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碧血の海 第7章 南海の海戦2 マッカーサーの決断

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

(考えが甘かった)


 久賀は、自分のミスを認めざるを得なかった。


 マレー半島上陸作戦を、電撃的に行うにあたり、厄介なのがフィリピン駐留アメリカ軍の存在だった。


 フィリピン政府には、水面下の外交交渉で駐留アメリカ軍と事を構えない限り、中立の立場を取るという約束を取り付けているものの、自分たちと一緒に派遣されて来た外交官の話では、日和っていると考えていた方がいいと忠告を受けていた。


 どちらにも、いい顔をしているだけだ。と、かなり手厳しい感想を漏らしていた。


 1946年には独立を控えているフィリピンにとっては、日本の全アジアの解放という主張には、複雑な心境だったのだろう。


 東南アジアが戦場となった場合、重要な拠点といえるフィリピンを、手放したくないとアメリカは考えるかもしれない。そうなると、独立の約束を延期ないし撤回されかねないと恐れるのも当然かもしれない。


 そういった思惑もあり、帝国海軍と協議を重ねた結果、史実通りのマレー半島侵攻を決定。


 あえて、フィリピンを無視する事にしたのだった。


 もちろん、事前に無人航空機による高高度からの偵察情報と、現地に潜入させた特戦群の小隊からの情報を元に、アメリカ軍の戦力増強がされていない事は確認されていた。


 マッカーサーは、軍司令部から日本軍に先制攻撃をさせるように命令を受けているはずだ。


 これが、判断を狂わせた。


 こちらが手出しをしなければ、手を出してこない。


 誰が決めた訳では無いのにそう思い込んでいたのが、大きな落とし穴となった。


 向井が、隊規違反まがいの行動で、わざわざ自分の前に現れたのも自分がそれを気に病むのを心配してくれたからだろう。


 口には出さなかったが、どんな状況下でも全力を尽くすから、お前も思い切りやれという心の声は、しっかりと届いていた。


 あの男は、顔に似合わずそういった細やかな心遣いを示してくれる。


「相変わらず、お節介な奴だ・・・」


 苦笑がもれた。





 CICに久賀が戻った時には、峯山はすでに海軍、陸軍、陸自への連絡を済ませていた。


「陸軍と陸自、第2艦隊からはすでに了解を得ている。後は、第2航空艦隊からの連絡待ちだな。それと、台湾航空基地の第6航空群にも支援を要請した」


「・・・申し訳ありません。私の・・・」


「ゴホン!」


 久賀の言いかけた言葉を峯山は咳払いで遮った。


「少し予定が変わっただけだ」


「はい」


 峯山はこう言っている「軍師(首席幕僚)が、公の場で自分の非を認めるな」と。


「ところで、首席幕僚。貴官の第2案の作戦名は?」


「はい、[オペレーション・ジャーヌス(ヤーヌス)]です」


「ローマ神話か。名前負けしないようにしなければな」





 一方、第2航空艦隊旗艦[瑞鶴]にも、第2護衛隊群旗艦[かが]から作戦の変更と、艦載機の出動要請が届いた。


「閣下・・・これは・・・?」


 幕僚の1人が、困惑した表情で振り返った。


 第2航空艦隊司令長官の南郷伊之(なんごういの)(すけ)少将は、無言で目を閉じていた。


 通常、艦隊司令長官は中将クラスなのだが、第2航空艦隊は半個艦隊であるため、特例で少将である彼が最高指揮官として認められた。


 そして、南郷は海軍では少数派の航空戦力主流派である。つまり、山本シンパなのだ。


 米英の駐在武官の経験もあり、米英にも理解がある。


 ただ、困った事に海軍軍人らしからぬ、少々風変りな性格の持ち主であった。


 それに、大変な女性好きで知られていた。


 何しろ、女性を見れば片っ端から口説き回っているのだ。成功するか否かは置いておくが。


 そのため、第1護衛隊群の村主と神薙を見て一言「俺の部下に欲しいな」等と漏らした事で、参謀たちに窘められたほどだ。


 2人の容姿を見て、幕僚たちは勝手に変な誤解したようだが、南郷としては優秀な部下は性別に関係なく1人でも多く欲しいというのが本心だ。


 口には出さないが、新設された第2航空艦隊は数が半分と言うだけでなく、自分を含めて指揮官クラスは2流だ。


 レベルでいえば、第1航空艦隊の足元にも及ばない。


「まあ、やれるだけやってみるさ」


 そうつぶやいて、南郷は目を開けた。


「[かが]の峯山司令に連絡。貴官の要請を受けるとな」


「はっ」


 先任参謀が通信士に南郷の命令を伝達する。





「[あしがら][きりしま]に連絡、[かが]、[はるさめ]、[あまぎり]、[おおなみ]、[たかなみ]、[てるづき]は、第2航空艦隊と共に、フィリピン、レイテ島のクラーク米航空基地及びスービック海軍基地を攻撃する。[あしがら]は、臨時旗艦として[きりしま]及び、第2航空艦隊の[金剛][榛名]と共に、現在南沙諸島近海で、潜航待機中の第5潜水隊[そうりゅう]、[うんりゅう]、[はくりゅう]と、東洋艦隊Z部隊を殲滅せよ」


 峯山の命令が飛ぶ。


 すでに、Z部隊の動きは第5潜水隊によって捕捉されている。第5潜水隊は付かず離れずの状態で追尾している。


 久賀の第2案の状況が開始された。





 フィリピンのアメリカ軍基地は、蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。


 日本海軍に打撃を与えようと、出撃した攻撃機は、その艦影すら確認することなく半数以上を撃墜された。


それだけでなく、アメリカ本国からは日本軍によるハワイ占領の報が届いた。


「馬鹿な!!」


 愕然とした表情で、フィリピン駐留アメリカ軍司令官のダグラス・マッカーサー大将は叫んだ。


「ハワイと東南アジアの同時侵攻だと?そんな事ができる訳がない!!」


「司令官!!」


 慌てた様子の通信士が飛び込んできた。


「パナマ運河が日本軍の攻撃で破壊されました!!」


「何いぃぃぃ!!」


「詳しい事はわかりませんが、ラジオ放送で盛んにそのニュースが流れています!!」


「そんな、不確定な情報を報告するな!!」


 副官が、通信士を怒鳴りつけた。


「も・・・申し訳ありません・・・ですが・・・」


「・・・確かに、俺が敵だったらパナマ運河を破壊させ、海軍の増援を遮断するだろうな・・・だが・・・」


 マッカーサーは顎に手を当ててそう答えた。


 どんな方法を使った?海軍軍人ではない彼には、思いつかなかった。


 ただ、妙な噂は聞いた事がある。宇宙人が日本に味方して、様々な技術を伝えた。幽霊船が日本に現れた等、空想科学小説かと言いたくなるような眉唾物の噂だ。


 少し前にタブロイド紙がこの話題を真面目に掲載した事があったらしいが、笑い話で終わったはずだ。


 マッカーサーが考え込んでいるところへ、今度は転がるような勢いで、別の通信士が駆け込んできた。


「た・・・大変ですっ!!!」


 余程慌てていたのか、どこかで転倒したと思しき擦り傷を作った通信士は、ゼイゼイと息をして呼吸を整えている。


「今度はなんだ!?」


「か・・・海軍省からの通信で、日本軍らしき超重爆撃機によって、ノーフォークの造船所と海軍基地が空爆を受け・・・か・・・壊滅したと・・・」


「馬鹿な!?太平洋の西の端から、大西洋側のノーフォークまでどれだけ距離があると思っている!!?」


 声を上げたのは、幕僚の1人だった。


「で・・・ですが・・・」


「そんな、長距離を飛べる爆撃機があるか!!我が軍が開発した試作機でさえ、この基地から日本に行って帰って来られるかどうかなのだぞ」


「・・・・・・」


 普通に考えれば、幕僚の意見は正しい。


「・・・宇宙人が日本に味方したのなら、あり得る話だ」


「司令官!!?」


「陸軍航空隊に第2次攻撃の命令を出せ。幽霊の正体は枯れ草だったとかいう諺が日本にあるそうだ。幽霊か宇宙人かは知らんが、敵が何なのかを突き止めねばならん」


 イギリスの偵察機の報告では、特におかしいとは思わなかったが、当てにならないと判断したマッカーサーは決断した。


「無理に攻撃はしなくていい。だが、敵艦隊の艦影だけは必ず確認せよ」


 無謀なのは百も承知だが、理解不能のままでは対策すら立てる事が出来ない。


「サー、イエス、サー」


 通信士は敬礼をして、作戦室を出て行った。


 広げられた東南アジア全域の地図を見ながら、幕僚たちが対策を話し合う。


 当初の予測では、日本軍はマレー半島を先に攻略すると思われていたが、それも考え直さなくてはならない。


 ハワイを占領され、パナマ運河を封じられたとなれば、太平洋の半分近くの制海権を日本に奪われた事になる。


 こうなると、本国からの支援はかなり厳しい状況だ。


 オーストラリアとイギリスからの支援も、両国ともアフリカ、ヨーロッパ戦線で手一杯で全面的な支援は望めない。


 要請すれば、それなりの見返りを求められるだろう。例えば、アメリカのヨーロッパ戦線への本格的な参入等だ。


 それは、現大統領の選挙公約の重大な違反となる。野党は、徹底的にそれを批判するだろうし、下手をすれば国内世論は真っ二つになる。


 日本が日独伊三国同盟を締結したままであれば、止むを得ずドイツがアメリカに宣戦を布告するだろう。そうなれば、アメリカは堂々と受けて立つ形で参戦できるのだが・・・


 中国も、日本とアメリカ、イギリスとの戦争には中立を宣言している。


 最も、あの国はソ連から妙な言いがかりを付けられたそうだから、それどころではないらしい。


 何もかもが、混沌としている。今の状況をきちんと把握出来ているのは神くらいかも知れない。





 突然、基地内に警報が鳴り響いた。


「何事だ!?」


 マッカーサーの声に、幕僚の1人が内線電話の受話器を取った。


「閣下、日本軍の攻撃機と爆撃機が来襲して来たと連絡が!!」


「レーダー基地からは、何の報告も入っていないではないか!?」


「それが・・・1時間程前から、電波障害が激しく連絡がつかないと・・・」


「馬鹿者!!なぜもっと早くに報告しなかった!!?」


 思わず叫んで、我に返った。日本軍の仕業か・・・それなら納得できるが、いつの間にそんな技術を生み出していたのか・・・


 宇宙人など信じていなかったが、そうでなければこんな事ができる訳がない。


 その思考を無理やり頭の隅に追いやった。


「数は?」


「およそ、100機です」


「・・・・・・」


 マッカーサーはその報告に息を呑んだ。


 イギリス軍から、日本軍の正規空母は2隻だと報告されている。その艦載機のほとんどを差し向けて来たということだ。


 自艦の防衛を放棄するような暴挙に、唖然となった。


「!!陸軍航空隊に連絡。全パイロット、及び整備員、作業員、守備兵は即時防空壕に退避せよ!!」


「閣下、それでは!?」


「かまわん!戦闘機も施設も好きなだけ破壊させろ。だが、兵士たちは絶対に死なせるな!!」


 この時彼は、一時撤退を決断していた。


 戦闘機はまた調達すればいい、施設は造り直せばいい。しかし、兵たちはそうはいかない。


 撤退しても、態勢を立て直して反撃に転じればよいのだ。


 そのために、将兵の命は大切だ。無駄死になどもってのほかだ。


 彼は、人道的な配慮からそう決断したわけではない。


 戦闘をすれば、戦死者は勝っても出る。ならば、当然勝つために出てもらわねばならない。


 同じ死ぬにしても、無駄死にでは意味がない。


 これは、盤上ゲームの駒としてしか兵士を見ていないということだ。


 非人道的と批判されても仕方ないが、戦争とはそう言うものだ。


「バターン半島まで、軍を撤退。そこで、日本軍の上陸を待って反撃に移る。マニラには非武装宣言を出すように電文を送れ。もちろん、平文でな」


「閣下、それでは日本軍に傍受されます」


「それが、目的だ。そうすれば、日本軍の攻勢も緩むだろう。撤退に十分時間を稼げる」


「はっ」


「奴らが、侵略では無く本気でアジアを解放する気があるのかは、それでわかる。これは、俺たちと奴らの戦いだ。誰にも邪魔はさせん」


 正義と悪の戦争ではない。アメリカの正義と日本の正義の戦争だ。


 勝った方が正義を唱えられる。


 アメリカ本国が日本の攻撃を受けた事は、この際好都合だ。


 ここで、日本軍を撃退できれば、本国に対して自分の存在をアピールできる。


 そうなれば、いずれ政界に転じる時に有利になる。


 マッカーサーはそう判断した。





 しかし、その思惑は日本軍と自衛隊には筒抜けであった。


 元々、バターン半島まで引かせるために、派手な演出をしたのだ。乗ってもらわねば困る。


 悲惨だったのは、アメリカ海軍だった。


 自衛隊のジャミングによって、目と耳を奪われた海軍は、突如凄まじい砲撃にさらされた。


「CIC指示の目標、SSM-1B(90式艦対艦誘導弾)撃ち方始め!!」


「CIC指示の目標、ハープーン撃ち方始め!!」


()えぇぇぇ!!」


 ピイィー!!


 警告音と共に6隻の汎用護衛艦から次々と発射された、SSM-1Bとハープーン対艦ミサイルは、軍港に停泊していた艦艇、浮上し停泊している潜水艦に次々と命中した。


 陸軍航空隊に航空支援を要請しても、妨害電波によって、返信は空しい雑音しか聞こえない。


 そこに、支援要請を受け台湾の航空基地から飛来した対潜哨戒機P-1、3機から発射されたハープーン対艦ミサイルが襲い掛かった。


 巡洋艦、駆逐艦群が爆発した。


 敵の影すら、見えない状態では反撃すらできず、兵士たちは、爆発し沈みゆく艦艇から脱出するのが精一杯だった。


 通信を封じられ、陸軍の撤退を知らされなかった彼らは不幸であった。





 クラーク航空基地に飛来した九九式艦上爆撃機と九七式艦上攻撃機群は、零式艦上戦闘機群の上空護衛の元、搭載された爆弾を次々と投下。


 駐機した航空機群、格納庫等の施設を破壊していった。


 爆発音と振動で、天井から埃がパラパラと降り注ぐ中、アメリカ軍のパイロット、整備兵、作業員、守備兵は薄暗い防空壕の中に身を潜めていた。


 小さな電灯が振動するたびに点滅する。それが恐怖を掻き立てる。


「・・・・・・」


 無言で恐怖に耐えている者、振動のたびに悲鳴を上げる者。


 その中で、1人のパイロットが叫んでいた。


「よくもっ!!よくもっ!!俺のベティを!!!日本軍め!!必ず撃墜してやるからな。覚えていろ!!」


 彼は自分の搭乗する愛機に数ヶ月前に結婚した妻の名前を付けていたのは誰もが知っていた。


 天井に向かって彼は咆え続けていた。





 ヘリ搭載護衛艦[かが]のCICは、沈黙の中にあった。


 水上レーダーの光点が次々と消えていく。


 訓練や演習では、何度も体験した事なのだが、その時には感じなかった違和感を程度の差はあっても、誰もが感じていた。


 これが、現実の戦争なのか・・・思っても誰も口に出来なかった。


 口にすれば、何かが壊れそうな気がするからだ。


 久賀でさえ、無言であった。


「・・・この気持ちを忘れない事だ」


 峯山は静かにそう語った。


「はい」


 峯山と久賀は、光点の消えたレーダーの画面に、挙手の敬礼をした。





「敵、航空基地及び、待機中の戦闘機を破壊。戦果は大です」


 幕僚の報告に南郷は無言でうなずいた。


「なお、こちらの損失はありません。大勝利と言ってよいでしょう」


「そうか・・・譲られたな、勝ちを・・・」


「?」


「マッカーサー大将は、思った以上に狡猾で手強いな。不利と判断すれば、即座に軍を引く事を考える。我が帝国陸軍にそれだけの判断が出来る将は少ない」


 南郷は目を閉じた。


 厄介な事だ。


 単なる敗走と、意思を持った撤退ではその持つ意味が全く違う。


 その意味をはき違えれば、日本はまた道を誤る事になる。


「勝って兜の緒を締めよ・・・か。真理だな」


 かつて、日露戦争を戦った聯合艦隊の解散の辞にその一文があった。


 本当にその通りだと南郷は思った。

 碧血の海 第7章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月2日を予定しています。

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