表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第十章 回復していく時間、そして祈り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/45

41.回復の兆し

 「目にクマができているよ。フラヴィオが心配なのはわかるが……少し休んだらどうだい?」

 伯父様は困ったように首を傾げ、私に尋ねる。


 私は首をゆっくり振る。

 「目が覚めた時、お兄ちゃんのそばに誰かがいたら、安心するだろうから……ここにいます」


 伯父様は微笑む。

 「フラヴィオは大丈夫だよ。ほら」

 光に包まれた兄の手の指が、わずかに動き、呼吸が穏やかなものになっている。

 兄を包む光が、さらに穏やかなものへと変わる。


 伯父様は目を閉じて、静かに話し出す。

 「あの時――崩れる入口で、この子は言ったんだ。『妹たちは、守り切れた』って。本当にホッとした表情をしていた。……自分の身も顧みずに、ただ、君たちのことを心配していたんだね。自分の怪我のことより、周りを案じる――子供の時から責任感があって、優しい子だ」


 私は、静かに頷く。

 兄を包む光がまた少し穏やかにぽうっと光る。


 その時、父が静かに入ってきた。

 「兄さん――フラヴィオは?」

 伯父様が父の方を向き、柔らかく口を開く。


 「ルエリアにも話をしたところだ。大丈夫だよ。優しくて責任感があって――昔のヴァレリオに、そっくりだ」

 

 父は少し俯く。

 

 「昔は、兄さんに嫉妬していた。兄さんは何でもできる。それに比べて僕は――って。回復呪文もろくに使えない自分なんて、と」

 

 伯父様は首を振る。

 

 「父さんも、私も、ヴァレリオが出来損ないって思ったことは、なかったよ。優しさと責任感。騎士としても、神職としても大切なものを――君はもっていた。何より大切な心をね。それが、この子達に確かに受け継がれている」


 父の顔が歪む。目の奥が、わずかに揺れている。

 伯父様は、柔らかい表情で、続ける。


 「神殿でルエリアが祈った時――光の中からコルシー家の百合の紋章が出た。ヴァレリオ。君の持っている心が、確かに受け継がれていると思ったよ。……ルエラさんの芯の強さも、この子達は受け継いでいる」


 父は一瞬目を丸くし、わずかに瞳が揺れる。

 伯父様は、兄の方を見る。兄を包む光が、穏やかに輝き続ける。

 「……焦る必要はないよ。フラヴィオは、戻る意思を持っている」


 私は、その言葉を聞いた瞬間、初めて目から熱いものが伝い、こぼれるのを感じた。

 少しずつ、何かがほどけていく。それに答えるかのように、兄を包む光もまた一段と穏やかに光る。


 父は兄の方を見て柔らかく微笑んで、治療室から出ていく。朝の光が治療室まで優しく差し込み、包む。

 また、兄の手が、ゆっくりと動く。私はそれを握りしめる。


 「……もう少しだ。フラヴィオは、目を覚ます」

 伯父様が確かな口調で告げる。

 私も、やわらかく頷く。


 治療室にゆっくりと、静かな時間が流れる。

 それは確実に、兄が回復に向かっているように、こちらに戻るようにはっきりと告げている。空気がふっと、包み込むように変わる。


 兄を包んでいる光が、一瞬ぽわっと優しく、強い光を放つ。

 私は、兄の手を握る。

 目からとめどなくこぼれ落ちるものが、兄の手に落ちる。


 そして、一瞬小さい声がした。

 「……泣くな……ルエリア」


 私は驚いて兄の顔を見る。

 口が、かすかに動いていた。その顔は、微笑むようだった。

 少しずつ、兄の閉じた瞳がゆっくり、ゆっくりと開かれてゆく。


 私は、一瞬言葉を失った。

 兄はかすかに眉を動かし、困ったような表情をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ