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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第二章 抑圧された少女は恋を知る

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15.信じたい、本当の理由が知りたい

 六月(ミスティレイン)に入り、殿下の王位継承が正式に発表された。

 戴冠式は――十一月(テラフォール)

 私は、殿下の恋人にはなれたけれど――それ以上には、なれないのかもしれないと思うと、急に胸がぎゅっとした。

 信じたい――けど、現実がついていかない。

 王位を継承すれば、私よりもっと素晴らしい女性が彼のもとには現れるだろう。

 そう思ってしまうことが、何よりつらかった。


 夕刻の城の裏庭は、風が夏の香りをふわりと運んでくる。

 少し蒸し暑いけど、心地良い空間。

 「……ルエリア? どうした? 顔が暗いぞ」

 殿下が私の顔を覗き込む。私は、慌てて首を振る。

 「なんでもない。大丈夫」

 私は必死に声を取り繕った。


 「ごめん。不安にさせてるよな。……ルエリアを守るって言ったのに」

 「本当に……、私は大丈夫だから! 殿下も大変でしょ?」

 彼の遠い表情に、ふっと不安がよぎる。

 殿下は、私の表情を察して、ふわっと私を抱き寄せた。そして、強く、誓うように言った。

 「必ず守る。ルエリアに、もう怯えた目はさせない。だから……もう少し、待っていてくれ」

 私は、殿下の顔を見る、彼の目は、真剣だった。

 ゆっくりと頷いて、私は口を開いた。

 「はい、必ず」

 (殿下についていけば――大丈夫、だよね)


 家に帰っても、嬉しさと不安が混ざった複雑な感情は消えなかった。

 その時、部屋の扉を叩く音がした。


 「ルエリア? 何だよ、夕飯も食べないで」

 兄が心配そうに尋ねた。

 「――お兄ちゃん、相談があるの。部屋の鍵、しめて」

 兄は頷き、部屋に入ってドアの鍵をかけた。


 椅子に腰をおろし、兄が口を開いた。

 「……フレンのことが、不安なんだろ?」

 私は頷く。

 「王位継承が終わったら、たぶん私じゃなくて、もっと素敵な女性が現れる、そう思うと――」

 言いかけたところで、兄が遮るように言う。

 「フレンは、そんな奴じゃない。お前を守りたい、そばにいたいって言葉に、偽りはない。本当は――」

 その時、一階から母の声がした。


 「フラヴィオ! ちょっと降りてきなさい。話があるの」

 「……悪い。続きはまた今度で」


 そう言い残し、兄は一階に降りていった。

 (お兄ちゃんが言いかけた、本当の理由、それが知りたい)

 そう思った時、私の心を覆っていた(もや)のようなものに、光が見えた。


 言葉の先に、答えがあるはず。

 私の胸が高鳴る。そして、殿下をこのまま信じて、傍にいようと改めて誓った。


 (お兄ちゃんが、ああ言うんだもの。それに――殿下の目は、真剣だった)


 殿下を信じて傍にいたい。敷かれたレールから降りて殿下の手を取りたい。――そう思うが、母の顔がちらつく。

 私は、まだ未熟だ。敷かれたレールしか見てこなかった私には、他の世界が見えていなかった。


 階下では、兄と母が何やら言い争っている。それを諌める父の声もする。

 私は目をぎゅうっと閉じた。心の奥も――なんだか痛い。

 私の中で、母は絶対だった。外れることなんて許されないと、そう思っていた。

 ただ、私を縛っていた心の鎖のようなものが最近、緩んでほどけてきているような気がする。


 騎士団長室(父のもと)に行く決心は、まだつかないまま。兄と殿下が話す言葉の本当の意味。

 私は、それが知りたいと、そう思った。

 (明日、誰もいない時に父さんの書斎を見てみよう――古い本がたくさんあったはず)

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