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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第三章 明かされた真実、それでも私はあなたを選ぶ

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18.レールから抜けることを決めた日

 家に帰っても、母の冷たい視線は、もう気にならなかった。


 いつもの冷たい母が呟く。だが、母の視線はどこか遠くを見ている。

 「その香り……王家のものね」

 その声は何かに気がついたような、ただ、どこか懐かしさを帯びた声色をしていた。

 

 私は母に背を向け、部屋に入り、ふぅ、と息をつく。

 母は何か言おうとしていたが、その声はいつもより遠く聞こえた。


 ただ、フレンの熱と香りが私の体に、残っていた。

 彼の甘い香りがふわっと広がる。それは確かに私の決心を強くしてくれる。

 ベッドに横たわっても、熱が残っていた。心臓の鼓動が早鐘を打ったまま、おさまらない。


 私は息を整え、いつの間にか眠りに落ちていた。


 ---


 ルエリアが、掟を知った上で、それでも俺とともにいたいと話してくれた時――嬉しかった。

 それは、彼女の母との対峙も意味する。おそらく彼女にとっては、辛いことだろう。

 彼女の覚悟に、俺も応えなくてはならない。

 

 「その様子だと、ちゃんと話ができたようね」

 振り向くと、おふくろが立っていた。

 俺は、静かに頷く。それを見ておふくろが安心した表情を見せるが、どこか哀しげだ。

 「この国は……あなた達に任せてもよさそうね。ただ、ルエラの心は――なんでもないわ」

 おふくろは一瞬俯く。おそらく、彼女の母とおふくろの間には――何かがある。そう感じさせる言葉だった。

 

 俺は疑問に思っていたことを思い切っておふくろにぶつける。

 「母上――前から感じていたのですが、彼女の母が、ルエリアに対してあれほどに頑ななのは、どうしてなのですか……?」

 おふくろは一息つき、呟く。

 「家柄の呪縛のようなものよ。ルエラも、かつてアマリア様からあのような態度をとられていた……」

 「それなのに、どうして彼女にまで――」

 おふくろは首を振る。

 「……わからない。ルエラもどうしてあの時と同じような態度を、ルエリアちゃんに取るのか」


 ルエリアの気持ちを考えると胸が締め付けられる。

 俺にできることは、彼女のそばで何があっても守る――それだけだ。


 ---


 朝になり、身支度を整えた私は、城に向かった。

 行き先は――騎士団長室(父さんの所)。フレンと生きたいから辞退したいとは、言えないけど。

 扉を叩こうとした時、中から母の声がした。

「あの子の入団試験を、辞退させる……? ありえない!」

 ――辞退? 私が告げようとしたことが、なぜ、父に知れているのか?

「ルエリアに、これ以上無理をさせたくない。……それだけだ。前回の試合で酷い怪我をしていた。それでも、あの子に無理をさせたいのか?」

 その言葉を聞き、前回怪我をした鎖骨の辺りが、軋む。傷は父の回復呪文で塞がったが、体に負ったダメージは、なかなか引かない。

 (……本当は騎士になりたくないって話したこと、母さんには言わないでくれてる)

 私は父の話す表向きの理由に、安堵した。

 父は、私から言い出すのを待っていてくれている。しかし、母の前では、言えない。

 

 私は、そっと城を後にし、裏庭に向かった。フレンがいない時でも、私は、ここへ来るようになった。ここでは、季節を感じられる。ここでだけは翼が生えたように自由でいられる。

 裏庭の噴水の縁に腰を下ろし、空を見上げる。夏の空は青が濃く、どこまでも高い。

 (このまま、母さんも、あきらめてくれればいいのに。……まぁ、無理か)

 母に対してはあきらめにも近い感情を抱く。それでもいつかは向き合わないといけない。


 私は、正面を向き、ぎゅっと手を握りしめた。

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