表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第十章 回復していく時間、そして祈り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/45

40.目覚めない兄と、待つ時間

 治療の後、状態が安定した兄にようやく私たちは面会を許された。

 横たわる兄は、傷は塞がったものの……まだ意識が戻らない。

 慌ただしさはなくなってきたが、治療室には神官や医官が頻繁に出入りする。

 

 薬草の香りが満ちる静かな空間で、私は目覚めない兄の手を握った。

 兄を包む治癒魔法の白い光が次第にふわりと静かになってきていることが、兄の状態が安定してきていることを示しているようで、私の視界がじわりと滲んだ。


 「――お兄ちゃん」


 声を掛けるが、兄の口は動かない。

 私は、静かに目を閉じた。脳裏に幼かった私と兄――そしてフレンの姿が浮かぶ。


 ---


 城の庭で、兄とフレンは、子供の頃からよく一緒に剣の稽古をしていた。

 その横で私は、ふたりを見ていた。

 

 「フレン! 手加減すんなよな!」

 「フラヴィオもな!」


 水色の髪とオレンジ色の髪が、汗と一緒にふわりと揺れる。私はその風景を、少し離れた場所から見ていた。

 その時、城に魔獣の子供がスピードを上げて、私の方へ突進してきた。

 怖くて、足がすくんでいた私に、サッとふたつの影が前に出る。


 「ルエリア!」


 気がついた兄とフレンが魔獣の子供の前に立ちはだかっていた。

 私は、こわばっていた心が、ふわりとほどけていた。

 ふたりの気配に魔獣の子供は、森へ逃げ帰っていく。


 弾ける笑顔で、ふたりが振り返る。

 

 「あっぶねー! ルエリア、ケガしてないか?」

 ニカッと笑った兄の手が差し伸べられる。


 「ルエリアのことは、俺たちが守るからさ」


 フレンも、笑う。

 

 兄は少しむくれて、言い返す。


 「フレン、ずりぃ! ルエリアはオレの妹だぞ! ルエリアを守るのは、オレだよ!」


 その後、ふたりはケラケラと笑う。

 私も、頬が緩んでいた。


 ---


 目を開けると、まだ目を閉じたまま動かない兄がそこにいた。

 私は胸が締め付けられる。どんなときも味方になってくれた兄。母に厳しくされても、影でフォローをしてくれた。兄がいなかったら、私はフレンにも……想いを伝えられないまま、ここに立っていなかったかもしれない。


 治療室の外の窓が、朝のオレンジ色の光を運んでくる。


 私は、目覚めない兄にずっとついていた。兄は、私たちを庇って大怪我を追った。私は、兄に何か返せているだろうか。


 時々、両親やフレンが交代で治療室にやってくる。皆、兄が目覚める時を待っているのだ。


 「たぶん……フラヴィオのおかげよ。私たちがこうして話をできているのも」

 兄の髪をふわっと撫でながら、見舞いに来た母が呟く。

 

 そういえば、こうしてゆっくり母と話をする時間なんて、持てなかったかもしれない。

 母と話をあまりできないまま、私は王太子妃教育で城にやってきた。

 私は頷き、同じように兄の髪を触る。


 最近の母は、芯は強いままで、とても穏やかだ。冷徹な眼差しが溶け、目の奥がやわらかい。母を縛っていた何かも、ほどけていったのだろう。


 「ねえ、母さん?」

 母が私の方を向き、頷く。

 「――私は……こうやってふたりのことを見ていられたのかしら。自分の考えで、あなた達を縛ってしまったのではないかと……後悔しているの」

 私は首を振る。

 「私とお兄ちゃんも、自分で道を選べた。だから大丈夫。こうやって母さんと話ができて……私は嬉しい」

 母が戸惑ったように、しかしながら柔らかい笑みを浮かべる。


 母が、兄の方を見て、呟く。

 「……フラヴィオ、生きることを選んで。私たちは、待ってるからね」

 そう言って母は、治療室を後にした。


 兄を包む光が、わずかに動いた。

 治療室を包む光はあたたかく、兄の表情も、穏やかだった。


 私の心の奥も、確かに何かが溶けていった。まるで凍りついたものが完全に溶けていくように、穏やかな流れだった。


 「ルエリア、寝てないのかい?」

 治療室に、穏やかな表情のセシリオ伯父様がゆっくりと入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ