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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第七章 光の神アウレシア様の御前で

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30.ラヴィニアの抱擁

 暖かい空気の中、ドアからトントンと落ち着いた音がした。


 フレンがドアの方をちらりと見て、頷く。

 「来たようだよ」


 開かれた扉には、ラヴィニアが立っていた。

 光の反射とかすかな風に緑色の髪がふわりと柔らかく揺れる。

 その表情は、唇を噛み、心配と怒りが混ざったような様子だった。


 ラヴィニアは、私の方を向くと微笑み、口を開く。

 「……ルエリア、来たよ」

 ゆっくりと私の方へ近づき、膝をつく。

 

 そして、私の手の痣を見て、彼女は一瞬言葉を失い、震える口を開く。

 「……誰が……こんなことをしたの?」

 彼女の顔が、一瞬歪む。

 「許せない……!」

 呟いたあと、彼女は一度だけ深く息を吸い込み、怒りを押し込めるように瞼を閉じた。


 私は視線を落とし、「大丈夫」と笑おうとするが、頬が引きつる。

 ラヴィニアが、ふわりと私を抱き寄せる。

 そして、優しい口調で話す。

 「また平気なフリをしようとした。……泣いていいんだよ」

 そして、彼女は呪文の詠唱を始めた。

 ふわりと百合のような香りがし、私の手が暖かく光る。

 痣が、ゆっくりと消えていく。


 「大丈夫じゃないよね」

 ラヴィニアは真剣な目で私を見る。

 私は、ゆっくりと頷く。

 「どうして……こんなことに。アミ……アミティエは、あんな子じゃなかったのに……」

 私の目からゆらりと熱いものがこぼれる。


 ラヴィニアはゆっくり首を振り、静かに口を開く。

 「ルエリアは悪くない。あの子に裏切られただけ。……あなたが悪いんじゃない。大丈夫。どれだけあなたが傷ついたか……」

 「ありがとう……ラヴィニア……」

 静かにはらはらと、私の手に雫がこぼれ落ちる。

 彼女はしっかりと、優しい口調で告げる。

 「もう一人じゃないよ。これから私もルエリアを守る」


 「ルエリア、オレもいるぞ」

 顔を上げると、扉のところに兄が立っていた。鎧が光に照らされ、銀色に輝いている。そして、躊躇いがちに呟く。

 「……入ってもいいか?」


 兄は一歩部屋に入り、ぐるりと見渡して私とラヴィニア、そして両親とフレンを見た。その瞳が一瞬だけ揺れて、私に向けて柔らかく細められた。

 「オレもそばにいるから。もう一人じゃないぞ……っていうか。ルエリア、一人で抱え込むなって……子供の頃から言ってきただろ?」

 兄の諭すような声も、どこかやわらかい。


 ラヴィニアが、ふわっと顔を上げる。

 「神殿の……祈りの間に行こうか。あそこなら……あなたの心も癒えるはず」

 それを聞いて兄が頷く。

 「行くなら……俺も護衛として一緒に行く」


 ラヴィニアと、兄の言葉に、胸が暖かくなる。

 後ろにいたフレンと両親も、深く頷く。

 「フラヴィオ、ルエリアを――頼む」

 「ああ」

 兄が頷く。


 母が私の隣に歩み寄り、ゆっくりと頬に触れる。

 「……あなたは、強い子。でもね、強さには限界があるの。だから今は――皆に頼りなさい」

 母の手は、昔触れてくれた時のように温かかった。


 父は、落ち着いた声で話す。

 「神殿の光の下へ行きなさい。必ず、心の傷が癒える」

 そして兄を見て、兄にも声をかける。

 「フラヴィオ、頼んだぞ」

 兄は胸に拳を当て、父の方を向き、深く頷く。


 神殿への廊下は、差し込む光が床に長い影を落としていた。

 しんとした、荘厳な雰囲気が漂う。


 「ルエリア」

 後ろから、フレンの声がする。

 振り向くと、彼は柔らかい口調でゆっくりと口を開く。

 「……大丈夫。君の心は、もう独りじゃない」


 私の胸の中がふるりと震えた。

 そして、フレンの目を見て、頷いた。


 扉の前で、私は一度だけ振り返る。

 家族とフレンの姿が柔らかな光の中に立っていて――胸の奥が、じんわりと温かく満ちた。


 ギィ……と重い音を立てて、神殿への道の扉が閉まった。


 三人の足音だけがコツンと静かに廊下に響いた。

 ゆらゆらと私たちの影が揺れている。


 ラヴィニアの手が、私を支えてくれて、少し前方に、兄が周囲を警戒するように歩く。

 歩いているうちに重く沈んでいた心が、静かに整っていく気がした。

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