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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第八章 崩壊を引き起こす怨嗟

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33.兄の涙と神殿の崩壊

 ひび割れ始めた空間で、アミティエの制御を失った魔力が再びこちらへ向かう。

 ぐにゃりと歪む空間に、持ち主を失った力の軌道が乱れる。

 消えたと思った赤紫色の炎がうねり――アミティエの背後で矢の形へ再形成される。

 

 アミティエは震え、泣き叫ぶ。

 「やだ……やだ……もう……!」

 涙と混乱で魔力を制御できない。魔力の矢は、確実に彼女を貫こうとしている。


 「アミティエ嬢! 魔力が反転している……! 避けなさい!」

 伯父様が叫ぶが、アミティエは足がすくんで立ち上がれない。


 空気が、一瞬ぐっと沈む。

 魔力の矢が、アミティエを貫こうと放たれ、アミティエの目が恐怖で見開く。


 「アミ……! 避けて! 動いて!」

 私が叫んだ瞬間、祈りの間の光が弱まる。


 その時、倒れていたはずの兄が、ぼろぼろの身体で立ち上がる。

 兄の身体は震え、血が床に滴り落ちている。

 視線は――まっすぐにアミティエを捉えていた。


 私ははっとして叫ぶ。

 「お兄ちゃん……!? だめ、動いちゃ……!」

 兄が振り向き、力なく微笑む。

 「女の子を泣かせる兄じゃ……ないだろ……!」

 震えながら、ゆっくり、ゆっくり、アミティエの前に歩みだす。


 赤紫色の矢がアミティエを貫こうとした瞬間――兄はアミティエの身体を抱き寄せた。

 胸元にアミティエを押し付け庇う。

 その時、二度目の矢が、兄の背を貫く。


 アミティエは力なく口を開く。

 「え……? なんで……? どうして……あなたが……?」

 声は震え、その目からは涙がこぼれている。


 兄を貫いた矢は、光と混じり、爆発する。

 身体はぐらりと揺れ、アミティエに、兄の血が落ちる。

 彼女は震えながら、兄を支え、叫んだ。

 「ちがう……やだ……やだ……なんで? あたしなんかのために……!」

 兄は、アミティエを見て微笑む。

 「だって……君も……ルエリアの友達、だろ……?」

 その場で、彼女は泣き崩れる。


 その時、完全に結界が壊れ、神殿中に低い音が響き渡った。

 光の文様は避け、壁の大理石に亀裂が走り、崩れ始める。


 「逃げろ――! 神殿が崩れる!」

 伯父様が叫ぶ。


 「ルエリア、私から離れないで!」

 さっと私の手をラヴィニアが引く。

 

 兄は、アミティエを抱えるようによろよろと立ち上がる。

 胸からは血が滴っている。

 「ねえ……!? どうして、あたしを助けるの……!?」

 アミティエの悲痛な叫びに、兄は苦しそうに呼吸をし、口を開く。

 「お前を……置いていけるわけ、ないだろ……!」


 逃げる私たちの背後を伯父様が光の障壁を張りながら、叫ぶ。

 破片や、魔力の残滓が障壁に弾かれている。

 「お前たちは前に進め! 私が後ろを守る!」

 私たちは必死に走り、脱出する。


 私は兄の方を何度も振り返り、手を伸ばす。

 「お兄ちゃん……! 早く! 崩れる……!」

 兄は苦しげに頷く。


 通路に出た瞬間、背後から熱風が迫る。

 「急いで! 崩れる……!」

 ラヴィニアが必死に叫ぶ。

 通路の柱が傾き始め、天井がパラパラと崩れ始める音がする。


 その時、アミティエの足がもつれ、その場に倒れる。

 「ごめんなさい……私のせいで……全部……」

 血を滴らせながら、兄はアミティエをぐっと引き寄せた。

 「泣くなよ……今は、生きることだけ考えろ……!」

 アミティエが決壊したように泣き崩れた。


 その先の出口に、夕刻の光が見える。

 その時、私の胸にある百合の紋章が、外と共鳴するかのように再び光を放つ。


 「もう少し! あと少しで外よ……!」


 しかし――次の瞬間、出口の上の梁がミシミシと音を立てて傾き、瓦礫が崩れ始める。

 崩れる瓦礫に出口が狭まり始める。


 「急げ! ここも崩れる――!」

 伯父様の声に、兄が私たちを外へ押し出す。

 アミティエが悲痛に叫ぶ。

 「いや! あなたも……一緒じゃなきゃ……!」

 兄は微笑みながら、口を開く。

 「泣くな……ちゃんと、後から行く……!」


 ラヴィニアと私は、アミティエを抱え、神殿の外へ出た。

 私は出口へ戻り兄に声をかける。

 「お兄ちゃん、早く! 崩れる――!」

 兄は頷き、崩れていく瓦礫を背に――光と影が、兄を包んだ。


 「お兄ちゃん――!」

 視界が滲み、かすれた声で私は必死に兄を呼ぶ。

 瓦礫の煙の向こうに、兄の姿が薄れていく。


 煙の向こうを、私は震えながら見つめる。

 (大丈夫。お兄ちゃんは、生きてる)

 私の百合の紋章が、強い光を放っていた。

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