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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第二章 抑圧された少女は恋を知る

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10.フレンの決意

 フラヴィオに誘われて、酒場に来た俺達ふたりは、奥の個室に通された。

 そして――俺の目の前には難しそうな顔をしているフラヴィオがいた。


 「なぁ、率直に聞く。お前さ、ルエリアのこと、好きだろ?」

 突然の言葉に俺は言葉を失い、俯く。

 彼女のことは――ずっと妹のようなものだと思っていた。でも、明るさの影に、時折見せるなにかに怯えたような目が気になっていた。いつの間にか俺の中で彼女は、『妹みたいな存在』以上のものになり……守りたい。そう思うようになった。


 「……あぁ、俺は騎士になってほしくないと思っている」

 それを聞いたフラヴィオが真剣な目で俺を見据える。

 「なら言えよ。このままでいいのかよ? オレが気づいていないとでも思ったのか? ルエリアのことを想っているのなら……言ってくれ。ルエリアが騎士になっちまう前にさ。お前も王族なら知ってんだろ、この国の掟――」


 俺は押し黙る。掟を知らないわけないじゃないか――。

 心の中で張り詰めたものが音を立てて軋む。そしてぽつりと口に出る。

 「……騎士と王族は、結婚できない」

 この掟が俺の気持ちを抑える枷のようなものになっていた。

 彼女は代々騎士団長を輩出する家の生まれで、彼女はいずれ騎士になる。俺がその妨げになってはいけないと、ずっと気持ちを伝えられずにいた。やっと、自分の気持ちが、はっきりと輪郭を帯びた。


 「フラヴィオ」

 「ん?」

 「やっぱり俺――ルエリアのことが好きだ。彼女に、騎士になってほしくない」


 フラヴィオが頷く。

 「だと思った。それならルエリアに伝えてやってくれ。お前になら、妹を任せられる――いや、王族だからじゃねーぞ? 親友として、ルエリアを託せる。守ってくれ」

 俺は強く頷く。

 彼女はおそらく、このまま入団試験を難なく突破してしまう。その前に――伝えたい。

 

 「フラヴィオ、ありがとう。決心がついた」

 「ああ。……ちゃんと伝えろよ」

 俺の心に、輪郭を持った決意が灯る。


 酒場を出た俺は、城に戻り、机の前に座る。

 この気持ちは――人目のあるところでは彼女に伝えられない。

 机の引き出しの中から、一枚の紙を出し、ペンを走らせる。

 

 『ルエリア、話がある。これを読んだら五月(ヴェルデシア)の三十の日の昼刻、この前会った泉に来てくれ――フレン』

 

 俺は顔を上げ、ふぅ、と息をついて窓の外を見る。月の輪郭が、今日ははっきりとしている。


 まるで、俺の決意のように。


 ---


 次の日、城の訓練場にいたフラヴィオへ声をかける。

 「これを……ルエリアに渡してくれ。読むなよ?」

 

 冗談っぽく言う俺にフラヴィオが、ぷっと吹き出す。

 「読まねーよ。わかった、渡しとく。ちゃんとやれよ?」

 

 強く頷き、フラヴィオを見る。

 フラヴィオも、頷く。


 ルエリアを、騎士にはさせない。俺が、守る。恋人として――いや、ゆくゆくは、妻として。

 彼女にはもうなにかに怯えたような目をさせたくない。

 王族としての重圧に今度は晒してしまうかもしれない、でも、俺は彼女とともにいたい。

 守りたいという気持ちと、俺のそばにいてほしい、誰にも渡したくないという独占欲がせめぎ合う。

 ――おそらく、どちらも俺の本心だろう。


 彼女を――ルエリアに伝えたい。騎士にならないでくれ。俺のそばにいてくれ。そして、君を愛していると。


 俺は天を仰いだ。強い決意とともに。

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