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不思議の異世界のJK

作者: 遠藤れいじ

 柿沢高校一年の柏木 夕は、クラブの部室倉庫で何故か巨大な剣を発見した。


 夕が所属する書道部は、大した活動実績のないユルい文化系クラブだったので、ヒマをもて余した彼女は部室倉庫の探検をしていたのだった。

 この書道部は今でこそ部員も少ないが、伝統や歴史だけは古く、関連施設も何故か多かったりする。


「ねえ見て、スゴいでしょ!。

 大剣ゲ〜ット!!」


 少し埃にまみれた夕が大剣を手に部室に姿を現した。


 一瞬何事かと数少ない部員が彼女の声に振り返る。

 皆それぞれ部活動とは関係なく携帯をいじったり漫画を読んだりしていた。


「ナニそれ、何処で拾って来たの?」


「ふふっ、そこの第二倉庫で見つけたの!、いいでしょ?」


 どういう訳か、巨大な剣を彼女は小枝みたいに軽々しくとぶら下げている。


 どれどれ?。


 皆手を止めて夕の持つ剣に群がる。

 そして恐る恐る刃に触れたり突っついたり…。


 そして次第に皆この剣の不自然さにうっすら気がつき始める。

 この両手剣の柄も含めた全長は約150cmくらい。無骨な作りで刃も厚い。そして何より模造品とは思えないその質感。


 おかしい…。

 こんな小娘が片手で持てるようなものではないはず…?。


「ねえ、ちょっとソレ持たせてよ?」


 当然の反応が部員の一人から沸き起こる。


「いいけど、大丈夫?」


 そう言うと、夕は刃先をそっと床に降ろして差し出した。

 無造作だが、それでいて絶妙に剣先を接地させた瞬間、木製とは言え長い年月をかけて石のように踏み固められた床に不気味な震動が走った。


 ズンッ…!


「「「は…?!」」」


 一瞬、辺りが静寂に包まれる。


「いっ、いや、やっぱいい…」


 手を伸ばしかけた少女が慌てて手を引っ込めた。


「な、なんかさ…、ソレおかしくない?」


 一人の少女がもっともな疑問を呈する。


「フフ〜ン、どうやらわたし剣に選ばれちゃったのかなぁ?」


 夕は何だかブキミ〜なドヤ顔ぽい笑みを浮かべて言った。


「夕、キショいよ…」

「ま、まさか呪われて…?」

「それもしかして魔剣?!」

「いや、夕がキショいのは元々デフォルトだよ?」

「うん、確かに」


「ちょ、ちょっとそれヒドくなくない?!」


「それ第二倉庫で見つけたって言ったよね?、私ちょっと見て来る!」

「「あ、わたしも!」」


 そう言うと部員たちはゾロゾロと部室を出て行った。

 後にはただ一人、夕だけがポツーンと残されていた。


 えっ、ここはわたしSUGEEEEな所じゃないの?。

 て言うかもっとイジって欲しかったのに…、あるぇ…?。


 こうして流れ的に皆の帰りを待つしかない夕は、何故か一人寂しく部室で素振りをして時間を潰したのであった。(涙)





 最初に部室へ帰って来たのは龍恩寺 沙羅。超お金持ちの家柄で、見た目も麗しいお嬢様だ。


「夕〜、いる!?。

 ほら私も見つけたよー!」


 そう言って部室の扉を開けた。


「だ、だがそこにはムクれた夕がいた…。キショ…いや、デフォルトまみれの残念な夕が…」


「おっせーよっ!、それからそんな説明セリフ要らねーし!」


「ご、ごめんごめん。

 でも見て〜、私も見つけたんだよホラ!」


 そう言う沙羅は剣を一つ手にしていた。

 夕のような大剣ではないが、優美な装飾が施された細剣だ。

 お嬢様で美少女でもある沙羅に相応しい剣だった。


「あ゛あ゛っ?!、じゃ何か?、無骨で大雑把な大剣はわたしにマッチしていると?!、そう言う事かいな、え゛え゛っ?!」


「お、落ち着いて夕!、登場人物がセリフ外の文を読んじゃダメ!。

 そうじゃないの、そう言う事が言いたいのではないと思うの、だからとりあえず落ち着こ?、ね、あなた主人公よ?、たぶん…」


 息を荒げる夕を何とか沙羅が宥める。


「はぁ、はぁ、まあいいわ、確かにわたし主人公だもんね!。たぶんってのが引っ掛かるけど…。

 そんな事よりその沙羅の剣、なんだろね…?」


 夕は自ら持つ大剣を沙羅の細剣に重ねてみた。


 そう。多少美しい剣に見えるものの、夕が軽々と扱う大剣のような何の不思議さも無い細剣を「私も見つけた」と言って持って来た理由。

 それは剣に埋め込まれた珠にある。

 お互い刃の根元に埋め込まれた青い透明の珠。同じサイズで同じく真球。明らかに類似性があった。


 お互いに見つめ合いふと首を傾げる二人。


 とそこへ、フフフフ、と不気味な含み笑いが聞こえた。

 二人が嫌々振り返ると部員の一人、瑞原 奏が立っていた。


「わたしも見つけたよ…」


「奏…。ってそれ何!、杖?」


 何故か嬉しそうに彼女が抱える得物は剣ではなく、いわゆる魔法使いが持ってそうな杖だった。

 そしていまだに夕と沙羅が重ねる剣×2にその杖を突き出した。


 なんと、やはりその杖の先端には同様の青い珠が埋め込まれていたのだ。

 そしてその三つの珠が触れるほど近づいた時、大気が震えた。


「「「えっ…!!!」」」


 奏が反射的に杖を引くと震えは収まった。

 微妙な雰囲気で皆が固まる。


「なっ、なに今の?!」

「さあ…」

「フフ、共鳴するんだ…」


「カナ?、何か知ってるの?」

「え?、いいえ。

 でもこれって共鳴でしょ?、ほら」


 そう言って杖を剣に近付けると、また音にならない大気の震えが広がった。


「ウフフ、凄い…」

 と奏が暗く笑う。


「キャ〜〜、ヤッバ!。コレかなりキてるんじゃない?」

 夕も興味津々ではしゃぐ。


「はあ?、ちょっと何コレ怖い…、んですけど…?」

 一人沙羅だけが怯える。


「ねえカナ、これ絶対何かあるよね?。

 そもそも共鳴するって何事よ?!」


「うん怪しすぎる…。

 それに共鳴ってだいたい何か発動する前兆だったりするし…」


「えっ!、じゃあ発動しちゃうんだ?!」


「かもね…」


「ちょ、ちょっと!、なに物騒な事言ってるの?、ここ日本よ?、んで私たちただの女子高生よ?。

 ダメ!。変な事考えちゃダメだからね…?!」


 だがビビる沙羅を尻目に、夕と奏は淡々と議論を重ね続ける。


「ちょっとやめなさい、お願いやめて?、実験とかしないよ?、データと必要無いから!」



「はあ〜、お待たせー」


 その時また部室の扉が開いた。部員最後の一人、多田 信子だ。


「「「ナニソレ???」」」


 少ない部員全ての目がソレに注がれた。


 盾だった…。


「盾って…。ああ、そう来たんだ、ちょっと変化球を投げてみた訳ね?…。ま、お約束だもんね」

「確かにストレートだけじゃ三振は取れないものね…。

 でも盾だけなの?、盾メインなの?」

「それなんかヤダ…」


「イヤイヤイヤ!、ちょっと待ってよ!。

 ちゃんとホラ見て?、コレみんなと同じ玉付きだし、絶対これも同じシリーズだよ、なんで仲間外れみたいになってるの?!」


 良く見ると盾の中央が透明の素材で出来ていて、その中に紛れもなく例の青い珠が収まっていた。


「へえ…、細工的にはなんか斬新だね、盾?、だけど」

「そうね、無駄に斬新な盾?、ね」

「わたし盾?、じゃなくて良かった…」


 みんなよそよそしく信子の盾?、をチラ見する。


「もうヤダ…、なんでみんな盾に「?」を付けるのよ…。

 それからそんな可哀想な物を見る目でこれを見ないでよ…」


 うう、と信子はorz的に項垂れる。


「それよりさ、この青い珠の付いた武具ってこれで全部かな?。

 もしかしてまだ倉庫に似たようなのが残ってたりするかな?」


「ん〜、でもまあいいじゃん。とりあえず今あるこれだけで試して見ようよ」


「え、試すって何を?」


「「共鳴の先にある何か、に決まってるでしょ!?」」


 なんだかJーPOPの歌詞でありそうな台詞だな。


 と言う訳で、ビビる沙羅とヘコんでる信子を無視して、夕と奏が有無を言わさず4つの武具を無理矢理重ね合わせた。


 すると早速共鳴が湧き起きる。

 しかも3つの時と比べ、さらに大気が震えが強い。

 なのだが、沙羅が怯えてオタつくせいで共鳴に乱れが走る。


「沙羅!、しっかり剣を持ってちゃんと構えて!」


「ヤ、ヤダ…、だってコレなんか怖いんだもん…」


「チ…、沙羅、大丈夫よ!。

 だってここ日本だよ?、そんでもってわたし達ただの女子高生よ?、そんな簡単に常識がひっくり返るわけ無いじゃん、バッカだなぁ!」


「グッ、うう…」


 夕に絶妙なブーメランを食らった沙羅は、恐怖よりも強い言葉の力によってただのいいなりと化してしまう。


「盾…、確かに盾だけってなんだか悪意を感じるわ…。だいたい盾だけで一体どうしろと…?。

 いや、でもマイナススタートだからこそデメリットを覆す隠された能力が?。

 もしかして後半加速型で最終的には一番可能性を秘めたタイプだったり?!。

 て、それはないか…」


 一人だけ置き去りのまま共鳴は続く。


「ん〜、でもなんだろ?、共鳴はしてるんだけどそれだけだね?。やっぱまだ何か足りないのかな?。

 ねぇカナ?」


「そうね…、でもわたしらの感情の起伏に反応してるみたいだから、ちょっと盛り上げてみる?」


「どうするの?」


「フフフ、こんな状況にちょうどぴったりの言葉(呪いの)があるから、それを今からみんなで声を合わせて…」


「「「ヤダよ!!!」」」


 その瞬間、共鳴が一瞬にして臨界を越え、振動がフラットになった。

 共鳴自体は続いているが、少女達の一瞬の感情的な高まりを受けてより高位の状態に移行したのだ。


 するとそれぞれの青い珠から魔法陣が発生した。

 そしてそれらは引かれ合って重なり、さらに巨大な魔法陣を形成する。


 次々と勝手に動き出す現状を、少女たちはただ茫然と眺めていた。


 そして彼女ら全員を取り囲んだ魔法陣は派手にエフェクトを撒き散らし、役目を終えると弾けて消えた。

 こうして少女たちは異世界へと転移したのだった。


終り。



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