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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第三章 明かされた真実、それでも私はあなたを選ぶ

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17.あなたへの誓い

 次の日、目が覚めて一階に降りると、母が立っていた。

 今まで以上に冷たい、私自身を貫くような視線を感じ、一瞬全身がきゅっとなる。


 「昨日、書斎で何か読んでいたようね。――あなたは何も考えなくていいことよ。アルデンツィ家のために入団試験のことだけ、考えなさい」

 

 そう言った母の言葉は、何か呪いをかけているような口調にも聞こえた。

 私は黙ったまま母をちらっと見て、食卓につく。

 もう母の言葉は聞きたくない。すべて塞いでしまいたい。むしろ同じ空間にいたくない――そう思った。


 私は黙って食事を済ませ、家を出ようとする。

 

 「――次の試合は七月(ソリスタ)。それが終われば、最終選抜。あなたは勝つことだけを、考えなさい」


 母の声を背に、私は黙って家を出た。

 (……家にいるのも嫌だし、かといって予定はないし。喫茶でハーブティーでも飲もう)

 こんな時は喫茶で甘くてピリッとしたものが飲みたい。

 喫茶の二階、窓辺の席に座った私は注文したお気に入りの|甘くてピリッとするおシナモン・ティーを飲む。

 窓の外を見ると、季節はすっかり透明感のある夏の空がきらきらしていた。


 気がつくと、目の前にコトン、とカップが置かれる音。

 

 「ルエリア、どうかした? ここ座って、いいよね?」

 

 見上げると波のような緑色の髪がふわりとなびく。ラヴィニアだ。

 私は頷き、ぽつりとこぼす。

 

 「詳しくは言えないんだけどさ。私――入団試験を辞退しようと思ってる」


 ラヴィニアは一瞬目を丸くし、その後、微笑んだ。

 

 「フラヴィオ兄さんからざっくりと事情は聞いた。――決めたんだね」

 「うん……、母さんはやっぱり怖いけどね」

 

 ラヴィニアは笑って頷く。

 

 「応援する。ルエラ叔母様がわかってくださらなくても、影で応援してるよ、皆、ね」

 「ありがとう……」


 その後、私とラヴィニアは遅くまで他愛のない話で盛り上がった。

 最近のこと、恋のこと、気のおけない話に、私は次第に心がふわっと軽くなっていった。

 ラヴィニアは卒業してコルシー家代々の神殿勤めをしているが、どこか楽しそうだ。

 同じ敷かれたレールでも、彼女は楽しんでいる。私は、レールの外を見始めた。

 見ている世界は違っても、そこに希望を見出せば、いいのだと知った。


 その夜、裏庭で私は殿下に入団試験を辞退しようとしていることを、伝えた。

 

 「あの、王族と騎士って結婚……できないんだね」

 

 殿下は、はっとして、頭をかく。

 

 「知ってたのか……ごめん、黙っていて」

 

 私は笑って首を振る。

 

 「家の書斎にあった書物にね、書いてあった。騎士にならなきゃって、私は、もう思わない」

 「俺に――気を遣ってるのか?」

 

 殿下が不安そうな表情をする。私は真剣な声で、伝える。

 

 「いいえ。私があなたと一緒にいたいの――フレン」

 

 初めて『殿下』ではなく『フレン』と呼んだその時、彼の顔がほころんだ。

 

 ふわっと彼に抱き寄せられた時、甘い香りがした。

 この国では王族しか使うことのないその香りが私たちを包む。

 私が彼を見上げた時、彼が安心したように微笑む。

 そして――彼の顔が近づく。

 目を閉じたその時、溶け合うように彼の唇がゆっくりと触れた。

 

 「……ごめん、いきなり」

 

 フレンがぽつりと呟く。

 

 「ううん……ただ、嬉しい」

 

 これが、私たちの、確かな誓いだった。


 騎士のレールを外れ、フレンと生きることを、私は選ぶ。

 母のことを考えるとまだ身が縮こまる感覚になる。それでも、その時がきたら、正面から向き合う。

 この夜、私は、レールを外れて生きる、そう自分で選んだ。


 私は、胸の前でぎゅっと手を握った。

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