39.審判の終わり、そして再会
会議後、女王レナータの杖の音が余韻として残っていた。
部屋にいた者たちは一言も発さず、静かに退室してゆく。
魔法灯だけが、静かにゆらゆらと揺れていた。
フレンはレナータとヴァレリオを交互に見る。
レナータは彼の方を見ず、ヴァレリオは無言で頷く。
彼も、ふたりに短く礼をする。
会議室の重厚な扉が、ギィ……と低い音を立てて閉じられる。
魔法灯の灯りがゆらりと揺れ、張り詰めていた空気がふっとほどける。
会議後の重たい空気の中、フレンは一瞬、その場から動けずにいた。
彼は安堵したように肩を落とし、その場で深く呼吸をする。
その手は、まだ震えたままだった。
会議室を出ようとした神官長セシリオが、小さな声で彼に話す。
「……よくやりました、フレン殿下」
フレンは黙って、短く頷く。
廊下に出たフレンは、治療室までの道をひとり歩く。
静かな城内に、彼の足音だけが重く響く。
彼は立ち止まり、さらに深く呼吸を整える。
ふと彼が窓の外をちらりと見ると、既に夜は更け、城の周りの灯りが遠く瞬いている。
彼は額を伏せ、少し顔が曇る。彼の深く青い瞳が、揺れる。
(神殿の前で震え、色を失ったルエリアの表情が脳裏に浮かぶ。――間に合わなかった。また、彼女を守れなかった)
彼は拳を一度、ぎゅっときつく握りしめる。
正面を向き、長い廊下をまた歩き出す。揺れる光が、彼の影を長く伸ばしている。
廊下にいる騎士が声をかける。
「殿下、ルエリア様は――」
彼は頷く。
「わかっている」
早く、彼女のもとへ――彼は、歩調を早める。
治療室の近くまで戻ると、先ほどまでの重苦しく、張り詰めた空気はなかった。
慌ただしかった神官や、女官たちの空気が、落ち着いている。
低く神官の詠唱の声が響く。
それは、フラヴィオの無事を意味しているかのようだった。
ただ、誰かが小さく祈っている声がする。
彼は治療室に続くドアの方へ、ゆっくりと歩みを進める。その目は、正面を見据え、迷いは、消えている。
ドアの中からは、かすかにルエリアたちの気配がする。
声は聞こえないが、やわらかい空気に「そこにいるのだ」とわかる。
フレンは、最後に落ち着いて深呼吸をし、整える。
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扉が開いた瞬間、私は彼の姿を見た。
その顔を見ただけで、張りつめていたものが一気に崩れ落ちた。
「……ルエリア。終わったよ」
フレンの目の奥が、ふっとほどけたように柔らぐ。
彼は私の目をじっと見て淡々と口を開く。
「――ブラゼッティ卿は、全ての地位を失った」
私の心の奥が軋む音を立てる。
「アミティエは魔力を封印されて、神殿で保護される。――更生の機会が与えられた」
私はその時、ふっと全身の力が抜けた。
指先だけが、きゅっと縮こまるような感覚がし、胸元で紋章の光が淡く光る。
そして視界が、滲む。
「……よかった。誰も……これ以上、壊れなくて」
フレンがふぅ、と少し息を吐く。
「……君は、そう言うと思ってた」
彼の視線が沈み、言葉を続ける。
「正直に言うと……俺は、怒ってた。君を傷つけたものを全部、壊したいと思った――でも、君が選ばない結末は、王国の答えにしちゃいけないと思った」
私は、彼の手を取る。
「……ありがとう、フレン。一人だったら、きっとどこかで折れてた。でも……選ぶことは私のままでいられた」
治療室のドアから柔らかく強い光が漏れ出した。
まるで、希望を告げるかのように。




