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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第四章 伶輝な仮面の下で流した涙

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21.母を縛っていた鎖

 次の日、私は城の騎士団長室の前にいた。

 靴の音がカツンと響くだけの静かな空間。静寂の中に、荘厳な空気がある。

 見上げると、ステンドグラスの光が道を指し示すように扉を照らす。

 (まるで、このまま進みなさいと、アウレリア様が仰ってくださっているよう――)

 神殿に祀られているこの国の守護神、光の神アウレリア様。


 私は感謝するように胸に手を上げ、ひとつ静かに呼吸をする。

 そして、顔を上げて、扉を叩く。

 「候補生ルエリア・アルデンツィ、参りました」

 奥から父――騎士団長の声がする。

 「入りなさい」


 静かに扉を閉めると、そこには穏やかな表情の父がいた。

 「やっと、言いに来てくれたね」

 私はうつむき加減に、頷く。

 「私、候補生ルエリア・アルデンツィは――」


 その時、バンッと騎士団長室の扉が開く。

 そこには赤く、長い髪を振り乱し、憔悴しきった母がいた。

 

 「……させない。あなただけこの家から抜けるなんて、私は許さない……!」

 暗い顔をした母が叫ぶ。まるで、何かの呪いの鎖に囚われたような悲痛な叫び。


 私は首を振る、その時、サッと父が私の前に出る。


 「もうやめよう、ルエラ――かつて君が、僕を救ってくれたように、君はもう自由でいいんだよ――!」


 すぅっと母の顔色が変わる。


 「もう、君を縛っていたご両親もいない、君も、ルエリアも自由になっていい」


 母の目から、はらり、はらりと涙の粒が落ちる。


 遠くからカツ……カツ……と靴の音と甘い匂いがふわりと香る。

 (レナータ陛下……?)


 いつもの陛下の暖かさはない、諌めるように冷静な声が響く。

 「静粛に。ルエラ・アルデンツィ――ルエラ、ヴァレリオの言う通りよ」

 母は俯く。その姿は力なく、うなだれている。


 陛下は諭すように、優しく続ける。

 「ねぇ、ルエラ、あなたは忘れたかしら? 『騎士になりたくない、でもお母様の言葉は絶対』って、いつも怯えた表情をしていたこと」

 私は、ふと書斎にあったメモの存在を思い出す。

 (あの叫びのような、追い立てられているようなメモ。もしかして、昔の母さんが……?)


 父が静かに私に教えてくれる。

 「レナータ陛下と父さん、母さんは――王立学院の同級生だった。陛下と母さんは特に仲が良かった」

 母と陛下が昔からの親友であることは知っていた。そして、父さんは、昔、母さんに救われた――。どういう意味だろう。

 

 陛下が私の方に向いて、柔らかく話しかける。どこか懐かしむように。

 「ねぇ、ルエリアちゃんには話してもいいんじゃない? 私たちのこと」

 両親は、揃って頷く。

 

 その頃には、憔悴し、取り乱していた母も、落ち着きを取り戻していた。

 表情を伺うと、かつての母の冷たい貫くような表情は、もうなくなっていた。

 父と陛下の言葉で、落ち着いたのだろうか。少し表情が柔らかくなった。初めて見る、表情だった。


 騎士団長室に、光が差し込む。その光はまるで包み込むかのようにやわらかだった。

 私はちらりとその光を見上げる。

 まるで母と私、母と祖母のわだかまりを溶かしてゆくような、あたたかな光。

 おそらく、一番求めていたのは、母だったのかもしれない。おそらく、母も私と同じだったはずだから。

 一人娘だった母は、私以上の重圧を受けて、家に縛られていたはずだ。


 そして、私は、かつての思い出話を、聞いた。

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