離島占拠事件を受けて、大統領命令の予備プランを発動。その準備に入る。以上だ」


 その人影の発した声は、意外に若かった。


「・・・ルーズベルト大統領の暗殺か?」


「・・・あの男は、自分の選挙公約を破った。あまつさえ、禁止条約に違反して禁止兵器を使用し、民間人を無差別に殺傷した。日本には本庄警視監がいる事を忘れない事だ。不要なカードは早々に切り捨てたほうがいい。新しいアメリカの歴史に汚点を付けないためにも、ルーズベルトには栄誉ある大統領として歴史から退場してもらう。そのついでにホワイトハウスの大掃除もする予定だ。初代CIA長官の仕事を取ってしまうがね」


 人間としての感情が感じられない声は告げた。


「本庄警視監の事を誰よりも知っているのは君だな」


「・・・・・・」

 

 気配は完全に消えていた。





「CIA(アメリカ中央情報局)の闇の部隊・・・そして、前大統領の直轄部隊[ケルベロス]か・・・」


 バルツァーはつぶやいた。


[ケルベロス]。この存在を知っている者はかなり少ない。CIAでも長官を含めてわずかである。彼らはあらゆる場所に存在する。


 大統領補佐官、連邦捜査官、軍人、警察、マフィア等あらゆる組織の中に潜む。しかし、彼らがどんな活動をするかそれは誰も知らない。


 先ほどバルツァーに話しかけた謎の人物はヒントをくれた。


「死人に口なし」である。


「血に飢えた番犬・・・」


 バルツァーは自分に話しかけた謎の人物の通り名を口にした。





 日本とアメリカの闇が産み落とした化け物。





 永遠に闇の世界を彷徨う、地獄の番犬。

 荒ぶる妖蝶 終章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は3月8日を予定しています。

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