第9話~漆黒~
ギィ、と大きな扉が悲鳴をあげて開く。開けた視界に映るのは、壮大な枯山水と日本家屋だった。
1人の少年が、そんな芸術的ともいえる風景の中を歩いている。その足取りには緊張は無いが、同時に気安さも無く、必要だから歩いている・・・そんな感じだ。
「大和様」
日本家屋の奥から老婆の呼ぶ声が聞こえて、少年・・・沢木 大和はクルリと方向を変えた。
トタトタと足音をたてながら、歩く速度は変えずに、大和は己の頭に手を伸ばした。
パサッ
大和の頭髪がズレて、中から艶やかな黒髪が現れる。風に流されて、長い髪が空中に軌跡を描いた。
「・・・大和です。入ります」
一際豪華な襖の前に立ち、大和は返事を待たずに開けた。
普通の人間は、そんなことをしてはいけない。否、出来ない。
『沢木』という世界でそれが出来るのは、大和だけ。
「やあ、大和」
広さにして約13畳。灯りは無く、今はもう闇に包まれるのを待つだけのこの部屋で、白と紅の着物がやけに目を引いた。
居たのは、大和と同じ年頃の少年。
長い黒髪。白い肌。切れ長の眼。真っ白な着流しに赤い羽織。
畳に、黒と白、そして紅が緩やかに遊ぶ。
「大和、大和。顔をよく見せて」
少年が、大和の頬に手を伸ばす。折れそうなほど細い指が、大和の顔を覆う眼鏡を払い落とした。
カシャン
現れる、少年とそっくりな美しい顔。楽しげな笑みを浮かべる少年に対して、大和は無表情に少年を見つめている。
「大和は僕の。一生、僕のもの」
「・・・はい」
フ、と完全に陽がおちた。
黒が、交じり合う。