41.回復の兆し
「目にクマができているよ。フラヴィオが心配なのはわかるが……少し休んだらどうだい?」
伯父様は困ったように首を傾げ、私に尋ねる。
私は首をゆっくり振る。
「目が覚めた時、お兄ちゃんのそばに誰かがいたら、安心するだろうから……ここにいます」
伯父様は微笑む。
「フラヴィオは大丈夫だよ。ほら」
光に包まれた兄の手の指が、わずかに動き、呼吸が穏やかなものになっている。
兄を包む光が、さらに穏やかなものへと変わる。
伯父様は目を閉じて、静かに話し出す。
「あの時――崩れる入口で、この子は言ったんだ。『妹たちは、守り切れた』って。本当にホッとした表情をしていた。……自分の身も顧みずに、ただ、君たちのことを心配していたんだね。自分の怪我のことより、周りを案じる――子供の時から責任感があって、優しい子だ」
私は、静かに頷く。
兄を包む光がまた少し穏やかにぽうっと光る。
その時、父が静かに入ってきた。
「兄さん――フラヴィオは?」
伯父様が父の方を向き、柔らかく口を開く。
「ルエリアにも話をしたところだ。大丈夫だよ。優しくて責任感があって――昔のヴァレリオに、そっくりだ」
父は少し俯く。
「昔は、兄さんに嫉妬していた。兄さんは何でもできる。それに比べて僕は――って。回復呪文もろくに使えない自分なんて、と」
伯父様は首を振る。
「父さんも、私も、ヴァレリオが出来損ないって思ったことは、なかったよ。優しさと責任感。騎士としても、神職としても大切なものを――君はもっていた。何より大切な心をね。それが、この子達に確かに受け継がれている」
父の顔が歪む。目の奥が、わずかに揺れている。
伯父様は、柔らかい表情で、続ける。
「神殿でルエリアが祈った時――光の中からコルシー家の百合の紋章が出た。ヴァレリオ。君の持っている心が、確かに受け継がれていると思ったよ。……ルエラさんの芯の強さも、この子達は受け継いでいる」
父は一瞬目を丸くし、わずかに瞳が揺れる。
伯父様は、兄の方を見る。兄を包む光が、穏やかに輝き続ける。
「……焦る必要はないよ。フラヴィオは、戻る意思を持っている」
私は、その言葉を聞いた瞬間、初めて目から熱いものが伝い、こぼれるのを感じた。
少しずつ、何かがほどけていく。それに答えるかのように、兄を包む光もまた一段と穏やかに光る。
父は兄の方を見て柔らかく微笑んで、治療室から出ていく。朝の光が治療室まで優しく差し込み、包む。
また、兄の手が、ゆっくりと動く。私はそれを握りしめる。
「……もう少しだ。フラヴィオは、目を覚ます」
伯父様が確かな口調で告げる。
私も、やわらかく頷く。
治療室にゆっくりと、静かな時間が流れる。
それは確実に、兄が回復に向かっているように、こちらに戻るようにはっきりと告げている。空気がふっと、包み込むように変わる。
兄を包んでいる光が、一瞬ぽわっと優しく、強い光を放つ。
私は、兄の手を握る。
目からとめどなくこぼれ落ちるものが、兄の手に落ちる。
そして、一瞬小さい声がした。
「……泣くな……ルエリア」
私は驚いて兄の顔を見る。
口が、かすかに動いていた。その顔は、微笑むようだった。
少しずつ、兄の閉じた瞳がゆっくり、ゆっくりと開かれてゆく。
私は、一瞬言葉を失った。
兄はかすかに眉を動かし、困ったような表情をしていた。




