29.守られるだけじゃ、嫌だった
ベッドで休んでいると、父がやってきた。
私の傷を見て……震えていた。
「ルエリア……なんで父さんや殿下に言わなかった……?」
私は、俯く。
「だって……殿下にも、父さんにも、母さんにも……心配かけたくなかったの。私一人で大丈夫だって……思ってた」
父は、静かに、優しく諭した。
「誰かに頼ることを、覚えなさい。ルエリア、頼っていいんだよ」
「父さん……ごめんなさい、ありがとう……」
父の表情は、柔らかかった。
父は、その後、急な会議があると言って、部屋を出た。
誰もいない、静かな時が流れる。
私は、これまでのことを思い出していた。
あれだけ一緒にいた、明るいアミティエがあんなに冷酷に変わってしまったこと。その揺らぎに私はどうして、気がつかなかったのか。
自分を責めそうになり、私は慌てて首を振る。
そして、痣の残る手を見る。
ただ……心が軋むように痛い。
あの時、フレンが来てくれて、やっと息ができると思った。
ずいぶん心配かけてしまった……と私の心に重いものがずしりとのしかかる。
私が一人耐えれば済むと思っていた。ただ、それは誤りだった。
フレンにも、父にも心配をかける結果になってしまった。
静かな部屋で、私の視界が滲む。
その時、フレンが帰ってきた。
そして、私の横に座り、私の頬を撫でる。
「ルエリア、また泣いてる。……もう大丈夫だ。全部、終わらせるから」
私は、黙って頷く。
それを見て、彼は優しく微笑む。
「フレン……ごめんなさい」
彼は首を傾げ、言葉を返す。その口調はどこまでもやわらかい。
「何が? 大事なルエリアを守るんだ――このくらい当然だ」
フレンは微笑んで続ける。
「会議で、しばらくルエリアはここにいることが決まった。側仕えの女官として神殿からラヴィニアさん、護衛には――フラヴィオについてもらう。もう、誰も君を傷つけることなんて、させない」
私は、心が軽くなる感覚を覚えた。
(ラヴィニアと……お兄ちゃんがついていてくれるなら――よかった)
彼はドアの方を見る。
「……もうすぐ、ラヴィニアさんとフラヴィオが来るはずだ」
私はこくりとゆっくり頷く。
その時、ドアを叩く音がし、扉が開く――血相を変えた母が部屋に入ってきた。
そして、私の手をふわりと包みこむ。
「――ルエリア、話を聞いて急いで来たの。この手の痣……! なんてことを……!」
母の目が悲痛に沈む。私は、口を開く。
「母さんにも――心配をかけて、ごめんなさい」
厳しいことも散々言われたけれど、今のくるくる感情を出すようになった母は、あたたかくて、包みこんでくれるようで――好きだ。
フレンと母が、私の様子に安堵したように深く頷く。それを見た私も、とても暖かな気持ちで胸が一杯になる。
続いて、父も戻ってきた。
母が父を見て深く頷く。父もそれを見て頷き返す。
「もう大丈夫だ。殿下も、私たちも皆いる。ルエリアは……何も心配しなくていい。務めを果たしなさい」
その言葉に胸の奥で何かがふわりと溶ける音がした。
守られるだけなのが嫌で――自分ひとりで立とうと思っていた。しかし、私にはフレンも、家族も、ラヴィニアも皆いてくれている。そう思うと頬が自然とほころんだ。固まっていた何かが溶けていく。それはとても暖かな時間だった。




