7.初めて交わるレール
帰り道、私の頭の中は、まだぼうっとしていた。
さっきの殿下の言葉の意味がわからず、でも、確かな熱を持ってこだましている。
殿下は何が言いたかったのか、そして私の中にあるこの熱は何なのだろう。私はその正体をはかりかねていた。
空の色がうっすらとオレンジ色を帯び、夕刻が近づくのを告げている。
伸びる影を見つめ、私は初めての感情をどう名付けていいのかわからなかった。
学生時代、周りが話していた「恋」というものなのだろうか。
騎士になることを望まれ、それだけを見て生きてきた私に芽生えた初めての感情。
――もし、これが恋というものならば、私は、殿下を……?
私は胸に手を当てる。胸が次第に高鳴っていくのを感じる。
そして、また顔が熱くなっていく。
城下町のざわめきが次第に遠ざかっていくのを感じる。
ただ、殿下の「俺が望んでいない」という言葉の意味を考えていた。
私は、心の中で殿下に対する熱を持った感情を、処理しきれなかった。
ただ、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
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さっき、俺はなぜ、ルエリアを抱き寄せてしまったのだろう。
妹のようなものだと思っていたのに。いや、たぶん俺は彼女に対し、それ以上の感情を持っている。
城の自室のドアに手をかけ、ふうっとため息をつく。
ルエリアの何かを訴えるような目が脳裏に焼きつく。
彼女の幼い頃からの重圧はよく知っている。兄貴のフラヴィオでさえ、それをよくこぼしていた。
「フレン」
後ろからおふくろ――この国の女王の声がする。
「何でしょう?」
俺が振り向くと、おふくろが柔らかくも真剣な表情で立っていた。以前より少しやつれた感じがする。
「――この間の話、考えてくれた? 私はそろそろ、あなたにこの国を託したいと言ったこと」
一瞬目を伏せる。
「母上、私には……まだ早すぎます。まだ、やりたいことがある。それに――」
おふくろが微笑む。
「――ルエリアちゃんのこと、ね」
「なっ――!」
言い当てられ、俺の心臓がぎゅっとなる。
「あの子のことは私も娘のように思ってる。そして、あの子の目は――昔のルエラと同じ。家の重圧に怯えた目」
おふくろは、彼女の母親とは昔からの親友だ。主従関係――いや、それ以上の絆で結ばれているのはわかる。
「あなたが、……あなたが、彼女を『全て』から守りたいと願うなら――進むべき道は、わかるわね?」
その言葉が、俺を貫くように突き刺さる。
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夜、帰り着いた私は部屋の中でまだ考えていた。
その時、コンコンと扉を叩く音がした。
「どうした? 帰ってきてから様子が変だぞ?」
兄の声に、私ははっとする。
「……なんでもない! 大丈夫」
「何でもないわけないだろ。――フレンと、何かあった?」
一瞬、どきりとする。
「お兄ちゃん、開会式のあと殿下が『俺が望んでない』って。私、その意味がわからなくて――」
兄が頭を抱える。
「あいつも、自覚してるなら言えってんだ。フレンは、お前が騎士になることを望んでいない、つまり――」
そこまで言って、兄はハッとしたように口をつぐんだ。
「今度、フレンと話するわ。遅いからもう寝ろ」
そう言って兄は部屋から出ていった。
兄の言葉の意味、殿下の言葉の意味――私は、ますますわからなくなった。
殿下は、私が騎士になることを望んでいない。
それがどういう意味か、なんとなく、悪い意味ではなく――。
気づいた時、私はすでに全身が熱くなっていた。




