9
それから数日後。
私はついに限界だった。
「先生」
「何でしょう」
「本しか読んでません」
「そうですね」
「剣術とは」
「剣を学ぶことです」
「剣を持ってません」
先生が黙った。
父様が遠くで顔を覆った。
そして。
ついにその日が来た。
先生が木剣を持って現れたのだ。
私は立ち上がる。
「来た」
「来ましたね」
「来たぁぁぁぁ!!」
父様が頭を抱えた。
私は木剣を受け取る。
軽い。
でも思ったよりしっかりしている。
(ついに……)
ついに始まる。
主人公育成イベント。
「まずは振ってみましょう」
先生が言った。
「好きなようにで構いません」
「はい!」
私は木剣を構える。
そして。
振った。
ブンッ!
風を切る音が響く。
先生が固まった。
もう一回。
ブンッ!
先生の眉がぴくりと動く。
もう一回。
ブンッ!
沈黙。
私は首を傾げた。
「先生?」
返事がない。
先生は木剣を見ていた。
正確には。
私を。
「……旦那様」
「なんだ」
父様が近づいてくる。
「お嬢様は以前、剣を習われていましたか」
「いや?」
父様も固まる。
「本当に?」
「本当だ」
二人とも私を見る。
私は何も分からない。
「?」
先生は真面目な顔になった。
「お嬢様」
「はい」
「もう一度振ってください」
私は頷く。
ブンッ!
「……」
ブンッ!
「……」
先生が天を見上げた。
「どうしました?」
先生はゆっくり口を開く。
「才能があります」
私は目を見開いた。
(来た)
やっぱりだ。
主人公補正。
異世界転生。
隠しステータス。
全部繋がった。
「勇者ですね!」
「違います」
即答だった。
「騎士ですか!」
「違います」
「剣聖!」
「違います」
「じゃあ何ですか!」
先生は少し考えた後、
静かに言った。
「筋が良いんです」
私は考えた。
そして結論を出す。
「つまり主人公ですね」
「違います」
父様と先生の声が綺麗に重なった。
その日から。
リリアはますます自分を主人公だと確信し、
父様の胃痛もますます悪化することになるのだった。




