第8話~影の片鱗~
「で?何があった?」
半ば無理矢理に玲の部屋に連れ込まれ、ベッドに座らされた柚子は、目の前で笑っている幼なじみに苦笑いしか返せなかった。しかしそんな柚子の反応に不満があるらしい玲は、苛立った様に目を細める。
「ゆーず」
「・・・」
普段気弱な柚子も、玲は別だ。16年という長い付き合いから、柚子は玲の性格をよく分かっている。そして、玲も彼女の性格を理解していた。
絶対に、喋らない。
「柚子」
玲の声音が変わり、次の瞬間柚子は柔らかなシーツの上に押し倒されていた。
「れ・・・い」
声が、うまく出ない。影になった玲は、ひどく複雑な顔をしていた。いつも笑っている様で無表情な彼の、唯一知っている、顔。
「お願い、教えてよ。柚子・・・」
パサリと肩から束ねられた黒髪が滑り落ちる。玲の顔が半分以上黒で塗り潰されて、さらに柚子の頬に散る。
「俺に・・・話してよ・・・。隠し事、なんて・・・嫌だ・・・」
震えた声に、柚子は驚く。今まで、そんな玲の声なんて聞いたこと無い。
柚子は、動かない。 動けない。
柚子の見開かれた瞳は、何かに耐えるように微かに揺れていた。