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碧血の海 終章 ハワイ駐留陸軍司令官着任

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 1941年12月中旬。


 ハワイ、オワフ島の真珠湾。


 日本軍占領後、急ピッチで復旧工事が進む中、1隻の輸送艦が駆逐艦に護衛されて、軍港に入港して来た。


 陸軍の幕僚たちと第1航空艦隊司令長官である南雲(なぐも)忠一(ちゅういち)中将、第1護衛隊群司令の内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補等が勢ぞろいする中、輸送艦から降ろされた内火艇が、桟橋に横付けされた。


 内火艇から降り立った、陸軍中将の階級章を付けた男は、ハワイの大地を踏みゆっくりとした動作で、海と大地を見回した。





「お待ちしておりました。駐留軍司令官殿」


 一同を代表して陸軍の先任将官が、挙手の敬礼をする。


「この度、ハワイ駐留軍司令官の職を拝命いたしました栗林(くりばやし)忠道(ただみち)中将です。この間まで少将であったため、至らぬ所もあるでしょうが、よろしくご指導願います」


 穏やかに微笑して、栗林は答礼した。


 無言でそれを見ていた南雲だったが、内心では少し驚いていた。


 本来、大日本帝国軍の司令官人事は年功序列で決まる。陸軍の事情には詳しくはないが、候補は他にも大勢いたはずだ。


 戦時特例で昇進したとしても、栗林の司令官就任は異例と言っていい。


「私はアメリカに駐在武官として派遣された経験がありますので、そこを考慮されたのだと思います」


 栗林は、南雲の気持ちを読んだのか、そう答えた。


「成程」


 短く答えて了解したものの、南雲の内心は複雑であった。


(陸海軍両大臣も山本長官も幽霊総隊を重用し過ぎる)


 恐らく、この人事も彼らの意見が反映された結果だろう。


 彼自身、菊水総隊の実力を認めてはいた。


 彼らの助力があったからこそ、アメリカの哨戒網に引っ掛かる事無くハワイ攻略を成功させる事ができた。


 まさか、たった数日で北太平洋の半分の制海権を確保するとは誰も思わなかっただろう。


 しかし、これは卑怯なのではないか・・・


 軍人としての責務は理解しているが、武士道精神から考えればどうしても納得いかないのだった。


 もちろん、あの悲惨な未来を防ぎたいという気持ちは誰よりも強いと自負している。


 だが、それは自分たちですべきことではないか。どうしても、その気持ちを捨てきれないのだった。





「君が内村君だね。霧之少佐から色々話を聞いているよ」


 ハワイ駐留陸軍の幕僚たちと挨拶を交わしてから、栗林は第1護衛隊群司令の内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補に声をかけた。


「はい、お目にかかれて光栄です」


 資料でしか知らない人物と話せるというのは、何とも言えない感動がある。


 しかし、霧之の経由となると変な事を吹き込まれていないかと余計な心配をしてしまう。


 栗林は、キョロキョロと周囲を見回している。


「いかがされましたか、閣下?」


「君の先任参謀の村主大佐はどちらかね?」


「村主は所用で不在です」


「そうか、それは残念だ。霧之少佐の話では絶世の美女だそうなので、是非会ってみたかったのだが・・・」


「・・・・・・」


 一瞬、内村は言葉を失った。


 絶世の美女?誰が?・・・しばらく思考が停止した。


「ち・・・近いうちに挨拶に伺わせます」


 引きつった微笑を浮かべて、裏返った声で答えた。


(霧之~何てことを・・・)


 もしかして、俺は村主のオマケでしかないのか?・・・いや、これは栗林の場の空気を和まそうとするジョークだ。


 内村は無理やりそう思うことにした。


「ゴホン!」


 南雲が咳払いをする。


「栗林君、今の発言は不謹慎だ。ここは最前線なのだ、アメリカが反攻に移れば戦場になるだろう。そのように緩んだ気持ちでは困る」


「失礼しました。しかし、張りつめ過ぎた弓の弦は肝心な時に切れる事もあります。時には緩む事も必要ですよ」


「・・・・・・」


 栗林の言葉に、南雲はほんの一瞬だけ険しい表情を浮かべた。


(いけない・・・)


 双方の意見は半分正しく、半分正しくない。


 アメリカは、攻勢に出る時は完璧な態勢を整えて来る。


 その、疾風怒涛の攻勢を防ぐには、陸海軍と自衛隊が完璧な協力態勢で臨まなくてはならない。


 内村は一抹の不安を覚えた。





「何とかは、死ななきゃ治らないって言うのは本当ね」


[いずも]の自室で、予想されるアメリカ軍の反攻作戦に対する作戦案を考えながら、村主はつぶやいた。


 第1航空艦隊の自衛隊に対する対応は、南雲の複雑な心境を反映してか、ややトゲトゲしいものがある。


「何が目的かがわかっていれば、どうするべきかわかるでしょうに・・・優秀でも頭が固いのは考えものね」


 自分はあくまでも、第1護衛隊群の一幕僚でしかない、その権限を越えてまで発言するつもりはないが、必要ならどれほど卑劣で下劣で愚劣な手段であろうと、使う事に躊躇いはない。


 他人がどう思おうと知った事ではない。


 ノート型パソコンに様々な状況に応じての作戦案を打ち込みながら、村主の口許には冷たい微笑が浮かんでいた。





「艦長」


[あかぎ]のウイングで1人、月を眺めている神薙(かんなぎ)真咲(まさき)1等海佐に副長の切山(きりやま)(ひろ)()2等海佐は声をかけた。


「どうした、何かあったのか?」


「いえ、コーヒーを淹れてきました」


 そう言って、カップの1つを渡す。


「ありがとう」


 礼を言って受け取った神薙の表情は、曇っていた。


「・・・司から手紙が来た・・・ハワイ駐留軍に第7機甲師団が組み込まれる事が決定したと・・・」


「確かにハワイ防衛には、機甲師団の投入は必須ですね」


「・・・・・・」


 神薙は何も言わなかったが、切山は彼女が何を考えていたかはわかる。


「・・・ハワイ駐留軍に、第7機甲師団が組み込まれると聞いた時、胸が締め付けられる思いがした。何とか、そうならないで欲しいと願っていた自分に気が付いて愕然とした・・・」


 生真面目な神薙の性格を考えれば、自衛官としての自分と、母親としての自分、2つの感情の違いに悩み、例え一瞬とはいえ、母親の感情を優先してしまった事を恥じているのだろう。


「・・・・・・」


「司が知ったら、私を叱るだろうな・・・」


 自嘲気味に笑って、神薙はコーヒーを1口すすった。


「つまらない事を聞かせた。忘れてくれ・・・それと、おいしいコーヒーをありがとう」


 いつもの表情に戻って、神薙は艦橋に戻って行った。


「・・・それが、親ってものですよ」


 コーヒーを1口すすり、月を仰いで切山はつぶやいた。

 碧血の海 終章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月30日を予定しています。

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