27.私室での誓い
ガチャリとフレンの部屋の扉が閉まり、カギをかける。
私の方を見た彼は、震えており、目からはらはらと涙が流れている。
彼はそっと私の若干痕の残った手をとり……包みこんで、重い声で呟く。
「ルエリア……! もう一度聞かせてくれ……! どうして、どうして俺に言ってくれなかった……!」
見たことのない彼の真剣な眼差しに、私も視界が滲む。
そして、絞り出すように呟いた。視線は彼の方をまっすぐに見て。
「それは……、あなたに守られるだけじゃなくて……あなたの隣に立ちたかったから。守られているだけじゃ、ダメだから」
次の瞬間、彼は私を力強く、ぐっと抱きしめる。
私は力なく、なすがまま彼のほうに抱き寄せられた。
そのまま彼の唇が、強く押し付けられるように私に口付ける。
息ができないくらいのそれは、彼の悲しみ、怒り、そして愛が私にも伝わってくるようだった。
唇が離れたあと、彼はしばらく黙っていた。
そして、掠れた声で呟く。
「なぁ……俺はそんなに、頼りないか? ルエリアを、守れていないのか……?」
私はゆっくり首を振る。
「いいえ。私が……あなたに心配をかけたくなかったの。あのくらいで……負けたくなかった……!」
私は彼の顔を見上げる。
切なげな彼の視線が、私を貫く。
そして、ふわりと私の頬に彼の手が触れる。
「よく見れば……傷だらけじゃないか」
「このくらい、訓練に比べれば――なんでもないもの」
私は、胸の奥がぎゅっと締め付けられる、それでも、目から熱いものがこぼれ落ちる。
「そんなに……そんなにルエリアに無理をさせてしまったのか、俺は……」
私を抱きしめたままの彼の手に、再び力がこもる。
視線を上にあげると、彼の肩が……静かに震えていた。
「ルエリアを……ここまで心も、体も傷だらけにされて……君は俺の婚約者だ。君の傷は、俺の傷と同じだ――!」
彼はそれ以上言葉を続けられず、額を私の肩に押し当てた。
近すぎる距離で、彼の呼吸が乱れているのがはっきりとわかる。
何度か、言葉にならない息を吐いて、それからようやく、低く震えを押し殺すような声で呟いた。
「……怖かったんだ」
その一言に、ぎゅっと胸が締めつけられる。
王太子としてではない、ただの二十二歳の青年の声だった。
「君が傷ついていくのに、俺は『選ばせた』って顔をして立っていただけだ。守るって言いながら、君の覚悟に甘えてた……」
彼の腕の力が、ほんの少しだけ弱まる。
まるで、抱きしめることさえ許されるのか、確かめるように。
私はその背に、そっと腕を回した。
震えている肩に、確かに触れる。
「……一緒に選んだんだよ、フレン」
小さな声だったけれど、彼はぴくりと反応した。
その瞬間、彼の呼吸が、ようやく私のリズムに重なる。
彼の涙が、私の肩にぽたりと落ちる。
私の胸はぎゅっとなり、静かに目を閉じる。
そして彼は低い声で静かに呟く。
「許すものか……! そして俺は自分が許せない、情けない。婚約者として、守ると言ったのに守れなかった――フラヴィオにも、ヴァレリオ団長にも……合わせる顔がない」
「ルエリア――しばらく俺の部屋にいろ。側仕えの女官として、神殿から君の従姉妹のラヴィニアさんを呼んでおいた。部屋の外だと何をされるかわからない。部屋から出るな――あとは、俺に任せてくれ」
「ラヴィニアを? そしてあなたは……これから何をする気なの?」
フレンは改めて私の目をまっすぐに見て言う。誓うように。
「ルエリア、俺はもう君を誰にも傷つけさせない――今度こそ、絶対に、俺が守る」
彼の唇が、また、私の唇に落とされる。
私は視界が滲んだまま、強く頷いた。そして、心の奥で張り詰めていた糸が、静かにほどけた。
私は力なくその場へがくりと崩れ落ちそうになった時、フレンが咄嗟に私を支えてくれ、私をベッドに座らせた。
「今日は、休んでいてくれ。――あとは、任せろ」
そう言ってフレンは私の頬に触れたあと、くるりと背を向け、部屋を出る。その肩は……震えていた。
今までにない雰囲気の彼に思わず、背中がぞくりとした。落ち着き払った彼の態度から――これから何が起きるのだろう、と思ったが……私の心は、ふっとゆるんでいだ。そしてそのまま、眠りに落ちてしまった。




