第10話~困惑~
玲の家を出る頃には、空は既に茜を越えて闇色に変わっていた。といっても隣が自宅なので普段はあまり気にしない。
ただ、今は無性に空が見上げたくなった。
「言えないよ。私もまだよく分かんないんだから」
ポツリ、そう零す。
曇りがちな今日の空では、空を彩る星は見えない。しかし今の柚子には逆に好都合だ。
星があれば、誰かに泣きそうな顔を見られそうで怖いから。
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「おはよう柚子!大丈夫!?」
次の日。学校にやって来た柚子に梨乃がかけたのはそれだった。
「え・・・あ、おはよう。梨乃ちゃん、大丈夫って・・・?」
「なに言ってんの!昨日沢木と・・・フギャッ!」
眉をしかめて口早に告げる梨乃を黙らせたのは、無表情で拳を握る要だった。
「梨乃、落ち着け。・・・ジュース奢れ」
「はいはい、要も少し落ち着いて。そして黙れ。・・・柚子ちゃん、昨日沢木と居たって本当?」
笑顔で命令する理織に少々恐怖を抱きながら、柚子は頷いた。
それを見ていたらしいクラス中の人間がざわつく。中にはチラチラと憐憫の眼で見る者もいて、柚子は皆に見えないように眉をひそめた。
わからない。何があった?
そんな柚子の疑問を察したのか、梨乃が口を開く。落ち着けと言ったのに無視をする梨乃を理織が冷たい目で睨んでいるが、あえてスルー。
「昨日2人でいるところを見たっていう子がいるの!沢木って噂があるでしょ、柚子をターゲットにしたって専らの噂だよ!」
「・・・!?」
目眩がした。次いで、浮かぶのは形にならぬ怒り。
何故、たったそれだけで大和が責められる?
「・・・ふざけないでよ!沢木君は・・・そんな人じゃないっ!」
「ゆ、柚子!?」
シン、と静まり返る教室で、走り去る音だけが響いていた。