8.初戦、そして祖母アマリア
初戦の日、私は城の訓練場に立っていた。
砂埃が、目の前を遮る。
(やるしか、ない)
手が震え、剣を落としそうになるが、それを握り直す。
私は正面を見据え、剣を取る。
横には、殿下と兄――そして両親が立っており、私を見据えている。
殿下の姿に、胸が一瞬高鳴る。私は目を閉じ、呼吸を整える。
目の前には対戦相手の男性、年はだいたい兄や殿下と同じくらい。
褐色の肌に、栗色の髪が砂埃と共にふわりと舞う。
「――始め!」
審判役の騎士の声が響く。私は正面に剣を構え、一呼吸置き、左から斬りかかる。
相手は何やら口を動かしている。それと同時に剣が炎の色に染まる。
(魔術と剣の合わせ技――? 勝つためには手段を選んでいない感じがする)
にやりと歪んだ笑みを浮かべ斬りかかってきた相手の動きが、私の目には泥の中を動くかのように鈍く映る。
隙を窺うまでもない――いける。
私は相手の懐に飛びこみ、相手に攻撃の隙を与えず、押し切る。
(手段を選ばなくても――動きが遅いのよ!)
周囲の息をのむような声が、聞こえる。
無我夢中で攻め込むうちに、カキン! と跳ね上がるようなるような金属音がした。
――相手の剣が、宙に舞う。
気がつけば、男性は地に足をついていた。
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オレは、何を思ったかフレンを連れて訓練場に足を運んでいた。
妹――ルエリアの初戦を見せて何をしようというのか。
ルエリアの動きは、素早く、相手に隙を与えない。
その動きは剣術というより――舞。
舞のようなそれに、オレは見覚えがあった。
ルエリアに、ある女性の影が重なって見えた気がした。
「……ばあちゃん」
オレたちの祖母、先代の騎士団長アマリア・アルデンツィ。
三年前に亡くなった祖母は、厳しくもオレとルエリアには優しい人だった。
ただ――母さんに対しては、いつも冷徹な目を向けていた。
今、横で母さんがルエリアを見るように、刺すような視線で。
祖母も、母さんも、オレとルエリアに騎士として生きるように、ずっと話していた。
オレは、別に他にやることもなかったし、ただ、騎士として生きるのが当たり前だと思っていた。
ただ――妹は違う。
剣の素質は、たぶんオレよりある。祖母に似て素晴らしい騎士になるだろう。
だが、ルエリアには他の道を生きてほしい。
妹の才覚を目の当たりにし、オレの中で焦燥感が募る。
手遅れになる前に、動かなければ。
「……フレン」
「フラヴィオ?」
「この後、少し時間をくれ。場所を変えよう。――大事な話がある」
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砂埃の中、審判の声が響く。
「――やめ!」
騎士の声が響く。私はふっと力が抜ける。
横を見ると、少し心配そうな複雑な目線の父と、いつもの突き刺すような冷たい視線を送る母がいた。
母の視線に、胸の奥がきしむ。
その奥に、一緒にどこかに行く兄と――殿下の姿が見える。
(見に来てくれてたの? なぜ?)
胸が、ぎゅっとなる。
やっぱり、私は、殿下のことが――。
私は目を閉じて、首を横に振った。
(いや、そんな気持ちを持ったらいけない。私は……殿下とは――)
兄と一緒にどこかへ行った殿下のことが気になる。
しかし、私は確信を持った自分の感情に名前をつけられずにいた。
「ルエリア」
背後から、冷たい声がする。振り向くと、母が立っていた。
「まだ選抜は始まったばかり。あのくらいで気を抜かないようになさい」
「はい……」
それだけ告げると、母は背を向け立ち去って行った。
母の言葉、そして、試合を見に来ていた殿下のことを考えると――私の胸の奥で何かが小さなひび割れが広がっていく音がした。




