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サマーンの憂鬱 ~アルヘシーラス包囲戦~  作者: 蘭鍾馗


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9/9

9.サマーンの憂鬱

「では、これより2日の間待ちましょう。」


 ◇


 ムハンマド王とアルヘシーラス市長の間で話し合いが持たれ、ビジャ・ビエハの住人は、2日の猶予の間に町から退去することとなった。

 我々はその間、兵の駐屯の準備を進める。また、行政府にも人を置き、これから入植者を募って町としての体裁を整えて行かねばならない。この辺りはムハンマド王が既に下準備をしているので、これを実行に移すために必要な人材を呼び寄せることになる。それまでは、ここは取り敢えず衛兵の駐屯地だ。


 住民は、自分達で運べるだけの荷物を持って行って良いことになった。ただし、武器や多額の金銭、多量の物資の持ち出しは許可されない。あくまで生活に必要な身の回りの品物だけである。その辺りは城門で衛兵によるチェックが入る。

 ダンタリオン達幹部は、町の建物や道路の様子を簡単にだが調べ、後から来る予定の、町の再建を担当する役人に引き渡せるよう準備をする。


 町を検分しながら歩いていると、一人の小さな女の子が駆け寄って来た。


「てんしさま。」


 翼を出したまま歩くダンタリオンを天使だと思ったらしい。女の子は、手に持った青い花を差し出すとこう言った。


「おはなをさしあげます。どうかわたしたちをおまもりください。」


 地中海沿岸の夏は、乾季である。滅多に雨の降らない今の季節、野の花など何処にも咲いてはいない。恐らく、この子の家の庭で、水をやって大事に育てられたものだろう。

 ごめんね、あなたたちを追い出したのは、私達なんだよ。そう思いながらも、それをこの子に言う事は憚られた。


「ありがとう、大丈夫だよ。神様が助けて下さる。」


 ダンタリオンとしては、こう言うのが精一杯だ。自分だって神様に助けられてここまで来たのだ。きっとこの子のことも守ってくれるだろう。


 慌てて駆け寄る母親に手を引かれ、女の子は去って行った。


 ◇


 慌ただしく1日目が終わり、そして2日目の日が暮れた。明日は、住民が残っていないことを確認したら、ハサン達に後を任せて、我々近衛兵はムハンマド王と共にグラナダへ帰る。


 翌朝、脅しに用いた攻城塔と投石器カタパルトを片付けて船に乗せる準備を始める。

 攻城塔は車輪止めを外して向きを変え、馬で港まで引いてゆく。投石器は籠に載せていた大きな石を下ろしてから、錘箱を止めている棒を外し、錘箱を下に下ろしてから分解する。


 サマーンは、弾丸として載せていた大きな石を降ろそうとしていた。ところが、これが重くてなかなか簡単には動かせない。石を乗せた大きな籠から石を降ろそうとしていた時、石を飛ばす為の錘箱を止めていた棒が突然外れ、錘箱が下に向かって回転を始めてしまった。すると、同じ棒の反対側に取り付けてある石を入れた籠が勢いよく持ち上がり、遠心力で石が飛ばされる。


 サマーンは逃げ遅れ、石と一緒に弾き飛ばされてしまった。



「サマーーーン!!!」



 撤去作業を見守っていたダンタリオンが、慌てて飛び立ち、必死に羽ばたいて、石と一緒に空中に放り出されたサマーンを追いかける。


 なんとか追いつくと、何故かサマーンは必死に石にしがみついている。


「馬鹿たれサマーン石から手を離せ!」


 聞こえているのかいないのか、サマーンは手を離す様子がない。こいつパニックになっているな。

 ダンタリオンがサマーンの体に手を掛けて無理やり石から引き剥がし、石を足で蹴って急上昇する。



 ………………



 何とか間に合った。


 石は落ちて跳ねて転がり、人のいない民家を直撃して止まった。サマーンはダンタリオンに背後から抱き抱えられて、一緒に空を飛んでいる。



「…………………サマーン………。」

 さすがのダンタリオンも息があがっていた。

「…………なんですぐに石から手を離さなかった。」



「……いや、なんか落ちそうで。」

「……もう落ちとる最中だったろうが。」

「……あー。」


 

 昼間の上昇気流に乗り、かなり上空まで上昇したサマーンとダンタリオン。ようやく息がととのったところで、今度はゆっくりと下降する。


「まあ、作業中の手違いのようだからな、仕方ないか。」

「はい。」

「だが、もっと気をつけて見ていれば、錘を止める棒が外れそうなのは気付いたはずじゃ。」

「ええー……。」

「あと、さっさと石から手を離せ馬鹿者。」

「すみません。」



 いつの間にか海沿いを低空で飛んでいる。少し落ち着いて来たら、背中に隊長の胸が当たっているのが気になり出した。いやこんな時に何考えてるんだ。



「なので、お前に罰を与える。」

「え?」

「サマーン、お前泳げるか?」

「……はい。」

「そうか。ではこの辺でいいだろう。」

「は?」


 ダンタリオンは、サマーンを抱えていた腕を離した。


 ドボーン。


 水飛沫が上がり、一瞬目の前が真っ白になる。鼻に水が入るのを感じた。やがて、顔と体が水底の砂の中に着地した。

 浅瀬だった。すぐに立ち上がった。


「先に戻る!」


 隊長の声が上から聞こえる。

 あーあ、ここから歩いて戻らなきゃいけないのか。



 憂鬱だなあ。

 

(終)

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