荒ぶる妖蝶 第6章 新しき世界への誘い 3 それぞれの決断
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです
[こんよう]の娯楽施設の一角のゲームセンターで、マッカーサーとハートはカードゲームのテーブルで顔を会わせていた。
ゲームセンターといっても、一般的なゲーセンではない。
幾つかのテーブルゲーム等が出来るテーブルと、ダーツ、ビリヤード等の台が並び、かなり広いスペースを取っている。
どういうわけか、卓球台もある。
ちなみに、この[こんよう]の設計者はボーリング場も設置したかったのだが、スペースの関係上、思いっきり却下されたらしい。
ゲームの道具はサービスカウンターで借りる事ができる。
「・・・驚いたな・・・宇宙人だとか幽霊だとか言われていた者が実は未来から来た者たちだったとは・・・」
ハートも海軍士官から説明を受けたらしい。
恐らく直後は自分と同じく動揺しただろうが、今の表情は落ち着いていた。
「正直、今も信じがたい話ではあるがな・・・新世界計画とは・・・」
マッカーサーはアザができた首筋を押さえながら、つぶやいた。
「・・・貴官はこれからどうするつもりだ?正直、この事実を包み隠さず話してもルーズベルト大統領や主戦派の議員を説得できるとは到底思えないのだが・・・」
手持ちのカードを2枚捨てて、テーブルの上のカードの山から2枚を取りながら、ハートは独り言のようにつぶやいた。
「ハワイを失陥し、アメリカ本土まで空爆されたのだ、引き下がれる訳が無い」
そう言いながら、パイプに火を付けようとしたマッカーサーは、自分の後ろにいるPMCの社員の「ごほん!」という咳払いにハタと気が付いた。
ここは禁煙である。
ゲームセンターの壁には「賭け事禁止」「飲酒禁止」「禁煙」と英文で書かれた張り紙が張られている。
「しかし、窮屈な事が好きな民族だな、日本人というのは・・・」
肩を竦めてマッカーサーは、ぼやいた。
未来のアメリカ軍士官に会い、彼らの同志になる事を約束したもののそれを実現する多難さを考えれば、気が遠くなりそうだ。
「日本軍は我々を、アメリカ本国に送り届ける用意があるそうだ。バターン要塞に立て籠もっている将兵に投降するよう呼びかけて欲しいと要請された」
「・・・何を考えている?」
「フィリピンを独立させるそうだ。これに関しては、フィリピンの独立を尊重し、支持すると明記した日本の天皇の公文書をケソン大統領に渡す用意があるそうだ。ただ、イギリスとオランダとの講和を結ぶまで、我々の使用していた軍港と航空基地、コレヒドール島を使用させてほしいと言っているらしい」
「・・・・・・」
マッカーサーは腕を組んで、目を伏せた。
事実上、これが成功すれば日本はオランダ領東インド諸島とイギリス領のマレー半島を分断する事になる。
イギリス領の香港を占領せず残しているのは、イギリスとの交渉をいつでも持つ事ができるようにするためだろう。
しかし、アメリカが黙って見ている訳が無い。
ハワイは失ったが、ウェーク島を中継地としてグアムを前線基地にして再起を図るはずだ。
「・・・この開戦は避けようと思えば避けられた・・・私はそう考えている」
ハートはポツリとつぶやいた。
「・・・少なくとも日本は自分たちから変わろうとする姿勢を見せた。それを認めて粘り強く平和的な交渉を本国政府はするべきだったのではないか・・・そう思う」
「・・・・・・」
「これ以上、無意味な戦闘で国民である兵士たちに犠牲を出したくはない・・・難しいが大統領や政府に働きかけようと思う。貴官はどうする?」
問いかけられて、マッカーサーは目を開け組んでいた腕を解いた。
「未来のアメリカ人と同志になる事は約束した。それを違える気はない・・・しかし、大日本帝国の日本人と未来の日本人に関しては保留にしておく。俺は知りたい、連中がどんな人間なのかを見極めたい。俺は日本に行く、この目で連中の本当の姿を見てみたいのだ。結論を出すのはそれからだ」
「陸軍参謀本部の許可も受けずにそんなことをすれば、逃亡罪・・・いや裏切り行為とも、利敵行為とも取られかねない・・・場合によっては、査問会・・・いや軍法会議にかけられるかも知れないぞ」
「覚悟の上だ。それにそれは貴官も同じだ。貴官は海軍参謀本部に全てありのままの事実を伝えるつもりだろう、狂人の戯言と切って捨てられる可能性があっても」
「そうだ、このまま無駄に血が流れるのを黙って見ている訳にはいかない」
そう言ってハートはニヤリと笑った。
「キングとジャックのツーペアだ」
ため息を付いてマッカーサーは、手に持っていたカードを見せた。
見事にブタだった。
同じゲームセンターの別のテーブルでは、何やら「おおっ!」という歓声が上がっている。
「「?」」
ハートとマッカーサーは同時に振り返った。
病衣に身を包んでいるため、日本人以外はアメリカ兵かイギリス兵か見分けがつかないが、数人の男たちに囲まれて2人の日本人がカードゲームをしているらしい。
1人は病衣だから日本軍の兵士だろう。雰囲気から未来の兵士、ジエイカンだろう。
もう1人は女性であった。上着の下に着ているユニホームから売店のスタッフだ。
2人はその人だかりの後ろから覗き込んでみた。
何やら絵の描かれたカードがそれぞれの前に並んでいる。
見物している兵士たちは、将校がすぐ側にいるのも気付かず熱心に眺めている。
カードゲームの一種らしいが、よくわからない。
オフェンスとディフェンスを交代しながら、手に持ったカードを出したり、置かれたカードをひっくり返したりと、色々やっている。
2人の持っているカードは全て、絵柄が違っていた。
横のカードの山から1枚を引いた女性がニコッと笑う。
「手札からカードの効果を発動。この効果で君のポイントは0、私の勝ち」
「・・・参りました・・・」
東洋人の年齢はわかりにくい。少年にしか見えない青年は女性に頭を下げて降参した。
「変わったゲームだな。ルールを教えてもらえないか?」
「そのカードを見せてくれ」
興味津々で兵士たちが口々に話しかけている。
当然と言うべきか、話しかけているのは女性スタッフのほうだ。
戦場ではほとんど女性がいないのだから、こういう時は女性と会話したいと思うのは男の本音かもしれない。
「う~ん、ごめんなさい。もう休憩時間が終わるから・・・後で良ければ・・・」
申し訳無さそうに女性は微笑して立ち上がった。
残念そうな声が上がる。
「そうだ、君。この人たちに、ルールを教えてあげて」
「へっ?・・・まあいいですけど・・・」
いきなり話を振られた青年が、気抜けた声を上げた。
「・・・でもこのカードゲームがこの時代で世界的に流行っちゃうと別の意味で歴史改変になっちゃうんですけど・・・」
女性の代わりに質問攻めに遭っている青年がボソリとつぶやいた。
そんな青年を放っておいて、後片付けを始めている女性のポケットから電子音の音楽が流れて来た。
「うわっ、ヤバッ!店長、怒ってる!」
手のひらサイズの板のような物を取り出して、それを見た女性は大慌てで立ち去って行った。
「今のは、何なのだ?」
「ええと・・・通信機・・・みたいなというか・・・電話というか・・・」
「電話?馬鹿な、コードが無いじゃないか。それに話し声も聞こえなかった」
「・・・いくら、船内で使用可能だからってスマホでメール使わないでよ・・・説明できないよ・・・」
取り残されて、撤退の機を逃した青年が半泣き顔でぼやいた。
「・・・・・・」
いかに中立的な病院船といえどもここは敵国の施設である。
この変に和やかな雰囲気は何なのだ。
同国人以外は捕虜であるのだが、ルールさえ守っていれば客人として扱ってくれる。
「ある意味天国だな・・・」
「戦争とは何だろうな・・・」
ハートは考え込むようにつぶやいた。
「我々は立場上、戦場で敵を殺せと部下に命令を出す。それは敵国の軍人も同様だ、だが戦場から一歩離れれば我々も彼らも同じ人間だ、肌の色、信じる神、思想が違う事はあってもな・・・私たちはそれを忘れていた・・・」
「よもや80年後の未来人に教えられるとは・・・不甲斐ない事だ。本来は我々が先達として彼らを導く存在でなくてはならなかった」
「しかし、これはチャンスだ。日本人もより良い未来を選択しようとしているのだ、今からでも遅くない。これまでの世界を支配していた古い体制を変えて真の自由主義を構築する」
「そうだな、我々にもそのチャンスが与えられたのだから」
2人は決意のこもった目でうなずきあった。
本庄は、頃合いを見てケソン大統領に面会を申し込んだ。
今回はすんなりと承諾された。
先に応接室で待っていると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
本庄は立ち上がった。
「失礼します。ケソン大統領閣下をお連れいたしました」
糸瀬がドアを開けて声をかけてきた。
「ケソン大統領閣下。突然の面会の申し込みに応えて頂き、ありがとうございます」
本庄はドアの側で出迎えて一礼をする。
「閣下を乱暴な形で、こちらに招待した事をまずお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。閣下の側近の方々は、我々が責任を持ってマニラにお送りしております」
「・・・・・・」
ケソンは無言で本庄を見詰めていた。
「どうぞ、お掛け下さい」
応接用のソファーに腰掛けるように促した。
「団長、私は外に・・・」
「いや、イトセにはこちらにいてもらおう。構わないだろう、ミスターホンジョウ?」
「はい」
本庄は糸瀬にうなずいた。糸瀬はドアを閉めて、壁の側で不動の姿勢で立つ。
「それで、私に話とは?」
「本来ならこれは、私ではなく文民の代表が申し上げるべき事なのですが、残念ながら諸事情により、私が彼らの名代を務めさせて頂きます」
警察官は文官というわけではないが、自衛官(軍人)では説得するにしても力不足かもしれないという懸念から、本庄に鉢が回って来たのだが、自分で本当にいいのかと疑問には思う。
大日本帝国政府も、未来の事を説明するには自信を持てなかったらしい。
史実というものを突きつけられても、自分たちも自身を納得させるのに時間が多少なりともかかったという経験があったからだ。
「これから閣下に、お見せする資料がございます」
「この国の未来についてかね?」
「?」
「イトセが語ってくれたよ、自分たちは過去の過ちを正し、より良い未来を築くために80年後の時代から来たと」
「・・・・・・」
尋問の専門家の警察官が尋問に引っ掛かってどうする?という表情で本庄は糸瀬を見た。
糸瀬は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「君たちの史実では、私はマッカーサー大将らと共にフィリピンを脱出し、アメリカへ行く事になっているそうだね。そして、この国は戦場になる。多くの民衆を巻き込んで日本とアメリカの覇権争いの犠牲となって・・・私は遠いアメリカからただそれを見ているだけだ。そしてフィリピンに帰る事無くアメリカで死ぬ事になる」
「しかし、閣下はフィリピンの英雄です」
「造られた英雄に何の価値がある!!」
急にケソンは声を荒げた。
「私が英雄になれたのは、祖国を独立させるという志半ばで死んだからだ。もし、日本の無条件降伏の後に生きて祖国に帰ったとして誰が英雄と思う?自分だけ安全な場所に逃げた卑怯者。おそらくそんなレッテルを貼られるだろう」
「・・・・・・」
「この国は元々1つではなかった、宗教、部族単位でバラバラで1つになれず、スペインに統治され、アメリカに売り渡されたも同然の扱いを受けた。やっと、独立の機会が訪れたと思えば君たち日本人の侵攻だ。私は決めた、私はこの国を守る。アメリカや日本等他国の干渉を受けない完全な独立国家を目指す」
「・・・・・・」
本庄は一言も口を挟まず、ただ聞いていた。
その口許に微かに笑みを浮かべる。
「・・・私の知る史実のケソン大統領もきっと、貴方のような方だったのでしょうね・・・」
そう言って、本庄は預かっていた書簡を取り出した。
「天皇陛下からお預かりした公文書です。陛下はフィリピンの独立を尊重なさっておいでです。そして、対等の友好関係を築きたいとお望みであらせられます。もしこのような場合でなければ直接閣下にお目にかかりたいと申しておいででした」
「・・・・・・」
ケソンは渡された日本語と英文で書かれた書簡に目を通した。
「それで、君たちは我々に何を望む?」
「フィリピンの独立宣言。それが、東南アジア諸国の独立の希望と先駆けとなるでしょう」
管理世界。
歴史改変の計画を実行している3人組の1人、ラミエルは自分たちにこの仕事を命じた上司の許を訪れていた。
「やあ、仕事は順調のようだね」
上司はにこやかに応対した。
「1つお聞きしたい事があるのですが」
「何だね?」
「我々に何か隠していませんか?」
前置き無しにラミエルは聞いた。
上司は無言で続きを促した。
「我々が過去に送った軍隊、菊水総隊にオマケでくっついて来た軍隊についてです。連中の中心になっている軍隊は、我々がこの計画を日本政府に伝える前から準備を整えていたふしがありますので」
「ふむ、そう思う根拠は?」
「菊水総隊の石垣という人物が、ダニエルとザムエルに聞いて来たそうです。自分たちが歴史に介入する事で起こりうるであろう、バタフライ効果。これは彼らの世界の空想科学小説とかいう物語で語られる現象なのだそうですが、それではあり得ない未来だけに起こる現象が、すでに過ぎ去り決まったはずの過去にも影響を及ぼしているのではないかと。現実と物語をいっしょにするのはどうかと思うのですが、私もそう考えました」
「中々人間にしては鋭い思考を持っているな・・・その人物は」
上司は感心したようにつぶやいて、立ち上がった。
「実はこの歴史改変の実験は以前にも計画されていたのだ。その時の実行者は私とあと2人いた。この時は反目しあう2つの大国の指導者に働きかけた。この時の指導者は双方共、両国の現状を憂い、何とか現状を打破しようとしていたから計画は順調に進むかと思われた。しかし、一方の指導者はその計画を知った反対派の陰謀で暗殺され、もう一方は国内問題の失敗を理由に指導者の座を追われ、計画は次期指導者によって白紙になった。というよりもみ消された・・・それで、我々もこの実験を中止した」
「他の2人はどうなったのですか?」
「1人は、次の指導者によって軟禁されていた。もう1人は消息不明だ・・・恐らく密かに始末されたのではないかと思われる・・・我々は人間と違って、寿命が無い不老の存在だが不死と言う訳では無い」
「・・・・・・」
「この実験を新たに再開しようとしたのは、実は軟禁されていた仲間から連絡があったからだ。その大国は、新たな時代の幕開けと同時に小さくない傷を負った。そして、考えたらしい・・・今を変えるにはもう一度過去をやり直すしかないと・・・」
「私たちはその大国に敗れた国家を歴史改変の実験の主役に選びましたが?」
「それはそれでいい、どこが中心になっても大筋は変わらない。我々は課程と結果を記録するだけだからね。あの世界の歴史を創るのは彼ら人間たちだ・・・そうそう、ダニエルとザムエルに伝えておいてくれないか、近いうちにもう1人協力者が顔を出すだろうから、彼女から詳しい説明を受けるといいとね」
「やれやれ、この事を知ったら、あの2人はしばらく開いた口が塞がらないだろうね」
上司の執務室を退出したラミエルは苦笑を浮かべてつぶやいた。
荒ぶる妖蝶 第6章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は2月1日を予定しています。
みなさん、お待たせしました。IFの外伝ですが、1月31日に昭和事変篇を全篇投稿いたします。




