110.一対一
「見事でした……私の完全なる敗北です」
セシルは戦おうと思えばまだ戦えそうな状態でありながら、あっさりと自身の敗北を認める。
それと同時に、〝人狼風ゲーム〟で犠牲となっていたサナダ、コダック、アイエの三人がワープエフェクトと共に出現する。
「お、お前ら……やっちまったのか。ラスボスを……僕抜きで……」
現れるや否や、サナダはわなわなとした様子で、そんなことを言う。
「ふふふ、やったぞ! これでついに私はラスボスだ! ふはははは!」
「で、あれば僕達はラスボスを倒さないと……だな……」
【え……?】
【え……?】
【え……?】
突然、そういったのはサナダであった。
「どういうことです? サナダさん」
クガがサナダに問い返す。
「そのままの意味だよ。僕達が新たなラスボスである吸血鬼さんを倒す。そういうことだ」
「っ……」
クガはアリシアの前に立つ。
「だったら、サナダさん、その前に自分を倒してもらわないと……」
そう言って、クガは剣を構える。
「お、いいね……。そういうの。うん、じゃあ、ナナミ、コダック、手を出すな。僕とクガくんの一対一だ」
「……そうですね。無駄な犠牲を出す必要もありません」
「く、クガ……?」
アリシアが心配そうな声を出す。
「……アリシア、大丈夫だ。そこで見ててくれ」
「……あぁ」
「残念だが、仕方がない。クガくん。あとは戦をもって勝敗を決するのみ……」
「っ……!」
ガキンという金属音がボス部屋に響く。
それはサナダの刀とクガの大剣がぶつかりあった音であった。
「よく止めたな……一瞬で勝負を決めるつもりだったのだが……」
「お褒めにあずかり光栄……です」
クガは思いっきり大剣を押し出し、サナダをノックバックさせる。
だが、サナダはすぐに距離を詰め、再び、クガに斬りかかる。
クガはサナダの猛攻を防ぐので精一杯であった。
だが、
【え? クガすげえじゃん】
【あのサナダの攻撃を防いでる?】
【サナダが打ち合ってる姿なんか見たことなかったわ】
クガは攻撃を防いでいるだけで、リスナーから驚かれた。
それほどまでに刀聖サナダとは探索者の中で、圧倒的な存在であったのだ。
「さぁ、サナダさん……勝負です」
「っ……!」
クガが大剣を叩きつけ、サナダがそれを刀で受ける。
「くっ……!」
サナダはその一撃でクガに迷いがないことを悟る。
「だがね……僕にも意地ってもんがあるんだよ……!」
サナダは刀を思いっきり振り回し、クガをノックバックさせる。
しかし、クガは怯むことなく再びサナダに斬りかかる。
二者の大剣と刀が激しくぶつかり合う。
だが、
【どういうことだ?】
【クガがサナダを押している?】
【信じられない】
明らかにクガがサナダを押していた。
堕勇者の特性〝魂の救済〟。
魂を救済することで、能力が跳ね上がる……というもの。
救済とは聞こえはいいが、魂を救うとは〝無〟にすることを意味する。
つまるところ〝殺すと能力が飛躍的に上昇する〟。
「くっ……クガくん……なんて禍々しい力だ……まさかこれほどとは……ぐあっ……!」
ついにクガの刃がサナダの脇腹を掠める。
「はぁ……はぁ……やるじゃないか。クガくん……」
「どうもです。ここらで引いてくれると嬉しいのですが……」
「何を言うかね?」
「っ……!」
その瞬間、サナダの威圧感が一層高まる。
「これを発動するのはいつぶりだろうね……特性:侍魂。追い詰められるほどに能力が上昇する!」
今度はサナダが凄まじい速度でクガに迫る。
クガはなんとかそれを大剣で防ぐ。
「人間と魔物の秩序は僕達が守る……! クガ君……! 何の大義もない君はここで去れ……!」
「……」
そのサナダの言葉がクガに一瞬の迷いを生じさせる。
〝大義〟……確かにクガの活動にはそんな高尚なものは存在しなかった。
今、自分がしていることは純粋なるエゴであった。
だが……、その時、
【クガ……頑張れ……!】
自分を応援してくれている人がいることに気が付いた。
「っ……!」
【俺は吸血鬼さんを信じてるぞ】
【クガ……頑張れ……!】
【サナダ! 何が秩序じゃ! 俺達の生きがいを奪うんじゃねえよ!】
リスナーのメッセージがまるで雪崩れ込むようにクガの胸に突き刺さる。
「……っ……何の正義も……何の大義もないですが……アリシアは殺させねえ! 魔法:全能力上昇!」
クガも自身への最大強化魔法を掛け、応戦する。
「なるほど……あくまでも抗うつもりのようだね……いいだろう……僕も僕の全てをもってそれを打ち砕いてみせよう……」
サナダは大きくステップバックし、素早く刀を鞘に格納する。
「〝奥義〟……」
サナダは刀の柄に手を添え、そして構える。
「〝斬魔刀〟!」
サナダは流星のごとく、クガに猛進する。
それはきっと時間にすると、コンマ数秒のことであった。
そんな時分、クガは不思議なことに、かつてのパーティメンバーであるセラの言葉を思い出していた。
セラはクガと和解し、アリシアの元へ再びクガを送り出す時、こんなことを言っていたのだ。
〝クガ……お前はきっとサムライにも負けないと思うぜ〟
それを聞いた時、クガは〝セラは何を言っているんだ? そんなはずないだろ〟と思ったものだ。
だけど……今……、
〝視える〟。
サナダが持つ自身最高の業と思しき、居合からの突進。
それが不思議なほど、クガにはしっかりと視えていた。
そして囁くようにスキル名を口にする。
「闇破勇斬」
クガとサナダ、二者は交差する。
そして……、
「…………っ……参ったな……」
そう呟いて、崩れ落ちたのはサナダであった。
【うぉおおおおおおおお!】
【クガぁあああ!】
【何が起きたんだ!?】
【速過ぎてわからん! だが、立っているのはクガだぁあああ!】




