20.噛み合わない親子
「あなたは、アルデンツィ家の一人娘。この家に生まれた時点で、あなたは立派な騎士。その誇りを忘れないで」
「ルエラ、お前は騎士になるんだ――それ以外は許さん。アルデンツィ家の一員として」
頭に、昔言われたお母様と、お父様の声がする。
その声が、私を今も縛り付ける。
私はルエリアを、どうしたいの?
本当は、娘の幸せを願うなら、入団試験を辞退し、幸せになってほしい。
あの夜、裏庭で笑い合うふたりを見て、私は羨ましかった。
そして――妬ましくもあった。自分の道を手に取り、嬉しそうに微笑む娘の姿に。親として、これほど誇らしいことはないというのに。
自由に生きてほしいと願いつつ、口では呪詛のように娘を縛る言葉が出る。
ヴァレリオの心配もわかる。辞退させるべきなのは、親としてわかっている。
ただ――両親に言われた言葉は私を縛り付ける。
騎士であることを求められ、騎士になることでしか居場所がなかった私と、ルエリアは違う。
でも、私は――お母様をなぞってしまう。
それが正しいことなのだと、思っていた。
私である前に――この家が、私を縛る。冷徹な人間として。
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朝、起きて台所に行くと、母は、私を一瞥してふいっと正面を見た。
話しかけても、ただ遠くを見ていて、返事はない。
何を考えているのかわからないが、いつもの厳しさも、冷たさも、そこにはなかった。
「お母さん、ここに朝食置いておくから、……食べてよ?」
返事はない。だが、もう母に怖さや威圧感などは、感じなかった。
やっぱり昨日の夜の人影は、母だったのだろうか。帰ってから様子がおかしい。
私が、言い過ぎてしまったのだろうか。
母の様子のおかしさに、今日は父のところに出直す勇気は、なかった。
城の裏庭で、ただぼーっと立ち尽くす私の後ろから甘い香りがする。
「……フレン?」
振り向いたら、フレンと同じ水色の髪の女性――レナータ女王陛下。
「へ……陛下!? 申し訳ありません、つい」
陛下はケラケラと笑って首を振る。
「……もう、ここでは普通に話してよ。どうかしたの? ボーっとして」
「実は、昨日の夜から――」
私は、事情を説明する。母が昨夜から様子がおかしいことを話すと、陛下は頷く。
「やっぱりね、彼女は、昔――誰よりも自由に生きることを願っていたから」
陛下は遠い目をする。
「騎士の家の一人娘って、大変だったのよ? 彼女もあなたと同じ。アマリア様――あなたのお祖母様に言われていたわ」
私は押し黙る。返事が思い浮かばない。
「でもね、あの子が――あんなに嫌がっていたアマリア様と同じ態度をとるのは……見ていてつらいわ」
それだけ言って、陛下は、城の方へ静かに去っていった。
私の心には、母に対する憎しみも、怒りもないといったら嘘になる。ただ、胸がぎゅっとするだけ。
祖母が母にだけ冷たかった理由、母が私に同じように冷たい理由。それは、何かの呪いのように感じ、私はぞくっとした。
そして、なぜかぽろぽろと私の目から熱いものがとめどなく流れた。
私の決意は、母の絶望に繋がってしまうのではないか――と一瞬頭をよぎったが、私は首を振る。
そして、フレンの姿を頭に浮かべ、私はぎゅっと胸の前で手を握りしめた。
(もう……大丈夫。私は、母さんと違うもの。フレンと生きると決めたのだから)




