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第1話 俺と戦闘機

勇者様ですか?いいえ政治将校ですを書いてるべりやです。よろしければそちらもどうぞよろしくお願いいたします。

 青い空。そこに描かれる白い線。そしてオレンジの爆発。

「撃墜!!」

 俺は思わず手を打った。これまでいくつもの敵を撃墜してきた。だが俺の操る『F15』が敵を落とすたびに歓声を上げてきた。

 これだから止められない。

 ミサイルによる撃墜も楽しい。だがそれはバルカンによる撃墜ほど楽しいわけではない。

 相手とのバルカンによるドックファイトは機体の性能をフルに活用し、相手の動きを読み、自身が持つ全てのテクニックを使って勝利をもぎ取るのだ。

 あの銃弾が敵に命中するまでのもどかしい時間が、敵の後ろを維持する微細な操作が俺の頭にアドレナリンを大量に放出させてくれる。

 脇に冷たい汗が流れ、心臓がせっかちに動くあの感覚が大好きだ。

 だから戦争は大好きだ!


 だがその感覚を味わう時間はあまりにも短かった。俺の耳にアラームが聞こえたからだ。

 レーダーを見ると後ろに3機も張り付いている。それらから小さいミサイルを表す点が向かってくる。

 それも近い!!

 アラームの音が大きくなる。フレアとチャフを散布し、アフターバーナーで急加速、右側に降下してよける!

 3機いる内の2機も降下と加速を行い迫ってくる。だがそれよりも早くミサイルが来る! 数は6、俺一人をやるにはオーバーキルも良いところだ。

 だが俺はこんな所でやられる訳にはいかない。限界まで『F15』を加速させて離脱を目指す。アラーム音がうるさい。

 こうなったら一気に左に急旋回、そして急降下をして切り抜ける。

 『F15』は俺が思った機動通りに走ってくれた。アラーム音も消えた。だがレーダーには俺と共に降下を続ける敵の戦闘機がいる。

 敵機との距離はさっきの急旋回で開いている。だが2機とも距離を保ち、いつでも次のミサイルが撃てるポジションにいる。下手に距離を詰められるとまたミサイルが飛んでくる。

 だったら、上手く距離を詰めるまでだ!

 俺はわざと敵と距離をつめるために急降下を止めて水平飛行に移る。まだ敵との距離はある。

深呼吸を一つ、それから俺は自分の機体をループさせて高度を稼ぎながらロールをして『F15』を背面から水平にする。そして敵機を下方にやり過ごしたらバンクをして機体を斜めに傾け、上方宙返りをして高度を速度に変換する。機首の前方には、敵機だ!

 敵機は旋回して俺を追撃するためか左右に分かれて飛んでいる。左の奴は高度を変えずに回っている、間抜けな奴め。だが右の奴は旋回しながらも高度をとっている。きっとその後は降下して速度を稼いで俺と戦闘するのが目的なのだろう。

 俺は迷わず左側の間抜けをロック、サイドワインダーを2発撃ちこむ。

 2機とも慌てて旋回を止めて回避運動にうつる。俺は右側の奴の後方に向かって速度をあげる。

 左の奴がもしミサイルをよけたとしても空戦技術はこっちが上なんだ。無視しても大丈夫だろう。だがコイツは違う。こっちを生かしておくときっと俺が不利になるだろう。

 だから迷わない。右側の奴の尻に食いつくために敵の動きを読みながら接近する。

 その時、視界の本当の隅にオレンジの光と黒煙。レーダーをサっと確認する。ミサイルと左に曲がった敵が消えている撃墜だ!

 前方の敵はジグザグに飛行して俺の射線に囚われないように飛んでいる。

 今、俺は敵に対して主導権を握っている。だが油断は出来ない。

 ジグザグに飛んでいるということは誤って前に出てしまうことがある。それは正に逆転。

 だから俺は『F15』を考えてではなく今まで培ってきた反射だけで飛ばす。

 そして俺は何も考えずバルカンを発射する。レーダーを確認するとちょうどバルカンの射程だ。

 敵の動きのすぐ先を狙う。オレンジの閃光が相手をかすめる。慌てたように降下、だが俺の機首のほうがわずかに早く下を向いた。

 オレンジの尾を引いた弾が相手に吸い込まれ、火花が散り、相手は爆散した。

「うおっしゃー!!」

 2機とはいえここまで本気を出したのは久しぶりだ。俺の中に充足感が広がり、再骨頂まで高まったアドレナリンが体にしみわたる。

 これが勝利である。己の全てを使って相手を殺すのである。これ以上の喜びがあるなら俺に教えてみろ!

 だが、またアラームの音が響く。どうして? 敵は全部やったはず……いや、俺を襲ったのは3機いた!

「しまった!!」

 レーダーを見ると俺の後方、そして上方に1つ敵が飛んでやがる。そこからミサイルが2発向かってくる。距離もそう無い!!

 クソ! フレアとチャフを使って回避、インメルマンターンでもすっか? いや! さっきフレアとチャフは全部使ったんだ! 回避するしかない!!

 だがどんなに動いてもアラームが止まらない。やべ! 終わった!!

 ミサイルと俺の機体が接触した。そして顔面に『ゲームオーバー』の文字。

 クソ! 俺が落とされるなんて。


 俺はパソコンの画面から顔をあげて髪をかき上げる。ここ1年は散発していない髪はとても長く、脂っぽい。

 閉め切られたカーテン、万年床、ゲームやカップ麺などが転がった床。

 俺はこの部屋を見るたびにいつ外に出たかと思った。

 確か1週間前にコンビニに食糧を買いに行ったっけ? 

 パソコンの画面に経験値や報酬が出ている。適当にクリックしてチャットを確認。

『ニートのイーグル落としたお』

 ……そう、俺の職業はれっきとしたニートだ。それに加えて引きこもりのライセンスもある。ちなみに引きこもり歴2年、あと1週間もすれば3年目に突入するエースだ。

 大学を中退してもう2年。月日が経つのは早いと先人は言ったが、誠にその通りだ。その内、世界新記録くらい樹立するだろう。だからそれまで精進を怠ら、

「ごめんくださーい!」

 ないって誰だ! 女の声だがこんな時間になんのようだ……ってもう朝の9時か、そろそろ寝たいとな。いくら俺がトップを狙ってるといっても睡眠は大事だ。

「ごめんくださーい」

 呼び鈴を鳴らすな、ドアをたたくな、声をだすな。さっさと帰れ。

「ごめんくださーい!!」

 俺は人と会話するのが嫌いなんだ。特に女と話すのは苦手なんだ。だから早くゲットバックヒア!

「ごめんくださーい!」

……もうわかった、わかった。どうせ新聞かなんかの売り込みだろう。だが引きこもっている俺には俗世のことなど関係ない。適当にあしらってしまおう。そうだ。『間に合ってます』と一言申してやればいい。

 俺はドアを開けて相手にガンつけて相手の話を聞いて一言申してドアを閉める。完璧なブリーフィングだ。

さぁ、ドアを開けるぞ。顔の準備は? 全てよし! いざッ!!

「あ、こんにちは。徴兵事務局の者です。滋野清隆しげのきよたか様ですね。赤紙――召集令状をお持ちしました。おめでとうございます」

 なん……だと……?


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