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サマーンの憂鬱 ~アルヘシーラス包囲戦~  作者: 蘭鍾馗


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1/7

1.新入りのサマーン

 1300年代中期、ムハンマド5世の治世の下、全盛期を迎えていたイベリア半島南部のグラナダ王国。市場での騒ぎの中で王に見いだされた悪魔ダンタリオンは、王直参の参謀兼近衛隊長となっていた。これは王の参謀兼近衛隊長としてイケイケだった頃のダンタリオンと、それに振り回される近衛隊の新入りサマーンによる、ある戦いのエピソード。

「サマーン‼︎」


 ◇


 アルハンブラ宮殿の隣のアルカサーバでは、今、近衛兵の訓練中だ。

 近衛隊長である悪魔ダンタリオンの声が飛ぶ。


「お前今死んだぞ!」

「すみません。」


 ダンタリオンに怒られているのは、若い近衛兵のサマーン。

「踏み込みが遅い!あれじゃ躱されるわ。あとね、あんたは考えてることが顔に出すぎ。」

「そうですか?」

「自分じゃわからないかも知れないけど、左に躱そうとか、右から攻めようとか、今だ懐に飛び込め!とかね、全部顔に書いてあるの。その癖直さないと戦場で本当に死ぬからね。」

「……はい。わかりました隊長。」


 ああ、今日もおこられた。女でしかも悪魔の近衛隊長に。

 顔に書いてあるとか言われても、自分ではわからない。鏡でも見ながら練習しろってのか?

 踏み込みが遅いのは、自分でも分かってる。筋力が足りないのと、あと、踏み込む直前に小さくステップを踏む癖があるからだ。しかもそれを顔で読まれてしまっているから、必ず躱されてしまう。


 ◇


 俺はサマーン。今年入ったばかりのアルハンブラの近衛隊の新入り。


 近衛隊に選ばれることは栄誉だ。戦の経験はまだないけど、剣の腕には自信があった。

 ところが、その自信は、近衛隊に入ったとたん粉々に打ち砕かれた。

 皆、すごいのだ。どう見たって俺が一番下手くそで弱かった。

 訓練で近衛隊の誰と手合わせしても、十数える間に、半月刀を首に当てられて負けた。

 それは仕方ない。これから精進して強くなればいいのだ。


 でも、我慢できないことが一つだけある。

 上官である近衛隊長が、女なのだ。それも只の女じゃない。悪魔だ。背中に黒い翼が生えているのだ。


 そう。俺の上官は女の悪魔なのだ。

 なぜ悪魔がこんな所に居る?どうやったらこの無茶苦茶な状況を受け入れられる?


 そして、悔しいことに強い。それも並みの強さではないのだ。ダンタリオン近衛隊長は化け物みたいに強い。それはもう認めざるを得ない。何をしても敵わない。

 訓練で俺は都合二十回くらい、三つ数える間に、半月刀を首に当てられて負けた。


 近衛隊の他のみんなはどう思っているのかって?

 それが、俺以外はみんなダンタリオン隊長に心酔している。みんな悪魔に惚れているのだ。

 確かに強い。それに美人だよ。不老不死の悪魔は、年の頃なら18位の若い娘にしか見えない。

 それが三百歳を軽く超えてて剣術が強くて並外れた怪力の持ち主で恐ろしく頭が切れて、それで俺の上官なんだ。


 誰か教えてくれ。俺はどうしたらいい?


 ◇


「近衛隊の新入りはどうだ、ダンタリオン。」


 ムハンマド5世がダンタリオンに尋ねる。

「使えるようになるまで、しばらくかかりますよ。筋は悪くないんだけど、後先考えずに無茶をするタイプですね。それに体力がまだまだ。まあ、なんていうか教え甲斐がありますよ。」

 ダンタリオンが笑って答える。

「あと、私が女なのが気に入らないみたい。」

「そうか。まあ最初は仕方がないな。」

 ムハンマド5世も笑う。


「まあ、お前のやり方でじっくり育ててやってくれ。頼んだぞ。」

「わかりました。」


 ◇


 俺はサマーン。今年入ったばかりのアルハンブラの近衛隊の新入り。


 訓練が終わって、兵舎に戻る。もう何も出来ない。

 剣の腕がどうこう以前に、体力がついていけない。駄目だなこんなんじゃ。


 寝ようとしても、悪魔の顔がちらつく。悔しいけどこの状況から抜け出す方法はひとつしかない。



 強くなろう、うん。

 



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