28.王太子の冷徹な怒り
フレンは、廊下を静かに歩いていた。しかしその足音はずしりと重い。
ふと立ち止まり、彼は涙の跡を拭って、近くにいた騎士へ、冷静に指示を出す。
「騎士団、神殿、魔導師会に緊急招集だ。――すぐに会議室を整えろ」
そう指示を出す彼の肩は、震えていた。
スタスタと会議室へ彼の足音は、どこか重厚だった。
招集を受け、騎士団長ヴァレリオ、神官長セシリオが先に会議室へたどり着いていた。遅れて魔導師会の幹部、王太子妃教育の教官たち、記録係として、若い文官が集まった。
フレンが会議室に入り、周囲を見渡す。
そして、無言のまま席につき――重い口を開く。
「ルエリアが王太子妃教育の場で、不当な扱いを受けた。彼女は部屋で休ませている。そして、現場にいたのは――ブラゼッティ家の令嬢、アミティエ」
その瞬間――会議室にしんと凍った空気が流れる。
教官たちは、青ざめ、そして狼狽え、会長の娘が加担していたと知った魔導師会幹部たちは顔色がくるくる変わっている。
そして――姪を傷つけられた神官長セシリオは眉をひそめ、静かに怒り、実の娘を傷つけられた騎士団長ヴァレリオの拳が、強く震えていた。
フレンは、ヴァレリオの方を向き、問う。
「ヴァレリオ団長。娘の様子は?」
ヴァレリオ――ルエリアの父は震える声で、答える。
「先ほど、休んでいる娘の様子を見てまいりました。……手に痣がいくつも。それでも『心配をかけたくない』と……言いました」
絞り出すようなヴァレリオの証言に、さーっと痛みを伴ったような空気が走る。
会議室の空気は、さらに厳粛なものになる。
神官長セシリオが静かに口を開く。
「光の御前に立つべき子が……陰に傷つけられるとは……看過できぬ」
そして、静かに、はっきりと告げた。
「神殿としても事実確認が必要です。報告を」
まず、王太子妃教育担当の教官の一人が震えながら、報告をする。
「ルエリア様が教官から繰り返し注意を受けていたのは……事実です。主に担当していた教官は、アミティエ様と近い派閥の者。……他にも教育には不自然な点が見られました――」
フレンは鋭い目線で黙って報告を聞く。
そして、ゆっくりと立ち上がり、震えた声で、しかし鋭く告げる。
「今、不当な扱いの断定はしない。だが、このままにはできない――これより騎士団・神殿・魔導師会でことの事実を洗い出せ」
それを聞いて横に控えていた神官長セシリオが口を開く。
「神殿からも――調査官として数名出しましょう」
フレンは次の指示を告げる。
「今日をもって王太子妃教育の担当教官は、全員下がらせる。――代わりに神殿から教官を出す。ラヴィニア嬢を呼んでほしい」
セシリオが頷く。
「そして――ルエリアはしばらく私室に置く。……誰も近づけるな」
ヴァレリオが感謝するように深々と頭を下げる。
フレンの視線が鋭さを増す、そして、冷酷に告げる。
「ブラゼッティ家の動きを調べろ。ただし、騒ぎにせず……静かにだ」
静かにセシリオが続ける。
「ことが広まれば――あの子、ルエリアが更に傷つく」
その言葉に、フレンは深く頷く。
フレンは教官や魔導師会幹部の方を見やる。
顔色はすっかり青ざめ、小さく震えている。
フレンの冷酷な目つきに、教官たちは震えながら口を開く。
「すぐに……ひ、引き継ぎの準備を……!」
次に魔導師会幹部を睨む。
「やむを得ません……!」
「会長に……どう報告すれば……」
ひと息つき、神官長セシリオが全員を見渡し、静かに告げる。
「光は欺かれることを嫌います。……皆、誠実に務めを果たされよ」
最後に、フレンが静かに、そして冷酷に口を開き、会議の終わりを告げる。
「事実が揃い次第、次の判断をする……二度と、彼女を傷つけさせない」
話が終わると、フレンは静かに席を立ち、会議室を出た。
彼の後ろには、騎士団長ヴァレリオ、神官長セシリオが続く。
三人の影が、長く伸びる。
静かだが、三人の背中には、決意があらわれていた。




