表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/454

碧血の海 第4章 オペレーション・テンペスト3 空爆

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 マーシャル諸島某所、航空自衛隊基地。


 真珠湾作戦の第1次攻撃から帰投した、高居(たかい)(なお)()1等空尉と嘉村慶彦(きむらよしひこ)1等空尉は、滑走路脇に駐機する巨大な物体を目にする事になる。


「B-52・・・」


 嘉村がつぶやく。


「対空ミサイルの的にしかならん、空飛ぶ虚仮脅しが何でここに?」


 高居の痛烈な一言に、嘉村は苦笑した。


「よお、高居に嘉村。大活躍だったそうだな」


 待機組だった、同僚が声をかけてきた。


「まあな」


「何だ、何だ。その気抜けた返事は?」


 待機組はわからないかもしれないが、戦闘に勝利したものの高揚感には程遠い感覚を2人は覚えていた。


「それより、アレは何だい?」


 嘉村が、顎でB-52を示す。


「ああ、アメリカさんにちょっと、配達をね・・・」


「配達?」


「海自さんとの共同作戦の一環さ。別動隊は千島列島の基地を出発したそうだ。俺たちは今からこのおっさんをエスコートして、西海岸をクルージングだ。少々危険なね・・・どうせなら、カワイイ女の子がいいんだが・・・別動隊は護衛機無しって事を考えれば、おっさんでも何でも、全力でエスコートするさ」


 B-52をおっさん呼ばわりし、皮肉な笑いを顔に貼り付けて同僚は去って行った。


「「クルージング?」」


 嘉村は高居と顔を見合わせた。


 そして、1時間後。B-52、5機は護衛のF-15J、4機と轟音と共に飛び立っていった。





 一方、千島列島を飛び立ったB-52は北周りのコースを取り、アメリカ本土を目指していた。


「こちら、タイタン1。針路に障害無し、順調に飛行中」


 タイタン1のコールサインを持つ隊長機の機長が、定時連絡を入れた。


「機長、間もなくアラスカ上空です」


 隊長機の機長は、1つうなずいて通信回線を開いた。


「タイタン隊全機に告ぐ。これより本隊は、アラスカ湾上空で空中給油後、カナダを横断し、アメリカ上空に侵入する。全機対空警戒を厳にせよ」


「「「ラジャ」」」


 タイタン隊全10機からの返信の後、隊長機の機長、片倉(かたくら)和泉(いずみ)2等空佐は全機に通信封鎖を発令した。


 恐らく、日本は12月9日になろうとしているだろう。


 ハワイの方は、陸軍と陸自が上陸作戦を展開している最中だろうか・・・ホワイトハウスには急報が入っている頃だ。


 慌てふためいているであろう、ルーズベルト大統領の顔を見てみたいものだ。


「機長、楽しそうに見えるのですが、気のせいですか?」


 副機長の1尉が声をかけてきた。


「まさか・・・」


 彼女はチラリと隣の操縦席に座る、副機長に振り返る。


「よそ様の、庭に勝手に入り込んで、爆弾の雨を降らせる行為を楽しいと思う人間がいたら、見てみたいものね」


「まったくです。まあ、これからこの国がやる事を考えたら、同情はしませんが・・・」


 第2次世界大戦、そしてその後の事を思い出しながら、副機長はそう口にした。


 このB-52が投入されたベトナム戦争で、行われた絨毯爆撃は軍民、敵味方関係なく、大勢の人の命を奪い取った。


[空の死神]と言われても仕方ないだろう。


 結局、この戦争の意味は何だったのだろう。戦うのは軍人だが、それを決めるのは政治家だ。


 80年間、戦争と無縁だった日本の政治家は置いといて、アメリカは興味深いものがある。


 大雑把に見ても、アメリカの民主主義を支える2大政党の戦争に対する姿勢は対照的に思える。


 自分の個人的考えだが、ベトナム戦争を経験した2人の大統領を見れば、それを感じる。


 1人は苛酷な戦場を経験し、1人は後方勤務だった。


 湾岸戦争は、それなりに義は感じる。9・11の後のアフガン侵攻も、そうだろうと思う。


 しかし、イラク戦争はどうなのか?と思う。


 当時のイラク大統領が、独裁者だったから・・・少数民族を大勢虐殺したから・・・大量破壊兵器を保有している可能性があるから・・・


 理由はいくらでも後付けできる。


「結局、勝てば官軍。勝った者が正義ってか・・・そういや、湾岸戦争の時の大統領って、太平洋戦争の時に米軍の戦闘機のパイロットだったような・・・敵になりたくないな・・・死んでほしくない」


 虚しさを感じて、そうつぶやいた。





 アメリカ五大湖上空。


 一機の偵察機が、飛行していた。


 アメリカとカナダの国境にまたがる、5つの湖からなる巨大な湖だ。


 アメリカ最大の工業地帯でもある。


 時刻は夕刻だった。


 日本の、真珠湾急襲の報は入っているが、詳細はわからない。


 大統領は、議会を招集し情報の収集に努めているらしい。


 今のところ、わかっているのはその程度だった。


「ジャップの奴ら、何考えているんですかね?」


「さあな、猿の考えが人間にわかるわけがないだろう」


 後部座席の軍曹の問いに、少尉は面倒臭そうに答えた。


「動物には調教が必要だ。今ごろ太平洋艦隊に叩きのめされている頃だろう」


「そうですね」


 いつもと変わらない、退屈な会話だった。


「はあ~。どうせなら、ヨーロッパかアフリカでファシズム信奉者のナチス・ドイツ軍にたらふく銃弾を、お見舞いしてやりたいものです。ジャップは、ここまで来るわけないですしね」


 ため息まじりの軍曹のボヤキに、少尉は苦笑した。


 太平洋の西の端の小国に、そんな力があるわけがない。経済制裁に悲鳴を上げて、中国の植民地を手放したくらいの弱小国だ。


 どうやら、政府はあの国を属国にしたいらしい。


 1946年に独立予定のフィリピンに代わる、西太平洋の要衝として、最適の位置にある。


 そうなれば、太平洋の制海権はアメリカのものだ。


 いずれ、対決するだろうユーラシア大陸の北の国、ソ連との戦いにおいて、重要な拠点となるだろう。


 イギリスやアメリカとは、決して相いれないであろう共産主義の新興国だ。


 ファシズムも嫌いだが、共産主義者はもっと嫌いだ。


 もし、ドイツが西ではなく東だけへ侵攻したのなら、密かに応援したかもしれない。


 何しろ、噂に聞くだけだが、あの国の支配者の悪逆非道さには反吐が出る。


 第1次大戦のさなかに革命を起こして、ロシア帝国を滅ぼしたのはいいとしよう。


 ロシア皇帝を処刑したのも、わからなくはない。だが、皇帝の皇后や娘たちまで処刑とは、やりすぎだろう。


 戦う力のない、女子供まで殺すなど非道だ。


 その上、自分に従った部下たちを、身勝手な理由で次々と粛清と称して、殺害しているらしい。


 口では、人間は平等と言いながら、しっかり支配者層と労働者層にランク付けしているらしい。


 フランス革命では、国王と王妃は処刑されたが子供は殺さなかった。


 ナポレオンも、流刑になっただけだ。


 共産主義は神の存在を否定しているとも聞いている。


 もし、それが本当なら共産主義者は、悪魔よりタチが悪い連中ということになる。


 これは、彼自身の個人的な感想に過ぎないのではあったが。


 この時、彼は1つ忘れている。唯一絶対神を信じる人々が、異教徒と言われた人々に何をしたかという事を。


「うん?」


 夕闇に染まった空を、白い筋を引いて飛んで行く物体があった。


 それは、航空機では上がれない程の上空を、物凄い速さで飛翔している。


「あ・・・あれって、まさかUFO?」


 軍曹の驚きの声に、少尉は思わず同意しかかった。あんな、高度を取る航空機など現存しない・・・いや、噂は聞いた事がある。


 きっかけは、子供の一言だったという。


「ほかの戦闘機が、飛んでこられないような高い所を飛べばいいんじゃないの?」


 アメリカのすごい所は、本当にそれを作ってしまうことだろう。


「貴官も噂は聞いていないか?陸軍が密かに開発しているとかいう、超重爆撃機の話を・・・」


「ま・・・まさか、アレが!?」


「アレがUFOでなければ、可能性がある・・・が、やはりUFOかもな」


「少尉~!」


 冗談交じりの少尉の言葉は、一応間違いではない。この時代に存在しないのだから未確認飛行物体(UFO)ではある。


「冗談はさておき、報告しますか?」


「・・・いや、もしかすると極秘の試験飛行かもしれない・・・うかつに報告して、機密漏えいだのなんだのと変に言われても嫌だしな、見なかった事にしておこう」


 後日、彼はこの事を後悔する事になる。





 しかし、彼1人の責任ではない。


 この日、見慣れない飛行物体を見たという証言は、軍民を問わず多数あった。


 だが、誰もそれが日本の戦略爆撃機とは思わなかった。





「間もなく、爆撃予定地です」


「タイタン隊、全機無線封鎖解除!!高度を下げる。対空砲火に注意せよ、目標は目視にて確認されたし。民間居住地への爆撃は厳に禁ずる」


 片倉の命令が飛ぶ。


 タイタン1は先頭を切って高度を下げた。


 彼女たちの目標は、アメリカ合衆国、バージニア州、ノーフォーク海軍造船所と海軍基地。


 太平洋側の西の端から、大西洋側の工業地帯と軍港を攻撃するという発想は、まず無い。


 大陸間爆撃を想定して建造された、B-52だから、何とか可能なのだ。


 もっとも、現実にそれが実行される事はなかったが。


 ただ、いくら千島列島の最北端から出撃したとしても、往復約3万キロ近くというとんでもない距離だ。


 B-52の航続距離は、1万6千キロと言われている。これでは片道しか飛べない事になる。


 だが、機密とも言える航続距離を正直に公表する訳がない。それに、当然プラスアルファで余裕というものがある。


 アラスカ湾上空での往路と帰路での空中給油でギリギリ可能と空自の幕僚たちが判断したからこその実行であった。


 しかし、それならなぜアメリカ最大の工業地帯である五大湖工業地帯を空爆しないのかという疑問が出るだろう。


 それには理由がある。確かに五大湖工業地帯は軍用航空機の部品や軍用車両が製造されているが、大半は民間の工場である。


 そのため、ノーフォークより近いのだが、空爆目標からはずしたのだ。


 戦時であれば、軍関係の施設を攻撃目標にするのは、当然の事だ。


 石垣が、この作戦に恐怖を覚えたのは、これが単に戦術的にアメリカに一撃を与えるだけでなく、戦略的にも打撃を与えるつもりだからだ。


 この時代では、想像もされない遠距離地点の空爆。


 ホワイトハウスさえ爆撃可能だと、知らしめる。


「1発殴れば、10発殴り返される」


 なら、最初に徹底的に10発殴る。である。


 中途半端は逆効果という事を、実感としても客観としても知っているからこそであった。


 そして、総隊幕僚の戦略構想では、ハワイ、パナマ、ノーフォークの3つの作戦を全て含めて1つの作戦なのだ、それに許可を出した山縣と山本は、本気で1年以内にアメリカを講和のテーブルに着かせるつもりなのだった。





 この夜、ノーフォークは悪夢を見る事になった。


 突然飛来した、巨大な航空機群は一旦上空を飛び去った後反転、海側から次々と爆弾を投下した。


 B-52の胴体部分から投下されたのは、無誘導爆弾と呼ばれるMk82である。


 それが、港湾施設、造船所に着弾。


 すさまじい爆発と光が、夜の闇を昼間のように照らし出す。


 港に停泊していた、空母、戦艦、その他の艦艇は轟音と共に轟沈または撃沈。


 補修のために、ドック入りしていた艦艇も、建物ごと同じ運命を辿った。


 警報が鳴り響き、サーチライトの光が交錯する中を、巨大な死神は悠々と空を飛んで行く。


 設置されていた、対空砲が火を吹くが押し寄せる爆風と衝撃波に、たちまち吹き飛ばされた。


「悪魔・・・いや、死神だ・・・」


 この光景を見た者は、呆然とそうつぶやいた。


 B-52は、Mk82を胴体内に27発、翼下に18発搭載している。


 計45発、10機がその全弾を投下したのだ。


 その破壊力は凄まじいものだった。


 マリアナ諸島、サイパン等を攻略したアメリカ軍は、1944年から日本本土に対して、B-29による、無差別爆撃を本格的に行ったが、その時に使用された、焼夷弾M69の使用弾数に比べれば、それでも微々たるものである。


 連絡を受けた、航空基地から迎撃のために出撃した戦闘機も、早々に高高度を取り逃げた、大型機の信じられない速度に追いつく事はできなかった。





 謎の航空機群は、悠々と夜の空に消えていった。





 一方、アメリカ西海岸に、突如飛来した航空機群は爆弾ではなく大量のビラを投下した。


 それには、日本が開戦に踏み切った経緯と、アメリカ政府の不誠実な対応に対する暴露文。


 ハワイ占領と、パナマ、ノーフォークの攻撃が記されていた。


 これだけだったら、アメリカ国民は怒りに支配されただろう。


 ビラに記されていたのはそれだけではなかった。


「万が一、アメリカに居住する、正当な市民権を持った日系アメリカ人に対し、不当な差別や、危害を加えた事が判明した場合、その地域に対し警告なしに然るべき措置を取る」


 それが、実行可能な事を立証されているだけに、誰もがゾッとするものを感じた。


 そして、最後に追記された1文には誰もが首を捻らずにはいられなかった。


「キンメル大将以下、ハワイ駐留のアメリカ軍指揮官、将兵は称賛に値する軍人である。彼らに対し、降格等の処分は行わないよう要請する」


 敵を擁護するような文章の意味がわかる者はいなかった。





 この件に関しては、キンメル、ハルゼー等将官クラスの自発的な申し出により、後日降格ないし、一時的な予備役編入が、海軍、陸軍で決定された。





 日本の日付で、12月9日。ハワイ諸島近海で第1航空艦隊所属の山口(やまぐち)多聞(たもん)少将は、自分の乗艦する[飛龍]の艦橋で双眼鏡ごしに、真珠湾を眺めていた。


 未来から来た日本軍=自衛隊の活躍は、目を見張るものがあった。


 山本長官が、彼らに全面的な信頼を寄せていたのはわかる気がする。


 第一波攻撃をかけた、ジェット戦闘機の攻撃は凄まじかった。


 レシプロ戦闘機では出せない、音速を超えるスピードと、ミサイルと呼ばれるロケット弾は、公試運転が完了した戦艦[大和]の搭載する46センチ主砲弾の威力に勝るとも劣らない破壊力に見えた。


「何を考えているのです?司令官」


[飛龍]艦長が声をかけてきた。


「いや、大した事ではない。ただ、彼らの活躍は大したものだと思っただけだ」


「確かに。うちの艦載機の搭乗員も驚嘆していましたよ。それに、あの巡洋艦の[あかぎ]と[こんごう]も[赤城]に雷撃を仕掛けようと密かに近寄って来た、アメリカの潜水艦3隻を、あっと言う間に誘導魚雷でしたか・・・それで、1発で撃沈してしまうのですから・・・」


「そうだな」


 口ではそう言いながら、山口の表情は曇っていた。


 第一波攻撃を譲る事になってしまった、南雲長官は、彼らの実力を認めたものの、内心は複雑なのではないかと思ったからだった。


 南雲長官は優秀だが、思考はやや硬いところがある。


 骨が折れるが、自分が潤滑油のような働きをしなくてはならないなと、山口は思った。


 アメリカ海軍は、そう遠くないうちに総力を挙げてハワイ奪還に動いてくるだろう。


 それまでに、こちらも万全の迎撃態勢を整えておく必要がある。





 ハワイ占領、パナマ、ノーフォーク攻撃をもって、[オペレーション・テンペスト]の状況は終了した。

 碧血の海 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は10月12日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ