表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第二章 抑圧された少女は恋を知る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/45

13.約束の泉で重なる想い

 約束の日。私は朝から外を見上げていた。

 灰色の空からぽつり、ぽつりと雨が降っている。

 まるで、私の迷いが表れているかのように。

 (――この天気で、殿下は来てくれるかな?)

 私は、殿下からもらった約束の手紙を、ぎゅっと胸に抱きしめた。


 台所に行くと、家族はもう出発した後。

 しんとした空気だけが、家全体を包んでいた。

 私は、カップを出し、ハーブティーを淹れる。

 今日は酸味のある甘酸っぱい味の茶葉にした。そんな味が飲みたい気分だった。

 窓の外を見ると、雨がさっきより強くなっている。


 (――約束の時間まで、もう少し。今日絶対伝えるって……決めたから)

 私は、食卓の下でぐっと手を握りしめる。鼓動がだんだん大きく、早くなる。

 目を閉じて、一度呼吸を整える。

 もうすぐ昼刻。行かなければ。


 気がつけば、私はただ森の方へ駆け出していた。

 森の中は、木々のおかげでしとしとと体に雨粒が落ちてくるだけで済んでいる。

 

 雨のせいか、森の中に生える薬草の匂いがいつもより鼻を通る。

 気がつけば、水面がきらりと光るあの場所――約束の泉にいた。

 だが、そこに殿下の姿はなく、私の心は一瞬ずしりと重くなった。

 (約束……したのに……?)

 目の前には以前来た時は気が付かなかった洞窟があり、ひとまず、私は雨宿りをする。


 少し遅れて、ガサガサッと木の間を分ける音がする。

 「ルエリア? 来てるのか?」

 殿下の不安そうな声がする。私は洞窟から出て、ひらひらと手を振る。

 彼の安心したような表情に、思わず頬がゆるむ。


 私は、顔を上げて殿下の表情を見る。不安に揺れているが、ただ奥に決意が灯っている瞳。

 その表情を見て、私は、頷く。殿下が伏し目がちに口を開く。


 「来てくれなかったら……どうしようかと思っていた」

 「それは私も同じ」

 思わず吹き出し、ふわりと柔らかい空気に包まれる。


 次の瞬間、ためらうように伸びた殿下の手が、私をぎゅっと抱き寄せた。

 甘い、香りがする。


 「ルエリア、俺は君のことが、好きだ――」


 私の心がふわっと跳ねる。


 「殿下は……私なんかで、いいの?」


 首を傾げ、聞き返す。


 「ルエリアだから、いいんだ。君にもう怯えた目なんてさせない。絶対に、俺が守る。だから――」


 私の目にじわりと熱いものが浮かび、視界が滲む。

 「だから――俺のそばにいてくれ。離したくない」


 私はゆっくりと頷く。

 「はい……!」


 その瞬間、殿下がふっと微笑む。

 私は、そのすべてを包み込んでくるような表情に、胸の奥が熱くなった。

 

 一瞬、彼の表情が、曇り――そして静かに告げた。


 「ルエリア――入団試験を、辞退してくれ。俺は、君が騎士になってほしくない」


 騎士になってほしくない、私はその意味がわからなかった。

 それ以外の道があるというのか、母の顔がちらつく。

 「なんで……? 私にはそれしかないって、知ってるくせに……」

 「それは……」

 殿下が、口をつぐむ。


 そして、殿下はしっかりと私の目を見て言う。

 「とにかく、ルエリアのことは俺が守る。……愛している。それだけは、信じてくれ」

 私は目を丸くした。しかし、殿下の気持ちに応えたい、そう思った。

 おそらく、殿下は私を愛してくれている。しかし、口にできないことがある。

 それでも、私は彼を信じたい。そばにいたい。それだけは変わらない気持ちだった。


 「わかった。信じます。私も……あなたのことを、愛しています」

 殿下の手が私の髪に触れる。

 それはとても満ち足りていて――幸せな時間だった。


 それでも、私はこの国には強い掟があることを、殿下が、私が騎士になることを望んでいない本当の理由を、まだ知らなかった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ