6.俺は望んでいない
城の奥にある騎士団訓練場。
さわっと砂埃が舞う中、今年の入団試験志願者が整列している。
すでに選抜は始まっているといわんばかりの張り詰めた空気が訓練場を包む。
周囲を見渡すと、屈強そうな男性、凛とした鋭い視線の女性、中には一緒に卒業した学院の同級生の姿もあった。
騎士団長の娘、――ただそれだけの私が、ここにいていいのだろうかと……ふっと考えが頭をよぎる。
ただ、敷かれたレールの上を歩いているだけの生半可な気持ちで……ここに立っていていいのだろうか? まだ、入団試験を受けることに迷いのある私は、場違いではないのだろうか、と。
――その時。
城の方からひとりの男性が姿を現す。騎士団長ヴァレリオ・アルデンツィ――私の父だ。
いつもの温和な父とは違う鋭い目線で周囲を見渡し、正面を見て……その後、城の方を向く。
兄と同じオレンジ色の髪が、砂埃とともに舞う。
城から、男性が近づいてくる。それは、ひとりしかいない――フレン殿下。
入団試験の開始を告げるのは、王太子の役目だ。私は、殿下を見て心臓が跳ねたと同時に、ぎゅっと締めつけられた。
父が深く礼をし、殿下を迎える。もちろん、私達も。それが私と殿下を隔てる大きな川のように見えた。
殿下がちらりと私を見る。その唇が、音もなく「大丈夫か?」と動いた。
私は、一瞬俯き、精一杯のぎこちない笑みを返した。
――迷ってるよ、って。
それを見て、殿下も軽く頷く。
「静粛に――! これより、騎士団、入団試験を開始する!」
父、いや、騎士団長の声が響き渡る。
殿下が前に出て、一瞬目を閉じ、正面を見据える。
「王国の未来を担う者たちよ。これより、騎士団入団試験を開始する。一つひとつの剣筋に、我が国を想う心を刻むがいい。――己の力を示せ。我が王国を守る盾となり、剣となる覚悟を示してみせよ!」
殿下の高らかな声に、私は一瞬強く祈るように目を閉じる。
――もう、後戻りはできない。
胸の中で張り詰めた糸が軋むような音を感じた。
試験は実戦形式で行われる。実際に剣を取り、戦う。
私の初戦は三日後。ここまで来ても、私の中にはまだもやがかかっている部分があった。
(迷いを、捨てよう。――この道が私に課された使命。この家に生まれた者の、定めなのだから)
開会式が終わって、人がまばらになっても、私はそこから動けずにいた。
「……ルエリア」
後ろから、殿下の声がする。胸の鼓動が早くなるのを感じながら振り向く。
「ルエリア、本当にこれでいいのか? 無理、してないか?」
殿下の声に思わず声が溢れる。
「……大丈夫なわけない。でも、こうすることを、父さんも、母さんも。皆が望んでいるもの」
「――ここで、俺が望んでいないって言ったら、どうする?」
――!
心臓が、一瞬大きく高鳴る。
「……な、何言ってるのよ。それ、どういう――」
その瞬間。
殿下は鋭い視線で周囲を一瞥すると、咄嗟に私を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
「俺が望んでいないんだよ。ルエリア、このまま――」
ゆっくりと殿下の腕が離れる。そしてぽつりと呟く。
「……ごめん。今の忘れてくれ」
殿下が城の方に戻っていく。私は体が熱くなるのを感じ、そのまま立ち尽くしていた。
俺が望んでいないって、どういう意味? 殿下は何が言いたかったの?
ただ、胸の奥が熱かった。私の中に今までなかった初めての熱だった。




