25.親友の裏切り
アミ――アミティエの見下した目線から言い放たれた言葉を、私は、まだ受け止められずにいた。
彼女も、フレンが好きだった? そして……『彼の隣にふさわしいのは私』?
アミティエは、私を最初から恋敵にならない存在として見下していたのか。今まで笑いあった日々は、嘘だったのか?
握りしめた手にギリリと食い込んだ爪が、痛む。
次の日から、アミティエは今までとは違い、私に張り合ってきた。
まるで家柄の違いを誇示するかのように。
その度に、私へ不敵な笑みを向ける。
「さすがアミティエ様。所作が完璧でいらっしゃる」
満足そうに手を叩き、礼儀作法の師は彼女をあからさまに持ち上げる。
アミティエは上品に微笑んで私に言い放つ。
「――王妃候補として、当然ですわ。……どこかの騎士の娘とは、違いますから」
アミティエの取り巻きの侍女たちもざわめく。
「やはり、殿下にふさわしいのはアミティエ様よ」
「騎士の娘が……身の程を知らずに」
その声の中心でアミティエは勝ち誇ったかのように言う。
「ルエリア。あなたは殿下に『選ばれた』わけじゃないの。可哀想な騎士の娘を『庇っただけ』。勘違いしないで、ね?」
私の胸がキリキリと痛む。そして、私は彼女を睨み返す。
彼女がそのつもりなら――あくまで私のやり方で返させてもらう。今までのアミのくるくる回る可憐な表情がちらつくが、ここにいるアミティエは、敵だ。
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「熱っ……!」
侍女は手をすべらせて私の手にカップのお茶をばしゃりとこぼした。
運ばれてきたお茶の温度が、決められた温度より熱い。
「申し訳ありません……もう剣は持てませんわ、ね? 騎士団長のお嬢様?」
悪気しかないその言い方に、私は、あえて黙って睨み返した。
そして、食事作法の時間になり、私の前に運ばれてきたスープから匂いはしなかった。一瞬手を止めようとすると、横から声がする。
「あら、どうしました? ……お城の味が、口に合いませんか?」
侍女に嫌味を言われ、私は唇を噛み、そのスープを一口飲む。
(これ……食用じゃない。絵画に使う塗料だわ。あとで口をすすげば、問題ない)
私は平然と塗料で作られたスープを、飲み干した。
一瞬、周囲がざわめく。おそらく、誰が作らせたかは想像がつく。
物影でアミティエが満足そうに――微笑んでいた。
そして、何事もなかったかのように近づき、あくまで上品に、言い放つ。
「なぜあなたなのかしら? 所詮、騎士団長の娘――それだけじゃない」
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私がここで折れては、選んでくれたフレンに申し訳が立たない。私は、アミティエと侍女たちの『歓迎』をやり過ごした。
あくまで――笑みをたたえて。
「ルエリア」は厳しい環境でも薄紫の花を咲かせる。
私は、左手薬指にはめられた『証』を見る。
それだけが私がここにいる、理由。
部屋の中で一人になった瞬間、視界がにじむ。
喉の奥が、苦しい。まるで私の周囲だけ時間が切り取られたように感覚がなくなる。
私は、お茶で火傷を負った手を見ながら、呟く。
「ルメアの息よ、静かに満ちて。セルヴィア・リムナ——傷よ、光へ還れ」
父が以前唱えた回復呪文をいちかばちか、唱える。
その時、私の手にふわりと白い光が灯る。火傷がすうっと、消えていく。
この呪文こそが、今の私の拠り所のようなものだった。
誰にも見えない小さな光が、確かに、私を支えていた。




