10.フレンの決意
フラヴィオに誘われて、酒場に来た俺達ふたりは、奥の個室に通された。
そして――俺の目の前には難しそうな顔をしているフラヴィオがいた。
「なぁ、率直に聞く。お前さ、ルエリアのこと、好きだろ?」
突然の言葉に俺は言葉を失い、俯く。
彼女のことは――ずっと妹のようなものだと思っていた。でも、明るさの影に、時折見せるなにかに怯えたような目が気になっていた。いつの間にか俺の中で彼女は、『妹みたいな存在』以上のものになり……守りたい。そう思うようになった。
「……あぁ、俺は騎士になってほしくないと思っている」
それを聞いたフラヴィオが真剣な目で俺を見据える。
「なら言えよ。このままでいいのかよ? オレが気づいていないとでも思ったのか? ルエリアのことを想っているのなら……言ってくれ。ルエリアが騎士になっちまう前にさ。お前も王族なら知ってんだろ、この国の掟――」
俺は押し黙る。掟を知らないわけないじゃないか――。
心の中で張り詰めたものが音を立てて軋む。そしてぽつりと口に出る。
「……騎士と王族は、結婚できない」
この掟が俺の気持ちを抑える枷のようなものになっていた。
彼女は代々騎士団長を輩出する家の生まれで、彼女はいずれ騎士になる。俺がその妨げになってはいけないと、ずっと気持ちを伝えられずにいた。やっと、自分の気持ちが、はっきりと輪郭を帯びた。
「フラヴィオ」
「ん?」
「やっぱり俺――ルエリアのことが好きだ。彼女に、騎士になってほしくない」
フラヴィオが頷く。
「だと思った。それならルエリアに伝えてやってくれ。お前になら、妹を任せられる――いや、王族だからじゃねーぞ? 親友として、ルエリアを託せる。守ってくれ」
俺は強く頷く。
彼女はおそらく、このまま入団試験を難なく突破してしまう。その前に――伝えたい。
「フラヴィオ、ありがとう。決心がついた」
「ああ。……ちゃんと伝えろよ」
俺の心に、輪郭を持った決意が灯る。
酒場を出た俺は、城に戻り、机の前に座る。
この気持ちは――人目のあるところでは彼女に伝えられない。
机の引き出しの中から、一枚の紙を出し、ペンを走らせる。
『ルエリア、話がある。これを読んだら五月の三十の日の昼刻、この前会った泉に来てくれ――フレン』
俺は顔を上げ、ふぅ、と息をついて窓の外を見る。月の輪郭が、今日ははっきりとしている。
まるで、俺の決意のように。
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次の日、城の訓練場にいたフラヴィオへ声をかける。
「これを……ルエリアに渡してくれ。読むなよ?」
冗談っぽく言う俺にフラヴィオが、ぷっと吹き出す。
「読まねーよ。わかった、渡しとく。ちゃんとやれよ?」
強く頷き、フラヴィオを見る。
フラヴィオも、頷く。
ルエリアを、騎士にはさせない。俺が、守る。恋人として――いや、ゆくゆくは、妻として。
彼女にはもうなにかに怯えたような目をさせたくない。
王族としての重圧に今度は晒してしまうかもしれない、でも、俺は彼女とともにいたい。
守りたいという気持ちと、俺のそばにいてほしい、誰にも渡したくないという独占欲がせめぎ合う。
――おそらく、どちらも俺の本心だろう。
彼女を――ルエリアに伝えたい。騎士にならないでくれ。俺のそばにいてくれ。そして、君を愛していると。
俺は天を仰いだ。強い決意とともに。




