死闘南方戦線 第10章 吼え猛る猟犬
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍司令部から出航命令を受けた、連合海軍第2艦隊第3空母戦闘群は、速力16ノットでパラオ諸島周辺海域に接近していた。
[クイーン・エリザベス]級航空母艦[ロバスト]を旗艦に、空母護衛隊4隻が随行する。
45型駆逐艦[ガーディフ]、23型フリゲート[ブレイブ]、[ブラーゼン]のミサイル駆逐艦1隻と、2隻のフリゲートを率いる[ロバート・ウォルポール]級対潜水艦航空母艦2番艦[ヘンリー・ペラム]である。
1960年代の海軍計画ミサイル巡洋艦建造計画であったのだが、結局、構想だけで終了した。
1970年代に、全通甲板を持った巡洋艦に、計画が変更された(これが[インヴィンシブル]級航空母艦である)。
[クイーン・エリザベス]級航空母艦が就役する前にイギリス海軍が配備していた航空母艦は退役したが、再び必要性が生じたため、建造計画が持ち上がった。
これは、[クイーン・エリザベス]級航空母艦が就役し、艦載戦闘攻撃機として、ステルス性能が高い第5世代ジェット戦闘機F-35B[ライトニングⅡ]が海軍と空軍でそれぞれ導入されたからだ。
F-35シリーズは誰もが知っての通り、多くの国で海軍や空軍が導入し、実戦配備された。
だが、所詮は空母艦載機である。
空母は、潜水艦や小型船舶からの攻撃には弱い。
単純に新兵器が配備されたら、配備国と周辺諸国では、対新兵器対策の防衛戦略が研究、検討される。
F-35シリーズが各国軍で配備された時点で、すべての国は、対ステルス戦闘機に対する防衛戦略を完成させているのだ。
防衛戦略がある以上は、その防衛戦略の上を行かなくてはならない。
イギリス海軍では、F-35Bとそれを運用する[クイーン・エリザベス]級航空母艦を潜水艦の魚雷攻撃、対艦ミサイル攻撃と小型船舶による自爆攻撃から護り、空母護衛の艦隊指揮と対潜水艦、対小型船舶からの攻撃対策を引き受ける。
それが、[ロバート・ウォルポール]級対潜水艦航空母艦。
全長195メートル、基準排水量1万500トンの本級は、海上自衛隊の[ひゅうが]型ヘリコプター搭載護衛艦に相当するレベルだ。
艦載機は、対潜水艦捜索及び対潜水艦攻撃に特化した対潜哨戒ヘリコプターと、一度は退役したが、再導入されたシーハリアーⅡ(シーハリアーFA.2の能力向上型)である。
主な使用目的として、艦隊の海上警戒と海上警備を担当している。
第3空母戦闘群の空母護衛隊司令であるダミアン・ケイン代将は、[ヘンリー・ペラム]のCICで、司令席に腰掛けていた。
ケインは、第3空母戦闘群司令であるヒック・ドルイト少将と同じ歳であるが、見た目で判断すると、70代前の元気なおじいさんに見える。
完全な白髪と言うべき、銀髪と深い皺が、老人という第一印象を、さらに強調させている。
因みに、ニューワールド連合軍に加盟する常任理事国軍の一部では、周辺から、このように評価される。
フランス軍の将軍及び提督は、まったく年齢を感じさせない美男子(ほとんどが実年齢よりも10歳以上若いそうだ)。
その代表とも言えるのが、第3艦隊第4空母戦闘群司令のマティアス・クレマン少将で、50代にも関わらず、30代にしか見えない上に、ミス・ユニバースにエントリーされるレベルの美女たちが、裸足ですっ飛んで逃げ出すほどの美中年である。
その逆に、イギリス軍の将軍と提督は、老紳士(実年齢よりも10歳以上に思われる)である。
「司令。ドルイト提督から、入電です」
副官が、ケインに通信文を渡す。
ケインは、通信文に目を通した。
「艦長。これを見たまえ」
[ヘンリー・ペラム]の艦長であるダリル・アッカー・ブルーム大佐が、老司令(ただし、実年齢は50代)からの通信文を受け取る。
「第3空母戦闘群空母護衛隊司令ダミアン・ケイン代将へ、まもなく、海軍航空隊第900海軍飛行隊の、第1次攻撃隊を出撃させる。貴官には、敵の指揮系統等の混乱を命令する」
ケインとブルームは、長い付き合いである。
ケインがブルームに「これを見たまえ」と言えば、部下たちの聞いている前で読み上げろ、という命令であり、逆に「これをどう思う?」は、彼だけしか見てはいけないという事だ。
「提督も、第3空母戦闘群新設から初の実戦ですから、我々に喝を入れた訳ですね」
ブルームは、通信文に目を通しながら、ドルイトの言わんとする事を述べた。
「そのようだ・・・では、艦長。ヤンキー野郎どもに、200年間ため込んできた我々イングランド人の味わってきた屈辱を、思い知らせてやるぞ!」
ケインが、生粋のイングランド人らしい台詞を吐いた。
因みに、イギリス海軍であるから、イングランド人以外にもアイルランド人や、アイスランド人等も当然ながらいる・・・しかし、アメリカへの屈辱を晴らし、積年の恨みを晴らす機会が与えられたのだから、イングランド人に何を言っても無駄である。
[ロバスト]は、[クイーン・エリザベス]級航空母艦であるが、前2隻と比べると若干の改良が行われた発展型でもある。
全長が、1メートル延長されているのと、基準排水量が50トン増量されたのと、対空兵器ブロック1BタイプのCIWSが2基(前2隻は3基)。
そして、前2隻に設置されている30ミリ単装機関砲4基は、最初から搭載されていない。
変わりに、次世代自艦防御火器が搭載されている(これは[ジェネラル・R・フォード]級原子力航空母艦[フロンティア]にも搭載されている)。
[ロバスト]のCDC(正規空母クラスの戦闘指揮所)では、大学教授を思わせる老提督が司令官席に腰掛け、パラオ諸島と周辺海域を映し出したデジタル海図を眺めながら、頬杖をついていた。
「ロイヤル・ネイビーが、ニューワールド連合海軍として本格的な実戦を迎える時に、すでにアメリカ海軍や、フランス海軍の空母艦隊に遅れをとっているとは・・・」
ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第2艦隊第3空母戦闘群司令官であるヒック・ドルイト少将付の副官であるイアン・クリントン少佐が、悔しそうな口調で吐き捨てた。
「空母の初陣は、彼らに奪われたが、我々はエクアドルで初陣している。そのぐらいは、かまわん」
ドルイトは、海軍高級士官というより、穏やかな大学教授が一番の教え子に諭すような、やんわりとした口調で告げた。
「提督。第1次攻撃隊F-35B発艦準備完了しました」
イギリス海軍の英才将校団の中でも、かなり速いスピードで出世した若き艦長が、報告した。
年齢は、クリントンよりも1つか2つ程上だが、階級は大佐(タイムスリップ前に就役した[ロバスト]の初代艦長就任と同時に中佐から昇進)である。
「さすがに、早いな」
ドルイトは、デジタル時計に視線を向けて、つぶやいた。
彼が、第1次攻撃隊発艦準備命令を出したのは、10分程前ぐらいだ。
ドルイトは、若き英才艦長に視線を向けた。
空母運用国でも、極めて異例である人選だ。
空母[ロバスト]の艦長は、女性である。
肩のあたりで切り揃えた、金色の髪に青色の目、ヨーロッパ人女性の平均身長より少し高めの彼女は、イギリス海軍男性将校団からは、高嶺の花と言われている。
キャロル・マクリーン・マカスキル大佐。
『高嶺の花』と言われる訳は、彼女は、イギリス貴族の中でも高級貴族に分類される家の出身であり、その行動はどれをとっても無駄が無く、洗練されていて、レディと言う言葉が相応しい淑女である。
そして、(恐らく、これが高嶺の花と言われる本当の理由だろうが)花の栽培をする事が、一番の趣味である。
彼女に与えられている艦長室では、色々な種類の花々がプランターで栽培され、まるで、花園のようである。
中には、専門家でも栽培が難しい花もあり、艦長室を覗いた事のある者は、戦闘艦の内部とは思えない、別世界だと口々に言う。
[ロバスト]の飛行甲板では、F-35Bが発艦準備を整えている。
対艦兵装と制空兵装した12機のF-35Bは、司令官であるドルイトの出撃命令を待っていた。
CDCに映し出されているモニターの画像が、飛行甲板の映像に変わった。
「提督。攻撃隊出撃時刻です」
クリントンが、腕時計を眺めながら告げた。
ドルイトは、副官からの報告を受けると、司令官席から立ち上がった。
「攻撃隊発艦せよ!」
温厚な老提督からの出撃命令が発令され、F-35Bが発艦する。
「イワン少佐。ニューワールド連合軍連合空軍第2航空軍第6空軍第2航空警戒管制団第201航空警戒管制飛行隊のE-3D[セントリー]に連絡。攻撃隊が出撃したと伝えよ」
ドルイトは、イギリス空軍に所属する早期警戒管制機であるE-3Dに、攻撃隊への作戦行動支援を命じた。
護衛戦闘機として2機のユーロファイタータイフーンが随行した状態で、早期警戒管制機であるE-3Dが、作戦行動下にあるニューワールド連合軍連合空軍と連合海軍に属するイギリス軍航空部隊の戦闘指揮及び展開空域での警戒、友軍機の支援等も担当する。
「第3空母戦闘群空母[ロバスト]より、12機のF-35Bが発艦しました」
レーダー管制要員が、報告する。
「[ロバスト]より、攻撃隊の攻撃誘導及び、指揮管制を委託する指示が出ました」
通信管制要員が、報告する。
パラオ諸島では、極めて希に接近する台風がペリリュー島に上陸し、そのまま北上しつつある。
E-3Dは、パラオ諸島上空に展開する他のニューワールド連合軍連合空軍の早期警戒管制機や、航空自衛隊、朱蒙軍空軍の早期警戒管制機等の情報を総括し、気象データやその他のデータを収集し、リアルタイムで情報の転送を行うニューワールド連合軍前線作戦指揮団に所属するE-8Dが担当している。
「ペリリュー島に展開していた米仏連合軍アメリカ海軍の空母機動部隊は、自由フランス海軍の巡洋戦艦部隊に護衛されて、台風の強風圏外で作戦行動に入っている」
E-3Dで航空管制及び作戦指揮等を任されているイギリス空軍の大佐が、各情報を確認しながら、つぶやく。
「大佐。レーダーより、本機に接近中の航空機群を探知しました!」
「IFF(敵味方識別信号)を確認せよ」
レーダー管制官からの報告に、大佐は接近中の航空機群を確認した。
「IFFに反応!フィリピンのクラーク航空基地から離陸した菊水総隊航空自衛隊の空中給油機KC-767です。随行機は、護衛戦闘機です!」
管制要員からの報告に、大佐は腕時計を確認した。
「さすがは日本人、時間通りだな」
早期警戒管制機は長時間飛行が可能だが、いかに長い時間飛行できても、積載する燃料には限界がある。
そのため、空中給油機は常に離陸準備態勢を整え、必ず空中給油が必要になった時に給油用の燃料を満載した機が離陸する態勢だ。
「レーダー員。長距離飛行能力を迎撃戦闘機が接近する場合もある。警戒を厳にしろ」
いかにジェット戦闘機と言っても、万能では無い。
それを扱うのが人間である以上・・・その時の精神、執念等の様々なもので、人間の潜在能力は引き出される。
それが時に、気紛れや奇跡を起こすものだ。
敵も同じ人間である以上は、そんな事態が起きないとは限らない。
米仏連合軍に属するアメリカ海軍正規航空母艦[ホーネット]と[レンジャー]を基幹とした空母機動部隊は、大日本帝国海軍第2航空艦隊から発艦した、艦載機の航空攻撃に、かなりの損害を出しながらも、辛うじてその攻撃を振り切り、自由フランス海軍の巡洋戦艦部隊と合流する事に成功していた。
そこで、ペリリュー島に上陸した米仏連合軍上陸部隊から台風を突破し、猛烈な、航空攻撃を浴びせた回転翼航空機の編隊が、ペリリュー島飛行場攻略部隊を壊滅させたとの報告を受けた。
まもなく、台風がペリリュー島を通過するため、2隻の空母から攻撃隊70機の発艦が、行われていた。
戦闘機と爆撃機で編成した70機は、ペリリュー島飛行場に着陸し、現在整備、補給を行っている、神業のような無茶な飛行を行った、ゴースト・フリートの回転翼航空機への攻撃を行う。
応急修理で修復した[ホーネット]の飛行甲板から、次々と攻撃隊が発艦している光景を艦橋から眺めながら、艦長である大佐は、ペリリュー島上陸部隊からの報告を思い出していた。
「あれ程の台風下の中を突っ込み、対地攻撃を行えるとは・・・ゴースト・フリートの回転翼機部隊は、我々の想像をはるかに超えていたのか・・・」
部下たちの前で、艦の最高責任者が不安な顔や声を漏らすのは大問題だが、ほとんど士官、下士官、水兵たちは攻撃隊の発艦に意識が集中しているため、彼の声は聞こえない。
「艦長!哨戒活動中の潜水艦から、ゴースト・フリートのものらしき通信電波量が、この1時間で増大しているとの事です」
カーキ色の勤務服を着た将校が、報告した。
ゴースト・フリートや、スペース・アグレッサーからの通信電波は傍受できるが、通信内容は、あまりにも出力が違いすぎるため、内容までの傍受はできない。
当然、暗号通信に関しては、ほとんど解読不能だ。
「ふうむ。敵機の中には、レーダーに映らないジェット戦闘機が、存在する情報もある。引き続き、対空警戒を厳にしろ」
「サー!」
将校が、挙手の敬礼をした。
上空警戒と索敵機は、周辺空域に展開している。高出力の対空レーダーを搭載した、レーダーピケット艦も展開し、警戒している。
しかし、残念な事に、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第2艦隊第3空母戦闘群から出撃したF-35B隊は、E-3Dから航空管制を受けながら、索敵機や警戒機だけでは無く、レーダーピケット艦の警戒網の隙間を通り越していた。
F-35Bの対艦兵装を積んでいる機は、主翼下に対艦ミサイルを搭載しているため、ステルス性が若干低下するが、それでもレーダーには映りにくい。
攻撃圏内に侵入すると、対艦ミサイルであるハープーン・ミサイルを、2隻の空母と巡洋戦艦に向けて発射した。
ハープーン・ミサイルが飛翔してから、[ホーネット]に随行する高出力の対空レーダーを搭載した護衛駆逐艦が、高速接近する飛行物体を探知した。
「艦長!対空レーダーに複数の反応!恐らくゴースト・フリートのジェット戦闘機から発射されたロケット弾です!」
急遽、大量造船計画で建造された新鋭駆逐艦[フレッチャー]級汎用駆逐艦と、その発展型である[アレン・M・サムナー]級対空駆逐艦の一部が、[ホーネット]と[レンジャー]を基幹とする空母機動部隊の護衛駆逐艦として、派遣されていた。
同2隻は、ハワイ奪還のために、そのほとんどの同級艦が投入される計画だが、実戦時のデータ収集等のために、本作戦に投入された。
対ジェット戦闘機や、ロケット弾対処のために特化された艦隊型防空駆逐艦であり、高出力対空索敵レーダー搭載型駆逐艦である[アレン・M・サムナー]級対空駆逐艦は、アメリカ電子工業が現存技術を最大に使って完成させた索敵レーダーが装備されている。
5インチ単装速射砲や対空機銃は、すべてレーダーと連動し、発射速度も高めている。
「対空戦闘!対空砲弾幕!急げ、急げ!!」
艦長が、対空戦闘の指示を飛ばす。
レーダーと連動し、アナログ式ではあるが、すべてが自動化された対空砲が、火を噴く。
VT信管は完成しているが、ゴースト・フリートが使用するロケット弾は、極めて高速であるため、VT信管が探知し、起爆するまでの時間にすり抜けられ、間に合わない可能性が指摘され、直撃による破壊方式をとっている。
4門の5インチ速射砲から発射された無数の砲弾が、偶然にも1発のロケットに命中し、撃墜した。
だが、他のロケット弾が[ホーネット]と[レンジャー]の飛行甲板に、次々と命中し破壊する。
死闘南方戦線 第10章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は2月13日を予定しています。