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第2話 徴兵されたけど質問ある?

 女の子によって突然平穏を破られる。

 そんな上手い話しはない、はずだ。

「徴兵局の者です。滋野清隆様ですね。召集令状をお持ちしました。おめでとうございます」

 30か20代の後半の女が俺の平穏を壊してきた。女の子じゃないのが口惜しい。俺はどうする? とりあえずデマじゃないか確認しなきゃ。ドッキリとか嫌だよ。

「あ、あの何かの間違いじゃ……」

「いえ、そんなことは……お確かめください」

 女性が召集令状を差し出した。間違いがないか確認する。確認した。間違いは無かった。そもそも俺にドッキリをかける物好きがいない。というか友達がいない。あれ? 目から汗が……。

「で、でもいきなり徴兵とか言われましても……」

「安心してください。初心者の方でも訓練を受ければすぐに英雄になれますよ」

 なんだよ、その笑顔。俺はどうすりゃいい? どうすればいい?

「ご不安なのはわかりますが、心理的ケアをする相談局もあります。そこにお気軽にお尋ねください。それでは1週間後に地元の徴兵事務局に午前9時に住民票を持ってお越しください。あ、場所は召集令状の裏に記入されています。また召集令状を駅員やバスの運転手に見せると交通費が全額無料となりますし、手続きで必要なので忘れないよう事務局まで持参ください。ではご不明な点は地元の徴兵事務局にお電話してください。それでは失礼します!」

 まぶし過ぎる笑顔とおまけに敬礼。彼女は扉を閉めると足音を遠くに響かせながら消えた。


 俺が!? 徴兵だと!? どーゆーことなの!?

 俺は今を輝くニートで引きこもりでもある(ちなみに来週で引きこもり歴3年のエースだ)。

あぁ……胃が痛いよ。頭痛も痛いよ。どうしよ……。

 外に出るなんてコンビニにいくとき以外ない俺が軍隊生活って……。

 あの時、大学に通い始めたときだ。道行く人々が俺を非難するようなあの目。

 この世にいる全ての人間が俺を非難するような気がして俺は逃げた。

 そして篭った。部屋にいれば誰とも会わないし、誰にも非難されない。

 今のようなお隣さんの顔も名前もしらない世の中だ。自分の家の隣にこんな引きこもりがいるなんて誰が想像できる? ちなみに俺は隣人の生活を想像できない。

 俺にとっての安全地帯である家から出なくてはならないのか?

だが、もしかするとこれが俺に与えられた真人間復帰のチャンスなのかもしれない。いくら安全地帯にいるからといって今俺がしていることは反社会的な行為だ。

 親からの生活費も苦しい言い訳をしながら細々と送られているが、1週間に3日断食を行わないとやっていけないのが最近の現状だ。そのために部屋にあったゲームの大半を売った。

電気代節約のためにパソコン以外の電化製品のコンセントは抜いた(冷蔵庫の中身は乾麺のみだぜ!)。

 それでも引きこもってオンラインゲームしかやってない俺が軍隊に行って真人間になる。

 でも軍隊ってあれだろ? 勝手にニックネームをつけられて返事は「サーイエッサー」の一言って奴か? 嫌だな……。

 さっき手渡された召集令状が偽物であってほしい。

 えーと……滋野清隆、4月9日付で国防省より徴兵丁種合格を命ず。


 桜が舞い始めた。風もゆるい。散発した髪が短くなびく。青系のチェックシャツの裾から黒い無地のロンTが見え隠れする。

 俺は目の前に迫った徴兵事務局の前にいる。袈裟がけにぶら下がるショルダーバックのヒモをかけなおす。

バックの中には心もとない現金、召集令状、住民票、ペンのみ。軽過ぎてすがりついても落ち着けない。せめて財布が重ければなぁ。

 だが俺のそんなワーキングプアな生活(働いてねーけどな!)ともおさらば! 軍人なって金を稼いで一攫千金!



「それじゃ、召集令状は? うんうん、あ、丁種の方? わかりました、しばらくお待ちください。係の者が来るので」

眼鏡をかけた陸自の正装を着込んだ中年がカウンターの奥の事務員室に入って行く。

話には聞いていたが、自衛隊から自衛軍と名称は変更されたが軍服は前の物とそう変わらないらしい。

「お待たせしました。え~と滋野さんですね」

 柔和そうな顔に黒ぶち眼鏡をつけた40後半の男だ。青い開襟式の制服――航空自衛軍の軍服を着こんでいる。

「ではこちらに来てください。適正検査と証明写真の撮影しますんで」

 俺は言われるがままに視力や聴覚検査をうけ、どんなゲームをしているだとかどんな兵器に興味あるかなどのアンケートを書かされた後、証明写真を撮らされた。

「お疲れ様です。自販機から適当に何か買ってのんびりすごしてください。私は少し席をはずしますんで」


 やべぇ。やべーよ。俺しゃべったのって丸のどこが欠けてるかか、音が聞こえてるかくらいしかしゃべってねぇよ。

 これじゃ俺がまるで対人恐怖症みたいじゃねーか!!

 てかのんびりって、俺がのんびり出来るのはカーテンが閉められたワンルームの俺の部屋しかねーよ。

 怖いよ! 怖いよ! あの野郎が渡したアンケートの意味ってなんだ!?

 ダメ度か!? ダメ人間の度合いを調べてるのか? チキショウ! こんなことなら嘘八百かいとけばよかった。

「お待たせしました」「畜生!!」

「……」「……ッ!」

 やっちまったぜ! ってそんな場合じゃない! 穴は無いか!? もしくは引き出しから過去に戻りたい。あとラベンダーの香り!!

「……あの、よろしいですか?」

「……よろしいと思います」

 気まずい空気の中にパイプ椅子が動く音が妙に耳に残る。帰りたいよぉ。

「では診断の結果、貴方は航空自衛軍の無人機のパイロットになってもらいます」

「そ、それって空軍ですか!?」

 空軍か! しかもパイロット!? この俺が!? まぁ海兵隊いって変なニックネームつけられて死にそうな訓練をうけなくていいってことだろ!? ひゃっはー!

「嬉しそうですね。まぁあ陸自には徴兵丁種の人はいけませんよ。最近の空自と海自はみんな丁種か丙種の人ですよ」

「そ、そうなんですか」

 よしやった! しゃべれた!! 俺よ、よくやった。うん、騎士鉄十字章とかもらえんかな。

「そうですね。尖閣事変を経て空軍と海軍が無人機と無人艦を運用するようになってもう結構なりますねぇ。おかげで人件費は下がっても戦力は落ちないって国防総省は喜んでますよ」

「へぇ」

 もっと気のきいた相槌が打てればいいのだが俺はそんなものは知らない。そもそも人と話すのが苦手なんだ。早く解放してくれよ。


「じゃ、これから貴方は一般航空学校で教育をうけ、各分野別に特化した空軍飛行大学に進学してもらいます。そこを卒業したら部隊に配備されますので」

「え? 学校……」

 俺の胃がすくみあがる。額から汗が浮き始めたのがわかる。

「いや、そんな大層なものじゃないですよ。要は操縦技術を身につけるだけですから。場所はここですよ」

「ここ!?」

 相槌が下手とかそんなんじゃなくて聞き返してしまった。ここって駅から数分の場所にある徴兵事務局で!?

「無人機の操縦練習は基本的にシュミレーターを使います。ほら車の免許とるときにやるでしょ? あれと同じですよ」

「でもそれじゃ実際のと違うんじゃ……」

 シュミレーターって、要はゲームの画面が本物か否かってことじゃないのか? それじゃ実際と感覚が違うんじゃ?

「同じですよ。パイロットと言っても実際に貴方が乗るわけじゃないんですから。部隊によって基地は違いますが、全部遠隔操作なのでゲームと違いありませんよ。あ、ちなみに空軍飛行大学もここですから」



 そうして俺の軍隊生活が始まった。


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