35.城への帰還
城への帰還の準備が次々に進められる。
兄は神官たちに囲まれ治癒魔法で治療を受けながら急いで搬送されていった。
アミティエは、騎士に囲まれ、泣きながら護送用の馬車で運ばれる。
そして最後に残った私たちは……土埃の舞う崩れた神殿を力なく見つめていた。
夕刻から夜へ、暗くなる周囲を、私たちはお互いに支え合いながら震える目で周囲を見渡す。崩れた神殿に、わずかな光が淡く輝く。
(どうして……こうなったのかな……)
私の手をラヴィニアが握り、身体を、フレンが抱きとめてくれている。
――力が、抜けたまま、戻らない。
――ザザッ!
その時、私たちの目の前に、馬車が姿を現す。
フレンとラヴィニアに支えられながら、私は馬車へ乗り込んだ。
今にも沈もうとしている夕陽が、馬車の中に差し込む。
私の胸に光る百合の紋章が、かすかに、しかし力強く光る。
(お兄ちゃんは……きっと大丈夫)
走る馬車の中で、フレンは私の肩にずっと手を置いてくれて、ラヴィニアは私の手をずっと握ってくれていた。
ただ、力なく視界が滲み、熱いものが私の頬を伝う。
どれだけ時間が経っただろうか。
周囲の慌ただしい声が近く、大きくなってくる。
城の外では治癒魔法を使う神官、医官、女官たちが慌ただしく走っている。
担架に横たわる兄が、城の治療室へ運ばれていく。
そして、騎士に囲まれたアミティエが離れの部屋に連れられる。
「……ルエリア、着いたよ」
ラヴィニアが私を支え、馬車から降ろしてくれる。
私の背中を、フレンがずっと支えてくれていた。
私の胸は、強く震えていた。
光る紋章が、「兄は大丈夫」と脈打つように強く光る。
治療室の前に到着した時、既に両親が待っていた。
「……ルエリア……!」
母が私の手を握り、涙をはらはらと流す。
その横で、父が、震えている。
そして、治療室の方を向き、母が力なく揺れる声で叫ぶ。
「フラヴィオ……! あなたが……!」
父も震えた低い声で呟く。
「なぜ……なぜこうなるまで……!」
フレンが、そっと私を支えて、強く呟く。
「安心しろ……フラヴィオは、必ず助かる」
その手は、かすかに震えている。
城に来てから、今までの日々が思い出される。
胸がぎゅっとなり、言葉にならない。
私は、フレンの肩にもたれかかる。
彼が震えた声で呟く。
「……怖かった。ルエリアを失ってしまうかと……本当に怖かった……」
私の視界がじわりと滲み、頷く。
「私もだよ……フレンが来てくれた時……泣きそうだった」
治療室の前で過ごす時間が、永遠に思えるくらい長かった。
ただ、兄は大丈夫と光が教えてくれているのを、信じるほかなく。震える両親と……フレンと私。四人がしんとした廊下に立っていた。
その時、急ぎ足でセシリオ伯父様が治療室に向かってきた。
「兄さん――フラヴィオは……!?」
震える声で父が伯父様へ声をかける。
伯父様は、一瞬俯き――治療室へ向かう。
「私が――治癒術で直接治療に当たる。……闇の炎が、深く刺さっている」
母が泣き崩れそうになるのを、父が支え、私の体を――フレンが支えてくれていた。
父の目は、怒りで震えているかのようだった。
「ルエリア……! ルエラ……!」
重い足音とともに、レナータ陛下が姿を現す。
陛下は、私の頬に手を当て、涙ながらに微笑む。
「怪我は……ないのね……?」
私は深く頷く。
陛下は一瞬目を伏せ、ひとつ深く息を吐く。
そして顔を上げて震えながら冷たい声をあげる。
「ブラゼッティ家……許しません……絶対に!」
空気が一瞬、氷のようにぴんと張り詰めた。




