11.疑問、そして迷い
「……痛っ!」
入団試験の二回戦、私は試合に勝ったはいいものの、油断して相手の攻撃を正面から受けてしまった。
鎖骨のあたりに切り傷ができ、自分で止血をしているが、止まらない。
(――これ、大人しく診療所に行ったほうが、いいよね)
重い体を引きずるように家を出ようとしたその時、父が帰ってきた。
「――ルエリア! ひどい傷じゃないか。……ちょっと待っていなさい」
そう言うと父は静かに呪文の詠唱を始めた。
(父さんって、回復呪文使えたっけ?)
「ルメアの息よ、静かに満ちて。セルヴィア・リムナ——傷よ、光へ還れ」
父の詠唱が終わるとともに、私の体を白い光が包み、傷が癒えていく。
「……父さん、ありがと。あと、その呪文――」
父は首を振る。
「いや、傷が癒えてよかった。これは、コルシー家の血を引く者しか使えない回復呪文だ」
私は、母の前では今まで聞けなかった疑問を思い切って父にぶつける。
「父さんは、なぜ神職に就かず……コルシー家を出て、騎士になったの?」
一瞬、父の顔が曇る。そして、父が重い口を開く。
「それは……。今、母さんは巡回に行っている。しばらく帰ってこない――だから今、聞かせてほしい。ルエリア、本当に騎士になりたいのか? 騎士団長としてではなく、親として聞きたい。父さんは、ルエリアの本当の気持ちが知りたい」
私は、何と言ったらいいのかわからず、曖昧な笑みを浮かべる。
しばらく、家に沈黙が流れる。そして私は静かに首を振り、口を開く。
「――なりたくない。でも、母さんはそれ以外の道は認めてくれないでしょ? 入団試験を受けて、騎士として生きる。それが、アルデンツィ家の人間としての正しい……生き方……」
ここまで口にすると、私の頬に熱いものがつたっていた。
初めて殿下以外に、伝えられた。騎士団長としてではなく、親として聞いてくれたことが、嬉しかった。
父は頷く。
「これは母さん――ルエラには黙っておく。決心がついたその時は、騎士団長室に来なさい。いつでもいい」
私は泣きながら、静かに頷き返す。
「……父さん、ありがとう」
父が微笑む。
「今日は部屋で休みなさい。傷は癒えたとはいえ、体へのダメージは大きいはずだ」
「はい……」
私は二階にある自室へ行き、ベッドへ横になる。
父には伝えることができたが、母は入団試験を辞退することを絶対に許さないだろう。
入団試験は進んでいく。私は自分がどうすればいいのか、わからなくなっていた。
仮に最終選抜まで進んだとして――その頃は十月。秋だ。
それまでには、決めなくてはいけない。
心ではそう思うが、同時に母の冷たい視線と、セリフが容易に予想できる。
『アルデンツィ家の人間に、それが許されると思ってるの!? 他の生き方が許されると思ってるの!?』
母の激昂する声と顔が浮かぶ。私の胸が、ぎゅうっと強く締め付けられる。
自由に生きてみたいと思うが、母の声と、視線がちらつく。
子供の頃から、将来は騎士になるよう母と祖母に言い聞かせられ、育ってきた。
今さら別の道と言われても、想像はできないのが現実で。
そして――初戦の後の殿下のセリフが、再度こだまする。
『俺が望んでいないんだよ――』
あの時の殿下の悲痛な、訴えるような表情が、頭から離れない。
殿下の手を取りたい、という僅かな願いがぽうっと心の奥に揺れている。




