時間跳躍 番外編 出会い
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
菊水総隊第7機甲師団第71戦車連隊第2戦車中隊第1戦車小隊所属、神薙司2等陸曹。
同じく菊水総隊第1護衛隊群所属イージス護衛艦[あかぎ]艦長、神薙真咲1等海佐の1人息子である。
「あの時の俺の気持ちは何だったんだ~!!」
タイムスリップをして、過去の日本に来て初めて菊水総隊の全容を知らされた時、[あかぎ]の名を聞いて、思わず絶叫した。
「何で、お袋まで来ているんだよ・・・」
よくよく考えれば、わかったはずだ。
いくら最重要機密で、海空の情報が遮断されていたとはいえ、自分と同時期に母親が特別休暇を与えられていたのだ、推測はできたはずだった。
「はあぁぁぁ~、どんな顔でお袋に会えばいいんだ・・・」
もう2度と会えない。そう思ったからこそ思い出の場所に誘ったのだ。
自分の早まった行動に、タイムスリップをしてからずっと数ヶ月、恥ずかしさから落ち込んでいる神薙だった。
「なあ、この場合慰めたほうがいいのか?」
「放っとけ、うちのマザコン車長は、立ち直りだけは早いから」
「・・・今回、滅茶苦茶粘っているぞ・・・」
帝国陸軍より貸し与えられた、宿営地で駐車している、90式戦車の前で1人戦車とずっと友達になっている自分たちより年下の上官を遠巻きに眺めながら、彼直属の部下たちは半ば呆れながら、そう囁きあった。
余談であるが、第7機甲師団も菊水総隊に組み込まれていた事を知った彼の母親は、唖然とした表情で1言「こんな、無茶な派兵に志願するなんて、一体誰に似たんだ?」と、ぼやいた。
「艦長でしょう」と副長の切山に返され、ガックリと肩を落とした。
「やはりそう思うか・・・」
それ以上、母親は何も言わなかった。
結論。とどのつまりは似た者母子であった。
「?」
ふと気が付くと、1人の男が自分の搭乗する90式を熱心に眺めていた。
「ほうほう・・・中々・・・これがあれば、関東軍がソ連の戦車隊に遅れをとる事はなかったな・・・」
独り言をつぶやきながら、男はしゃがんで下を覗きこんだりしている。
「あの~、どちら様ですか?」
この宿営地には時折、陸軍の将官や士官が視察に訪れてくる。
今日は、その予定はなかったはずだがと、思いながら声をかけた。
「おお、いや~すまん、すまん。このところ忙しくて、今日しか時間が取れなくてな、勝手に見させてもらっていた」
男は悪びれる事なく、笑いながら立ち上がった。
陸軍中将の階級章に、神薙は慌てて挙手の敬礼をした。
陸軍中将は、本当に楽しそうな人懐っこい笑顔を浮かべて答礼する。
「石原閣下!こんな所にいらっしゃいましたか?」
そこへ、慌てた様子の陸軍少佐が、駆け寄って来た。
「視察の申請をしている時に、居なくなられては困ります」
部下の苦言にも、彼は涼しい顔で笑っていた。
「石原・・・もしかして、石原莞爾!!?」
思わず声を上げた。
もちろん資料等で知っていたが、まさか本人に会えるとは思いもしなかった。
何となく気難しそうな人物だと想像していたが、こんなに人当たりの良さそうな人物だとは思わなかった。
「貴様!!閣下を呼び捨てるとは無礼なっ!!」
少佐が神薙を睨む。
「まあまあ、勝手に見て回っていた私も悪いのだ。細かい事に目くじらを立てるな」
「失礼しました。自分は神薙司2等陸曹です」
「神薙・・・確か、ファントムの艦隊の巡洋艦の女艦長と同じ姓・・・という事は・・・」
「閣下は母をご存知なのですか?」
「直接面識はないが、何、海軍に1人や2人の知り合いはいるのでな」
そう言って、石原は笑った。
しかし、史実では石原莞爾は、予備役になっているはずだが・・・
神薙の心に疑問が浮かぶ。
彼は気が付いていなかったが、彼が知る史実とは違う微妙なズレが少しずつ生じているのであった。
満州から引き揚げて来た関東軍は、再編され現在は千島列島、北海道、東北一帯の守備の任に就く、北部方面軍となっている。
石原は、その副司令官に任じられたそうだ。
第7機甲師団は、その北部方面軍と共同で北日本の防衛にあたる事が決定している。
その後、神薙は石原と少し話をした。
神薙の読んだ資料では、石原は白人嫌いで相当な変人と書かれていたが、本人と話をしてみるとそうでもないらしい。
確かに白人至上主義を唱えて、有色人種を何の根拠もなく蔑視する人々は嫌っていたが・・・
(俺の親父って、どんな人だったんだろうな・・・)
神薙の父親は、彼が生まれてすぐに、航空自衛隊の飛行訓練中の事故で亡くなった。
神薙の記憶の中に父の姿は無い。
石原と話していると、なぜか父と話している・・・そんな気になった。
「外出する機会があったら、いつでも訪ねて来なさい」
そう言って、石原は役宅の住所を記した紙を渡してくれた。
「閣下は、あの青年を随分とお気に召されたようですが・・・?」
神薙と別れての帰り際、迎えの車に乗り込む時に少佐が石原に尋ねた。
「いやいや、80年後の日本人も捨てたものではないなと思ってな。あんな、真っ直ぐな目を持つ若者はそうはいない・・・磨けば光る才能を持っている。そんな気がするだけだ」
昭和16年晩夏。日米開戦まで半年を切っていた。
時間跳躍 番外編をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は8月24日を予定しています。
次回は、総隊編成と登場人物紹介です。