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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第六章 交わされる誓い

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27.私室での誓い

 ガチャリとフレンの部屋の扉が閉まり、カギをかける。

 私の方を見た彼は、震えており、目からはらはらと涙が流れている。


 彼はそっと私の若干痕の残った手をとり……包みこんで、重い声で呟く。

 「ルエリア……! もう一度聞かせてくれ……! どうして、どうして俺に言ってくれなかった……!」

 

 見たことのない彼の真剣な眼差しに、私も視界が滲む。

 そして、絞り出すように呟いた。視線は彼の方をまっすぐに見て。


 「それは……、あなたに守られるだけじゃなくて……あなたの隣に立ちたかったから。守られているだけじゃ、ダメだから」


 次の瞬間、彼は私を力強く、ぐっと抱きしめる。

 私は力なく、なすがまま彼のほうに抱き寄せられた。

 そのまま彼の唇が、強く押し付けられるように私に口付ける。

 息ができないくらいのそれは、彼の悲しみ、怒り、そして愛が私にも伝わってくるようだった。


 唇が離れたあと、彼はしばらく黙っていた。

 そして、掠れた声で呟く。

 「なぁ……俺はそんなに、頼りないか? ルエリアを、守れていないのか……?」

 私はゆっくり首を振る。

 「いいえ。私が……あなたに心配をかけたくなかったの。あのくらいで……負けたくなかった……!」

 

 私は彼の顔を見上げる。

 切なげな彼の視線が、私を貫く。

 そして、ふわりと私の頬に彼の手が触れる。

 「よく見れば……傷だらけじゃないか」

 「このくらい、訓練に比べれば――なんでもないもの」

 私は、胸の奥がぎゅっと締め付けられる、それでも、目から熱いものがこぼれ落ちる。

 「そんなに……そんなにルエリアに無理をさせてしまったのか、俺は……」


 私を抱きしめたままの彼の手に、再び力がこもる。

 視線を上にあげると、彼の肩が……静かに震えていた。

 「ルエリアを……ここまで心も、体も傷だらけにされて……君は俺の婚約者だ。君の傷は、俺の傷と同じだ――!」


 彼はそれ以上言葉を続けられず、額を私の肩に押し当てた。

 近すぎる距離で、彼の呼吸が乱れているのがはっきりとわかる。


 何度か、言葉にならない息を吐いて、それからようやく、低く震えを押し殺すような声で呟いた。


「……怖かったんだ」


 その一言に、ぎゅっと胸が締めつけられる。

 王太子としてではない、ただの二十二歳の青年の声だった。


「君が傷ついていくのに、俺は『選ばせた』って顔をして立っていただけだ。守るって言いながら、君の覚悟に甘えてた……」


 彼の腕の力が、ほんの少しだけ弱まる。

 まるで、抱きしめることさえ許されるのか、確かめるように。


 私はその背に、そっと腕を回した。

 震えている肩に、確かに触れる。


「……一緒に選んだんだよ、フレン」


 小さな声だったけれど、彼はぴくりと反応した。

 その瞬間、彼の呼吸が、ようやく私のリズムに重なる。

 

 彼の涙が、私の肩にぽたりと落ちる。

 私の胸はぎゅっとなり、静かに目を閉じる。

 そして彼は低い声で静かに呟く。

 「許すものか……! そして俺は自分が許せない、情けない。婚約者として、守ると言ったのに守れなかった――フラヴィオにも、ヴァレリオ団長にも……合わせる顔がない」

 

 「ルエリア――しばらく俺の部屋にいろ。側仕えの女官として、神殿から君の従姉妹のラヴィニアさんを呼んでおいた。部屋の外だと何をされるかわからない。部屋から出るな――あとは、俺に任せてくれ」

 「ラヴィニアを? そしてあなたは……これから何をする気なの?」


 フレンは改めて私の目をまっすぐに見て言う。誓うように。

 「ルエリア、俺はもう君を誰にも傷つけさせない――今度こそ、絶対に、俺が守る」

 彼の唇が、また、私の唇に落とされる。

 私は視界が滲んだまま、強く頷いた。そして、心の奥で張り詰めていた糸が、静かにほどけた。


 私は力なくその場へがくりと崩れ落ちそうになった時、フレンが咄嗟に私を支えてくれ、私をベッドに座らせた。


 「今日は、休んでいてくれ。――あとは、任せろ」


 そう言ってフレンは私の頬に触れたあと、くるりと背を向け、部屋を出る。その肩は……震えていた。

 今までにない雰囲気の彼に思わず、背中がぞくりとした。落ち着き払った彼の態度から――これから何が起きるのだろう、と思ったが……私の心は、ふっとゆるんでいだ。そしてそのまま、眠りに落ちてしまった。

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