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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第二章 抑圧された少女は恋を知る

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7.初めて交わるレール

 帰り道、私の頭の中は、まだぼうっとしていた。

 さっきの殿下の言葉の意味がわからず、でも、確かな熱を持ってこだましている。

 殿下は何が言いたかったのか、そして私の中にあるこの熱は何なのだろう。私はその正体をはかりかねていた。


 空の色がうっすらとオレンジ色を帯び、夕刻が近づくのを告げている。

 伸びる影を見つめ、私は初めての感情をどう名付けていいのかわからなかった。

 学生時代、周りが話していた「恋」というものなのだろうか。

 騎士になることを望まれ、それだけを見て生きてきた私に芽生えた初めての感情。


 ――もし、これが恋というものならば、私は、殿下を……?


 私は胸に手を当てる。胸が次第に高鳴っていくのを感じる。

 そして、また顔が熱くなっていく。


 城下町のざわめきが次第に遠ざかっていくのを感じる。

 ただ、殿下の「俺が望んでいない」という言葉の意味を考えていた。

 私は、心の中で殿下に対する熱を持った感情を、処理しきれなかった。


 ただ、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。


 ---


 さっき、俺はなぜ、ルエリアを抱き寄せてしまったのだろう。

 妹のようなものだと思っていたのに。いや、たぶん俺は彼女に対し、それ以上の感情を持っている。


 城の自室のドアに手をかけ、ふうっとため息をつく。


 ルエリアの何かを訴えるような目が脳裏に焼きつく。

 彼女の幼い頃からの重圧はよく知っている。兄貴のフラヴィオでさえ、それをよくこぼしていた。


 「フレン」

 後ろからおふくろ――この国の女王の声がする。

 「何でしょう?」

 

 俺が振り向くと、おふくろが柔らかくも真剣な表情で立っていた。以前より少しやつれた感じがする。

 「――この間の話、考えてくれた? 私はそろそろ、あなたにこの国を託したいと言ったこと」

 

 一瞬目を伏せる。

 「母上、私には……まだ早すぎます。まだ、やりたいことがある。それに――」

 おふくろが微笑む。

 「――ルエリアちゃんのこと、ね」

 「なっ――!」

 言い当てられ、俺の心臓がぎゅっとなる。


 「あの子のことは私も娘のように思ってる。そして、あの子の目は――昔のルエラと同じ。家の重圧に怯えた目」

 おふくろは、彼女の母親とは昔からの親友だ。主従関係――いや、それ以上の絆で結ばれているのはわかる。

 「あなたが、……あなたが、彼女を『全て』から守りたいと願うなら――進むべき道は、わかるわね?」

 その言葉が、俺を貫くように突き刺さる。


 ---


 夜、帰り着いた私は部屋の中でまだ考えていた。

 その時、コンコンと扉を叩く音がした。

 「どうした? 帰ってきてから様子が変だぞ?」

 兄の声に、私ははっとする。

 「……なんでもない! 大丈夫」

 「何でもないわけないだろ。――フレンと、何かあった?」


 一瞬、どきりとする。


 「お兄ちゃん、開会式のあと殿下が『俺が望んでない』って。私、その意味がわからなくて――」

 兄が頭を抱える。

 「あいつも、自覚してるなら言えってんだ。フレンは、お前が騎士になることを望んでいない、つまり――」

 そこまで言って、兄はハッとしたように口をつぐんだ。

 「今度、フレンと話するわ。遅いからもう寝ろ」


 そう言って兄は部屋から出ていった。

 兄の言葉の意味、殿下の言葉の意味――私は、ますますわからなくなった。

 殿下は、私が騎士になることを望んでいない。

 それがどういう意味か、なんとなく、悪い意味ではなく――。


 気づいた時、私はすでに全身が熱くなっていた。

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