碧血の海 第3章 オペレーション・テンペスト2 空の死神
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
日米開戦より遡る事、1ヶ月前の事。
石垣の元に2人の訪問者があった。
菊水総隊の陸自と海自の総隊幕僚長、飯崎稀之助陸将補と秋山悟海将補である。
2人とも、大日本帝国軍の階級でいえば、少将になる。
「・・・・・・」
陸軍と海軍の制服姿の2人に妙な威圧感を感じて、石垣は首を竦めた。
「1つ確認しておきたい事がある」
最初に口を開いたのは、秋山だった。
旧海軍の制服を自然に着こなしている姿に、霧之の情報で海自の女性自衛官の人気がダントツだと聞かされていたのを思い出し、納得した。
(かっこいい・・・)
男の自分でも、惚れてしまいそうな男っぷりである。
「聞いているのか、石垣君」
ポケーとした表情で、自分たちを見ている石垣に飯崎が鋭く突っ込む。
こちらは、精悍な陸軍軍人そのものだ。
「は・・・はい」
石垣は表情を引き締めた。
何も悪い事はしていないはずなのに、強いられるこの緊張感は何なのだ?
「幕僚監部の立案した作戦では、真珠湾作戦と同時に、南方作戦を実行。これは、史実通りだ。それと同時進行でパナマ運河を破壊し、大西洋側からの米軍の増援を一時的に阻止する。成功すれば、半年から1年はアメリカ海軍の行動に制限をかける事ができる」
海自1の美男子と噂されているが、秋山の視線は鋭い。
「その後の予想は、どうなっているのかな?」
「予想と言いましても・・・」
恐らく戦闘に関しては、半年間は史実とさほど変わりないと予想できるが、それ以降は予想がつけ難い。
アメリカの国民感情が、どう出るかが鍵なのだ。
これに関しては、石垣だけでなく菊水総隊の総隊幕僚、大日本帝国の陸海の軍令部、参謀本部、帝国政府等もいくつもの予想を立てているものの、まだ決め手を欠いている状態だ。
「君の予想で構わないので、思う所を言ってもらえないか?」
「史実のような、だまし討ちの奇襲になりませんので、ルーズベルト大統領が、参戦の意思を示したとしてもアメリカ国民の戦意を沸騰させるには力不足と思います。それに、ハワイを占領した後で、降伏したアメリカ軍と民間人には、本土に帰ってもらいます。捕虜にしても、ジュネーブ条約云々より正直、事後処理に手間を割く余裕がありませんから」
「聯合艦隊の参謀たちの間では、仮に君の具申を実行し温情で帰したとしても、ハワイ奪還に再び銃を手に戻ってくるのでは、という懸念が広がっている」
「確かにそうなるでしょう。ですが・・・講和に傾く勢力も出て来るのではと・・・」
石垣の答えに、秋山は何も言わなかった。
「そうなってくれればありがたいが、別の意味で沸騰するかもしれんな」
腕を組んで、聞いていた飯崎が口を開く。
「あの国は、民主主義の総本山のような国家だが、国家的危機に直面すれば、社会主義国家のような、国の強制的な統制なくして国民の自由意思で挙国一致体制が取れる国家だ。9・11の後を見ればわかるだろう・・・まだ、50番目の州になっていなくても、自国の国土と同じとも言える、ハワイを失陥すれば、どう出るか・・・少なくとも、1発殴れば10発は殴り返される覚悟は必要と、私は見ている」
飯崎の表情は厳しい。9・11だけではない、基本的にアメリカは先に手出しをした事はない。
日本の真珠湾攻撃も然りだが、米西戦争、ベトナム戦争等、きっかけは全て相手からの攻撃で、世論が沸騰し戦争に突入している。
「・・・・・・」
政略的、戦略的にはある程度、アメリカ国民の怒りを抑える事はできるのではないか、と考えているが、感情としてはどうだろうか・・・
さすがに、人間の心理までは読み解く事ができない。
石垣は、考え込んだ。
「そこで、君が具申して幕僚監部が立案し、総隊幕僚が調整した今回の作戦と合わせて同時で進行する作戦があるのだが」
「しかし、あまりあちこちで、手を出し過ぎるのは・・・」
「これは、大日本帝国軍との共同作戦ではなく、自衛隊の単独作戦だ。山縣司令官には許可を得ている。もっとも、作戦を実行するのは空自だが」
空自の作戦に海自の秋山が具申をするのは、おかしなことだと石垣は首を傾げた。
「ハワイ攻略、パナマ運河破壊と連動しているので、我々陸海空の総隊幕僚で、さらに作戦を検討して、少し無理を言わせてもらった」
そう言って、秋山は書類を石垣に差し出した。
「これは・・・」
一読して、その内容に石垣は絶句した。
「君の専門の戦術シミュレーションで、検証をしてほしい」
作戦名[オペレーション・テンペスト]と書かれていた。
(ここまで、引っ掻き回しますか・・・)
石垣は、冷や汗が流れるのを感じながら、秋山を見た。
秋山は、無言で石垣を見返している。その目に一切の迷いは感じられなかった。
(鬼だ・・・)
心底そう思った。
「それで、やってもらえるだろうか?」
「わ・・・わかりました。近日中にシミュレーション結果を、お伝えします」
「よろしく頼む」
石垣の心を読んだかのような、微笑を浮かべて秋山は立ち上がった。
続いて、飯崎も立ち上がる。
「こいつとまともに戦術家として相対して引き分ける事ができるのは、第1護衛隊群の村主くらいだ。怖いぞ・・・」
肩をすくめながら、飯崎は苦笑した。
「・・・・・・」
石垣としては、苦笑するしかなかった。
こちらに、その手段があるとはいえ、いきなり最初から切り札を叩きつけると誰が想像するだろうか・・・
1941年(昭和16年)12月8日未明。
千島列島某所。
航空自衛隊、仮設北部方面基地。
急造された広大な滑走路脇に駐機する鉄の巨人。
戦略爆撃機B-52。別名ストラトフォートレス(成層圏の要塞)と呼ばれるB-52を購入、日本仕様に改装を施したものだ。
なぜ冷戦時においてさえ、イギリス等の西側諸国に導入実績のない本機が日本にあるのか?というと、政治的思惑が働いたからだ。
世界中に拡散した紛争に対処するため、アメリカは在日米軍、在韓米軍の基地の縮小を余儀なくされた。
中国の崩壊という事態により、東アジアの脅威がやや薄れたというのがある。
だが、ロシアと北の脅威は依然として残っている以上、そのまま丸投げというわけにはいかず、退役予定になっていた機を、日本と韓国に払い下げるという形をとったのだった。
B-52に代わる後継機が実戦投入されたというのもある。
だが、日本においての運用は色々と面倒な制限がかかる。原田首相が博物館に展示するしかないと、こぼしていたのはこのためだ。
それでなくても、対空兵器の発展で使いどころが難しいうえに、護衛機が必要というのも面倒だ。
専守防衛が基本の自衛隊にとって、「どこを、空爆するつもりやねん?」というツッコミどころ満載の使えない兵器であった。
まさか、80年前の時代でいきなり実戦投入とは、B-52にもし感情というものがあったなら「オーマイゴット!!」とでも叫ぶかもしれない。
何しろ、空爆目標は彼の母国であるアメリカなのだから。
「まさか、本気でやるつもりだったなんて・・・」
ズラリと並んだ、B-52の機体を眺めながら、霧之みくに3等陸佐はつぶやいた。
「ほう、ほう、ほう!!これまた実に壮観」
視察の名目でなぜか、ちゃっかりいる大日本帝国陸軍北部方面軍副司令官の石原莞爾中将は、感嘆の声を上げた。
「・・・これだけの数のB-52なんて、よく持ち込んだものだ・・・」
空自の基地では目立つ、迷彩服姿の陸自隊員が、呆然とつぶやいた。
「はっはっは、来て良かっただろう。神薙軍曹」
「・・・はあ・・・まあ・・・そうですね」
いささか、居心地が悪そうに神薙司2等陸曹は、返事をした。
なぜ、彼がここにいるかというと、単に石原に気に入られたかららしく、無理やり連れて来られたらしい。
何しろ、ここにいるのは空自の隊員を除けば、空自の坂下亜門1等空佐、同じ陸自とはいえ3佐の霧之他、士官クラスばかりなのだ。
下士官ともいうべき立場では、場違いに感じているのだろう。
「ふ~ん」
霧之は、石垣より背の高い神薙を下から覗き込んだ。
「な、何でしょうか。3佐?」
「神薙君って、お母さんにそっくりだな~と思って。自衛隊じゃなくて、芸能界に入ったら人気出たんじゃないかなぁ・・・なんてね、美形だし」
「は・・・はあ・・・」
この人、いきなり何を言い出すんだ。という表情で、神薙は坂下を見たが、完全に無視された。
ここに、石垣がいたら「また、始まった」と肩をすくめるだろう。
「いやいや、霧之少佐。私としては、是非とも彼に陸軍士官としての道を進んでもらいたいのだ」
どうやら石原と霧之は気が合うらしい。
上官に対して、臆する事なく意見していたとされる陸軍の異端児、石原の事だ。同じような気質の霧之を気に入っているのだろう。
いつも、石原に従っている少佐と、坂下がほとんど同時にため息をついていた。
それぞれ個性の強すぎる上司と部下に、いつも振り回されているのだろうと想像できる。
神薙は何となく2人に同情をした。
「報告します」
点検作業を行っていた、整備員が駆け寄ってきて挙手の敬礼をした。
「最終点検、完了しました」
「ご苦労」
そう言って、坂下は腕時計を見た。
「予定通り、発進できそうだな」
「はい、幕僚長より、管制室へお越しくださいとの事です」
「了解した」
坂下は、一同を促した。
一方、ブリィーフィングルームでは、B-52の搭乗員が、最後のブリィーフィングを行っていた。
空自の幕僚長である、猿山将司空将補がスクリーンを前に作戦の概要を説明していた。
「・・・以上だ、質問は?」
10機のB-52の搭乗員、50人の顔を1人1人見回す。
全員、緊張しているものの、作戦を必ず成功させるという気概に満ちている。
表情こそ出さなかったが、この作戦の難易度を考えると、猿山さえ臆する。
総隊幕僚から具申され、空自の幕僚たちがさらに検討し実行可能と判断されたが、前例のない作戦である。
冷戦時の対ソ連対策の落とし子とも言うべき長距離重爆撃機。1955年に運用が開始され、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争に投入されている。
実績は十分だが、よもやアメリカ本土爆撃に使う事になるとは・・・
ハワイ攻略と、パナマ運河破壊で終了と思っていたが、ここまで徹底されるとは思わなかった。
アメリカは、建国以来1度も他国から侵攻されていない。
独立や領土の拡張等大陸内での戦闘はあるが、東と西の2つの海を越えて攻め込まれた事はない。
9・11でテロリストが国際貿易センターのビルに、民間機をハイジャックして突っ込んだ事件があった。だが、インパクトは大きいが、あれはあくまでも犯罪であって、戦争ではない。
今回は違う。
この、作戦が成功すれば、アメリカ国民は、海が自然の要衝になり得ないと思い知るだろう。
そこで、どんなリアクションになるかは想像がつかない。
「貴官らの任務は、極めて重要だ。だが、この作戦は貴官らが全員生還してこその成功だという事を肝に命じてもらいたい。以上だ」
「「「はい!!」」」
全員の返事を聞いて猿山は、一つうなずいた。
ドイツ第三帝国、首都ベルリン。
大日本帝国大使館の一室で、大日本帝国陸軍駐在武官の肩書きで、赴任している新居孝彦2等陸佐は、パソコンを操作していた。
彼の任務は、ドイツを中心としたヨーロッパでの情報収集である。
自衛官としてではなく陸軍士官としての赴任であるため、当然陸軍の軍服を着用している。
日本の三国同盟破棄を受けて、ヒトラーは激怒したが日本はドイツと敵対している訳ではないので、特に変な圧力は受けてない。
離れた場所から、日本を見てみると色々とわかる事もある。
「まったく、無茶しすぎだな。日本」
誰もいないと知りながら、小さな声でつぶやいた。
新居も石垣ほどではないが、大東亜戦争に興味はある。
ドイツに来て思った事だが、中国なんぞに手を出したのは根本的な誤りだ。
大陸なんぞに手を出さず、国内。特に北日本の防衛に力を注ぐべきだったろう。
日本は、国土の四方を海に囲まれている。
隣国と国境線が接しないというのは、他国の侵攻を受けにくいという強みがあるのだ。
現代では、弾道ミサイルの出現によって微妙になっているが、国土の制圧に必要な陸軍部隊を送り込むには、わざわざ海を越えるという手間がかかる。
「ドイツ陸軍が悪いわけじゃないが、イギリス陸軍を手本にするべきだったろうな・・・」
今さら言っても詮無い事だが。
今までの事は仕方がない、これからが大事だ。
いくら、自衛隊が介入したとしても、世界を相手に自分たちの出来る事など微々たるものだ。
歴史改変など、そう簡単にできるものではないと、新居は考えている。
せいぜい、これから起こる悲劇をある程度抑えるくらいのものだろう。
別にドイツに頼る訳ではないが、ドイツの動向次第で日米の戦闘も変わってくるだろう。
それを見極めるために、新居はここにいる。
パソコンの電源を切り、新居は窓に歩み寄った。
日本とは異なるが、美しい街並みと思う。これが、1945年には連合国の度重なる空爆によって、廃墟と化す事を今のドイツ国民は想像もしていないだろう。
煙草を咥えて火を付ける。
禁煙という概念がないのは、喫煙者にとってはいいことだ。
煙を吐き出しながら、そう思った。
「歴史が変わる・・・か」
新居には、興味深い件が2つある。
史実では今年、ソ連は例年より早く冬将軍が訪れたはずだった。
このせいで、ソ連に侵攻したドイツ軍は苦戦を強いられた。
だが、今年は例年にない暖冬だそうだ。
そして、もう1つ・・・
ヒトラーの命により、対ソ連侵攻軍司令官に任じられたのは、アフリカ戦線から引き抜かれた将軍。
エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメルである。
碧血の海 第2章をお読みいただきありがとうございます。
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