38.審判の時
会議室に凍りついたような静けさが走る。
魔導師会の幹部たちは、まるで「会長個人の問題であって、組織は関係ない」と言いたげに視線を逸らす。
ドミヌスは、焦りの色を見せながら吐き捨てる。
「娘を守るのは、父として当然でしょう。まぁ、騎士の家など、元より王家に――」
その瞬間、騎士団長ヴァレリオが、静かに立ち上がる。拳が強く震え、押し殺すような低い声をあげる。
「……確認させてもらおうか、ブラゼッティ卿……!」
目線は鋭くドミヌスを突き刺す。ドミヌスの顔色はくるくると変わり、視線が泳ぐ。
「あなたの娘は、王太子妃候補に繰り返し暴力を加え、あなたはその事実を把握していたが……黙認していた。止めるどころか、更に魔力増幅という煽動までし――あの事態を引き起こした」
ヴァレリオは冷静に、続ける。しかし声が少し震えている。
「……娘を守るために、他人の娘を壊していいといつから思うようになった? ルエリアは、王太子妃候補である前に――私の娘だ。そして、神殿崩壊に巻き込まれ私の息子も――命を落としかけた」
彼の目線がさらに鋭くなる。
「あなたのしたことは、娘を守ったのではない。権力と嫉妬で壊しただけだ。それが……『父』の名で許されることか?」
ドミヌスは答えにつまり、視線を落とす。じわりと目の色が変わり始める。
ヴァレリオは静かに席に戻る。
会議室にしんとした空気が張り詰め、魔法灯の光がかすかに揺れる。
誰も言葉を発することのできないずしりと重い空気が、部屋の中を包む。
レナータがゆっくり立ち上がり、ドミヌスを貫くように見つめる。
そして、言葉を、落とす。
「……今の言葉で、十分でしょう」
静かに、しかし厳しい口調で言葉を続ける。
「ブラゼッティ卿。あなたは、父であることを理由に責任者であることを放棄した。その結果、王太子妃候補が傷つき、騎士が命を落としかけ、神殿が崩れました」
レナータの口調が一段と冷たく、重くなる。
「あなたは、父として当然と言いましたね。ですが――父であることは今回の件の免罪符ではありません。王国において、それは最も重い責任です」
正面を向き、カツンと一度女王レナータの杖が確かな音を立てて打ち付けられる。
「――これより、プレヴァリス王国女王として、今回の件に関する正式な裁定を下します」
会議室の空気が一層張り詰める。
「魔術師会会長、ドミヌス・ブラゼッティ卿」
ドミヌスの肩が強く震える。先ほどまでの虚勢を張った口は、強く結ばれている。
「あなたは、王太子妃候補ルエリア・アルデンツィに対する継続的な加害行為を黙認、あるいは助長し、さらに娘アミティエ嬢の魔力に不正な干渉をし――神殿結界の崩壊という重大な結果を招きました」
レナータは淡々と、厳しい口調を緩めずに続ける。
「これは、王家への敵対、信仰への冒涜。そして王国の秩序への反逆行為です」
最後に低いトーンで告げる。
「よって、ドミヌス・ブラゼッティ卿、あなたを魔導師会会長より即時解任します。爵位は剥奪。魔導研究・教育・政治への関与を永久に禁じます――そして、今後ブラゼッティ家は王国の直接監視下に置きます」
ドミヌスの膝が、ガクリと静かに崩れ落ちる。
レナータの声が、わずかに柔らかくなる。
「次に――アミティエ・ブラゼッティ嬢について」
会議室が一瞬ざわめく。
「彼女は、重大な過ちを犯しました。しかし、同時に歪められ、壊され、利用された側でもあります」
レナータの視線が神官長セシリオへ向けられる。それを受けて、セシリオが頷く。
「よって、アミティエ嬢の魔力を封印し、身柄は神殿預かりとします。――神官長セシリオの管理下において、心の回復と、更生の機会を与えましょう」
女王は会議室全体を見渡し、静かに告げる。
「この裁きは、復讐のためではありません。王国を守るため、そして――二度と同じ悲劇を繰り返さぬための、当然の帰結です」
そして、手に持った杖をもう一度カツンと床に打つ。
「以上をもって、正式裁定とします」
それを聞いたドミヌスは、その場に崩れ落ちていた。




