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時間跳躍 序章2 老軍人の独語

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

「号外!号外!」


 1人の少年が新聞の束を持って、叫んでいた。


「日独伊三国同盟締結!」


 少年の叫び声に1人の老人が暗い表情をした。


 彼の名は石垣(いしがき)達造(たつぞう)


「ついに締結したか・・・」


 帝国陸軍時代の友人が彼と同じく暗い表情でつぶやいた。


「1部くれ」


「はい!」


 石垣が少年に言うと、少年は満面の笑みで新聞を渡した。


「・・・・・・」


 石垣は少年の顔を見て、何も言えない表情になった。





 石垣と友人は近くの公園に向かい、ベンチに腰掛ける。


 先ほど八百屋で買った梨の、みずみずしい果肉にかぶりつく。


「・・・なかなかうまいな」


 石垣の言葉に友人はうなずいた。


「お前の長男も帝国陸軍の士官だったな」


「ああ。ドイツとの同盟を全面的に支持、アメリカを打倒する等、主張している」


「時代は変わったな。俺たちが現役の頃は日清、日露でも勝利する根拠があったのに、今の陸軍には何もない。ドイツが勝利すれば我が国も勝算があると言っている。まったく、どこから、そんな言葉が出てくるのか」


 友人の言葉に石垣はうなずいた。


「あの時代の閣下たちが今の日本を見たら、どう思うだろうな」


 石垣がつぶやいた。


「恐らく、怒鳴り散らすだろう。児玉さんや大山さんが見たらひどく悲しむだろうな。こんな国にするために命をかけた覚えはない、と叫びながら、な」


 石垣は号外の新聞を読んだ。


「伊藤さんは、いつも最悪の事態を想定して、動いていた。今の日本にそこまで考える政治家はいない。お前の言う通り、確かに日本は変わったな」


 石垣の言葉を聞いた瞬間、友人は吹きだした。


「お前が現役の陸軍時代には、伊藤さんは臆病者だ。日本が西洋列強に劣る訳がないわ、等と叫んでいたではないか」


 友人の言葉に石垣は苦笑を浮かべた。


「歳をとると、考えも変わるものだ」


 石垣はそう言いながら、煙草を取り出し、1本を口に咥える。


「1本どうだ?」


 石垣は友人に煙草を差し出す。


「いただこう」


 友人は煙草を受け取った。


 マッチを取り出し、煙草に火をつけた。


 煙を一口吸い込み、吐き出すと、


「なあ、石垣。お前はアメリカと戦争して勝てると思うか?」


 煙草の煙を吐き出しながら、友人が訪ねた。


 石垣は少し考えてから、自分の考えを話し始める。


「恐らく、アメリカとの戦争は我々日本人が初めて経験する敗北だろう」


「理由は?」


「アメリカの国力は日本の約10倍だ。まともに戦っても勝てる訳がないだろう」


 石垣の言葉に友人はうなずいた。


「ああ。そうだ。しかし、世間の人々なら、こう言うだろうな。日露戦争では国力10倍のロシア帝国に勝ったではないか、と」


「当時のロシアは、国内が不安定な状態だった、民衆は重税にあえぎ、軍も腐敗していた・・・いつ革命が起きてもおかしくない状況だった」


「その通りだ」


 友人はうなずいた。


「世間はそんな状況も知らず、結果だけを見ている。日清、日露も欧州大戦も、戦場は異国だった。自分の国が戦場になるかもと、想像すらしていない。戊辰戦争の恐怖を覚えている者も少なくなった」


「ああ。そうだ。これからの戦争は陸と海だけではなく、空からも来る。国力がものを言う時代だ」


 石垣と友人は空を眺め、これからの日本を想像した。


 2人の脳裏に、炎に包まれて焼ける東京の光景が浮かぶ。


 炎に追われて逃げ惑う人々。助けを求めて泣き叫ぶ、女子供たち・・・


 日本が、生き残るために戦った2つの戦争。


 その生き証人である彼らには、滅びへの道に進もうとしている今の祖国を憂うことしかできなかった。


 時間跳躍篇 序章2をお読みいただきありがとうございます。


 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください


 次回の投稿は6月8日を予定しています。


 毎週水曜日に更新する予定です。

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