34.崩れた神殿の外で
神殿を抜けた時、私の足にやっと感覚が戻ってきた。
しかし、安堵と不安でへなへなと力が抜け、その場に膝をつく。
崩れた神殿の周りは、土埃が舞っており、ひんやりとした夕刻の風に乗って散ってゆく。夕刻の光で、神殿が燃えるように染まっている。
私の胸元には、百合の紋章がまだ淡く脈を打つように光っている。その光は、まるで兄が「まだ生きている、大丈夫」と言っているように見えたが……私の頭は――真っ白だった。
ただ、目の前が滲む。兄や伯父様、巻き込まれた人々が心配で――口を開く。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……! セシリオ伯父様……!」
地面に私の目から雫がぽたり、ぽたりと落ちて、しみを作る。
アミティエは目の前でただ震えて泣き崩れ、ラヴィニアは震えながら私の肩を支えてくれている。私たちは震えながら神殿の方を見て、祈るしかなかった。
遠くから叫び声が聞こえる。
タッタッタッ……! と大勢の人が走る音で地面が揺れる。
空気が、ぴんと張りつめる。
その中のひとりの騎士が叫ぶ。
「殿下! こちらです! 神殿が――崩れています!」
(フレン……?)
私の鼓動が、跳ねる。
紋章の光が強くなり、胸の奥で鼓動に合わせて明滅する。
カシャカシャと鎧の金属の擦れる音が近くなり、到着した騎士はざざっと私たちの周りを守るように取り囲む――数十人はいるだろうか。
アミティエは、ますます震えて顔を上げられない。
私の手を、ラヴィニアの震えた手が必死に握りしめる。
「ルエリア――!」
その時、私の身体をぎゅっと暖かいものが包む――フレンだ。私は力なく抱き寄せられ、彼の顔を見る。顔色は血の気が引き、恐怖と怒りが混ざったような震えた目をしている。私は、力なく、かすれた声で叫ぶ。
「フレン……! 私は……無事。でも……中には……お兄ちゃんが……!」
私を抱き寄せるフレンの腕も、強く震えている。
彼の目から私の頬に涙が落ち、彼が震えた声で絞り出す。
「ルエリア……よかった……本当に……!」
ぽた、ぽたと涙が落ちて、彼は神殿の方を見る。これまで見たことのない鋭い視線で。
フレンは、立ち上がろうとして、叫ぶ。
「……フラヴィオ!? セシリオ神官長!? 他にも取り残された者が、中に――!?」
一人の騎士が、首を振りながらさっとフレンを制止する。
「殿下! 危険です! まだ崩落は続いています……!」
その時、青白い光が一面に爆ぜるように強く広がる。
神殿の中から、取り残された若い神官の声がする。
「こちらです……! 私たちは無事です……! ただ……!」
騎士たちが神殿の方に走り出す。私たちは、神殿の方を見つめる。
土煙の中から、光の障壁を張りながら伯父様と神官たちが出てくる――そして、担架に横たわる、兄がいた。胸はかすかに上下している。
「……お兄ちゃん……! よかった……!」
横でフレンもひと息つき、兄に視線を落とす。
「フラヴィオ……! よかった……本当に……!」
助け出された兄を見て虚ろな目をしたアミティエが震えた声で呟く。
「なんで……なんで……あたしを……庇って……」
ラヴィニアが、憐れむような目でアミティエを見つめ、厳しい声で話す。
「……あなたのしたことは、許されない。でも……それでも、あの人はあなたを守った」
アミティエが顔を覆ってその場に泣き崩れる。
その時、フレンがゆっくりと立ち上がり、震える声で叫ぶ。
「全員、城へ戻る! フラヴィオの治療を最優先! アミティエ嬢は保護の名目で離れの部屋へ移送する! ルエリアとラヴィニアは、俺が連れて行く!」
指示を受け、騎士たちが一斉にザッと動きだす。
私は、まだ力が入らない身体で、フレンの腕に寄りかかる。
彼の手がそっと私の頬に触れる。そしてゆっくりと口を開く。
「ルエリア……もう大丈夫だ。もう、君を一人で泣かせたりはしない」
私の胸が熱くなり、震えていた。




