26.容赦なく投げつけられる冷徹なナイフ
私は、それからも王族としての所作を学ぼうとした。
けれど、そのたびに――胸の奥に、小さな引っかかりを覚えていた。
「……ルエリア・アルデンツィ、また立ち位置を間違えましたね?」
所作の違いに、師の叱咤が飛ぶ。
アミティエはすっと前に出て、師に告げる。
「先生、ルエリアは不器用なんです。……剣しか持ってこなかったから」
くるりと振り向き、鈴のような声で口を開く。
「ルエリア、何度も間違えていると、減点されちゃうよ? あら、ごめんね? 騎士の娘のあなたには……わからないことばかりだもの、ね?」
私は視線を少し下げる。唇から血が吹き出そうになるほど強くぎゅっと噛む。
「先生、ルエリアにもきちんとした教育をお願いしますね? ……何も持っていないのに殿下に選ばれた、ただの騎士の子ですから」
アミティエの目は笑っていない。そして彼女の言葉は日に日に鋭さを増して私を突き刺してくる。
「なんで、ルエリアなのかなー? 殿下の隣に立つのは……あたしだったのに」
すれ違いざまに彼女は私に言葉のナイフを容赦なく投げつける。
かつての明るい親友、アミの影は、もうどこにもなかった。
ここにいるのは、冷酷で残酷な、ブラゼッティ家の令嬢だけだった。
私はずっとこのように彼女に見下されていただけなのか。王家に縁もない騎士の娘、と思われていたのだろうか。
たまには外の空気を吸いたくなり、城の裏庭に出た。私は深呼吸をし、空を見上げる。空は今にも溶けてしまいそうなほど、青く、透明だ。このまま私は溶けてしまいたい――そう願うほどに、胸の奥が、ただ痛かった。
手を空にかざす。銀色に輝くリングが、私をここにとどめてくれる。
逃げるためじゃない。ここで立ち続けるための、光だった。
これが私とフレンとの『約束』だから。
城の中では、強く、笑みをたたえていよう――銀色の光に、そう誓った。
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城に戻ると、侍女と、その中心にアミティエが蔑むように私を見る。
私は鋭く一瞥し、部屋に入る。
こうして一人になる時間がないと、何かが折れてしまいそうだった。
ある日の食事中、私の口に鋭い刺激が走る。
食事に何かを混ぜられるのは、もう『当たり前』のようになっていた。
思わず口を塞ぐ私を、クスクスと笑い見つめるアミティエ。
私の視界が、滲み出す。
その時、聞き覚えのある声がした。
視界の隅に、水色の髪が見える。――フレンだ。
「――ルエリア!」
うっすら目を開けると、そこにはフレンがいた。
彼の目から、すうっと光が消え、あたりを見渡す。
そして驚くほど低いトーンで、絞り出す。
「……誰が、彼女にこんな事をした? 誰が……彼女をこんな目に合わせたんだ……!」
周囲が驚くほどしんとする。
(やっぱり、フレンは、来てくれた……)
彼は私の手を取り、重いトーンで、口を開く。
「ルエリア。……こちらに来なさい。――私室へ」
彼に手を引かれ、歩き出した視界の隅に、青ざめたアミティエの姿があった。彼女は、力なく立っているのがやっとのようだった。
私の手を引く彼は、どこか強く震えているかのようだった。
城の中は、ただ静まり返って、物音のひとつも聞こえず、ただ――ぴんと糸が張ったかのような緊張した空気が流れる。
城の奥、初めて来るフレンの部屋の前で彼が力なく呟く。
「ルエリア……なんで、俺に、言ってくれなかったんだ……?」
私の胸の奥がぎゅっとなる。そして首を振り、ゆっくり答える。
「あなたに守られるだけの私じゃだめだったの……あなたの横に、並びたかったから」
彼がギィッと私室のドアを開けた。




