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第3話 訓練の時間

「そうそう。空中給油も大分なれたようだな、滋野伍長」

「ど、どうも」

 徴兵事務局の1室。俺と教官の黒江康彦くろえやすひこ少佐の2人きりで空中給油訓練を行っていた(意味深……なわけではない)。

 徴兵事務局に通うようになってもう半年。俺は一般飛行学生を修了して空軍飛行大学の課程をうけていた。ちなみにシュミレーターでだが模擬空戦を体験したぞ。

 それはなんというか、俺のやっていたゲームと同じだった。

 操作性が少し変わっただけであり、これといって今までしてきたことと変わらない毎日を送っていた。(違うのは一度も落ちてはならないというところか?)

 そう、俺は家をでる。電車にのる。徒歩で徴兵事務局に行く。座学やシュミレーターで訓練する(遊ぶ?)。帰る。軍のホームページにアップされている(もちろんログインしなくちゃいけない)座学の動画を見返して復習して時々あるテストに備える。

 あれ? もしかして資格を取ろうとする大学生のような生活してね?

「伍長、そういえば君は配属希望とかあるか?」

「配属希望?」

「ほら、戦闘機とか、偵察いきたいとか」

 そんなこと考えてなかったな。まぁ俺は戦闘機パイロットに――

「まぁ、最近は対地攻撃機のパイロットを募集してるからな。戦闘機乗りは難しいと思うぞ。それに第一希望外れるとこっちが勝手に配属決めちゃうからね」

 なん……だと……?

「まぁ制空権獲得のためだけの戦闘機ってのがもう整備されちまってるし、募集定員も年々減ってるからな。やっぱ攻撃機のパイロット目指したらどうだ?」

「そ、そうですね……」

「ちなみにその適正試験は明後日行う。お前なら戦闘機も攻撃機もいけると思うが、攻撃機のほうがいいぞ。まず任務が楽だ」

 楽って、今も結構、楽なんですが少佐。てかゲームして金もらって……あれ? もしかして天職なんじゃ?

「これよりも楽なですか?」

「任務自体も決まった時に決まったように飛んで決まった物を壊すのが攻撃機の仕事だしな。戦闘機だといつスクランブルが来るかわからんから攻撃機の方が楽だと思うぞ。俺は旧空自の頃にイーグルに乗ってたが、スクランブルかかるかもって思うと中々寝付けなくてな。教官になれて俺は幸せだよ」

「F15Jに乗ってたんですか」

「乗ってたよ。尖閣事変の時も飛んだし、おかげで機体にキルマークかけたよ」

「すごいじゃないですか!?」

「いやいや、俺が落としたのは解放海軍の哨戒ヘリだから大したことじゃねーよ。それより給油終わったぞ。給油機から離脱、これより対地攻撃作戦を開始する」

「了解」

 機種をどれにするか迷う。やっぱり攻撃機なのかな? 嫌だなぁ……。あ! でもA10神は好きだし、A10の後継のMQ-20パンサー無人攻撃機とか無骨すぎてルーデル閣下ご用達といった飛行機も憧れはあるんだけどなぁ。あと厨二的だし。

 だけどやっぱりシャープなデザインの戦闘機のほうが絶対に乗りたい。

 まぁ今考えても埒が明かないのでため息をついてから画面に集中する。画面にはほとんどが緑と青に支配されている。

 これから行うのは敵地奥深くにある兵器工場への攻撃。

 俺の操る練習機(通称『赤とんぼ』)の翼にはアメリカ空軍から給与されたマーベリックが合計6発と20ミリの6連発バルカン砲。後は防御用のチャフとフレアがおまけ程度に搭載されている。

 『赤とんぼ』は米軍と航空自衛軍となんとか重工業が開発した国産の無人戦闘攻撃機『飛燕』や無人戦闘機『隼』を足しで2で割ったような性能で、よく言えば対地、対空戦闘のバランスが取れているが、悪く言うとどれも中途半端で器用貧乏だと黒江少佐が言っていた。

「いくらステルス性に優れる無人機でも敵からSAMを撃たれるから気をつけろ」

「りょう……来た」

 黒江少佐に返事を返す直前にアラームが響く。チャフとフレアはまだ使わない。機体をロールさせなが高度を落とす。上下が逆になった視界の中に3本ほど白い線がこっちにむかってくる。

 俺は機体の速度を一気に上げ、それと反比例するように機体を降下させる。ミサイルは全部俺の上を通り過ぎる。またロール。機体の向きを直し、なお加速する。

「低すぎるぞ」

「高いと狙い撃ちされるって」

 アラームが響くがすぐに消える。山間をギリギリ、それも高速で飛行してんだ。当たりっこない。昔の空戦ゲームでダムに作られた核ミサイル基地を破壊するミッションがあった。そのミッションではダムまでの渓谷を低く飛行しなければSAMに狙い撃ちにされた。あれと同じだろう。

 目標の工場が見えた。

 マーベリックを工場にロックオンする。い・ま・だ!

 工場と擦れ違い様に俺は空対地ミサイルを2発撃つ。そのまま離脱。操縦桿を小刻みに動かして地形に這いつくばるように飛ぶ。

「あれだけじゃ工場は破壊できないぞ。もう一撃加えろ」

「わかってるって」

 俺は機体を宙返りさせながらロール――インメルマンターンをして工場に向かって突き進む。対空機銃を撃ってきたが、速度が速度なのでまず当たるはずがない。

 俺はまたマーベリックを発射する前にバルカン砲をおまけ程度に発射した。そしてマーベリック発射。また工場から距離を稼ぐ。

「さっきの攻撃で十分だと思うが、戦果確認を行った後に帰還せよ」

 俺はまたインメルマンターン。工場上空をフライパスする。工場は黒煙を上げながら爆発していた。

「目標の破壊を確認。これより帰還する」

 レーダーを見れば俺を落とそうと迫る敵機が映った。この距離ならステルス性に優れる俺の赤トンボなら探知されていないだろうが、敵機と戦闘するための武装は20ミリバルカン砲しかない。そういやまだマーベック残ってたな。敵機に対してマーベリックなんて使い物にならないし……進路上に適当にマーベックを発射して帰るか。

「敵機探知、これより離脱する」

 基地のある方角に進路を変更し、マーベリックを発射した後、俺は敵のレーダーに探知されるのを避けるためにまた這いつくばるように飛行する。

「これでミッションクリア……」

 ゲームのステージをクリアしたような満足感。だが実際にやってるのはゲームなんだから同じ満足感か。

「滋野伍長……」

「なんです少佐?」

 俺は画面から目を離すことなく飛行する。目を離せばこの地形に殺られてしまう。

「上官にため口とはな。俺もなめられたものだな」

「え、いや、そんな……」

「この馬鹿もん!」

 痛て!! って落ちた! さっきので赤とんぼが地形に食われた!!

「少佐……落ちたのですが……」

「口のきき方は気をつけろ。丁種の連中ときたらゲームと現実を混ぜやがって……あとマーベリックを勝手に撃つな! もったいないだろ」

 軍事費の額はお世辞にも良好とはいえない国だ。ゲームのように無駄うちはできないのか。



「はーい。これで試験終了。後は自宅待機で」

 試験オワター! とりあえず空戦とか対艦対地攻撃をやったけど落ちたりしなかった。うん、よくやったな、俺。

「試験結果は1週間後に郵送されるから」

 ちなみに俺の配属第一希望は、攻撃機だ。

 そりゃ戦闘機乗りたいが黒江少佐がああいってたし……。せめて敵と戦闘がしたいし、適当に配属が決められて偵察とかやられたらいやだし……はぁ。

「あと結果と一緒に辞令も入ってるから今週のうちに荷物をまとめとくこと」

「まとめるって……」

「任地は日本のどこかの基地だから。だから荷物まとめて」

 つまり俺は慣れ親しんだ土地(と言ってもほとんど家から出てないけどね!)を離れなければならないのか!?

 いやだな。見知らぬところでの生活なんて嫌だ。

「これでお前ともお別れだな。まぁどっかの基地で見かけたら声かけてくれ」

 そんなこと言われてもわからない場所で生活するなんて……。

「なにそんなに青くなってんだよ。大丈夫だ。向こうにはお前と『同類』がいるよ」


『辞令 滋野清隆伍長 2033年4月23日を持って軍曹に昇進し、日本国航空自衛軍第5航空師団飛行第64戦隊所属の無人戦闘攻撃機『飛燕』のパイロットに任命す。国防省』


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