109.セシル
「話は終わりましたでしょうか? そろそろペナルティを開始する必要があります。アリシア様は勝利者ゆえ、ペナルティを受ける必要はございませんが……」
「何を言っている! 私も当然、受けるぞ!」
「左様でございますか……承知致しました。 それではペナルティを始めましょう!」
セシルがそう宣言すると、半径20メートル程のドーム状の光のフィールドが展開される。
人狼風ゲームに最後まで残ったクガ、アリシア、グレイ、そしてナナミの四人がそのままセシルの殲滅対象になっているようだ。
更に、セシルの周囲に六つの青白いエネルギー体が発生する。
そして、そのエネルギー体は不規則にセシルの周りを周回し、いきなり凄まじい数の青白い光の弾をばら撒き始める。
【な、なんじゃこりゃぁあああ!?】
【すげえ弾幕】
【急に弾幕シューティングゲーになって草】
【ラスボスあるある。別ゲーになる】
【そんなこと言ってる場合かw】
【こんなのどうやって避けるんだよ!】
「くっ……皆、下がれ……!」
あまりの光弾の数に、クガは回避不能と咄嗟に判断し、大剣でガードしようと考える。
そのため、他の三人に自分の後ろに下がる様に指示する。
が、しかし……、
「ふぅ~ん、結構、すごいじゃない。でもぉ……こんなの焼き払えばいいんじゃない?」
「え……?」
「呪術:霊砲ぅ」
ナナミの周囲を浮遊する札が集合し、そこから巨大な光が放たれる。
それはさながらレーザーのようであった。
【す、すげぇえええ!】
【なんと大味な……】
【美しい……】
ナナミが放ったレーザーは青白い光弾を瞬く間に搔き消し、猛進していく。
「どうかしらぁ?」
ナナミは煽る様に、セシルを見つめる。
と……、
「うぉおおお!」
「っ……!」
セシルの攻撃後の隙を狙い、クガがいっきにセシルとの距離を詰める。
そして、その大剣を思いっきりセシルに叩きつけた。
が、しかし……、
「な……!?」
クガは驚く。
大剣はセシルの身体の数センチ手前で停止していた。
それはまるでセシルへの進行を妨げる境界……バリアのようであった。
と、セシルが掌をクガに向ける。
「……くっ!」
そして、セシルの掌から光が放たれる。
「クガっ……!」
アリシアの触手がクガの腰回りに巻き付き、一気に後退させることで、クガは辛うじて難を逃れる。
「ありがとう……アリシア」
「ふふん」
アリシアはサムズアップで応える。
「しかし、どうなってるのだ? セシルにダメージは通らないのか?」
アリシアは不思議そうに呟く。
【つまり無敵ってこと?】
【マジかよ……】
【いくらなんでも無敵は反則じゃないか!?】
「無敵ではありませんよ」
アリシアやリスナーの疑問にセシル自身が答える。
「ですが私の周囲を漂う六つのエネルギー体……これら全て破壊するまで、私の身体を傷つけることはできません」
「なるほど……自分からバラすとは随分と余裕だな」
「余裕というか、すでにお気づきの方もいるようなので……六つのエネルギー体のうち、すでに一つは破壊されていますし……」
「……!」
確かによく見ると、セシルの周囲を漂うエネルギー体はすでに五つになっていた。
セシルは最初の一つを破壊した相手をじっと見る。
一つ目のエネルギー体をすでに破壊していたのはナナミであった。
最初のセシルの攻撃を防ぐ際に、ナナミが使用したレーザー。
そのレーザーですでに一つのエネルギー体を破壊していたのだ。
【うわ、本当だ。すげぇ】
【巫女のナナミ……やはり只者ではない】
「やるな……お前……」
アリシアもナナミをじとっと見る。
「やだぁ、偶然よぉ、偶然ん」
ナナミはそんな風にはぐらかす。
その間にも、セシルは次の攻撃を開始する。
今度はセシルの身体を中心として、螺旋を描くように光の弾が放たれる。
螺旋は様々に色を変え、何度も周期的に発生する。
多種多様な色の光弾が複雑に重なり合い、美しくすらあった。
クガは一瞬、ナナミの方を見る。しかし、ナナミは後方に下がっている。
どうやらナナミは先ほどのレーザー呪術をもう一度放つつもりはないようだ。
スキルや魔法の使用には、使用間隔が必要である。
クガはその使用間隔により、ナナミはレーザーを連発できないと判断する。
「皆、一旦、下がろう……!」
クガは再び、他の三人に下がるよう促す。
「距離を取ると弾と弾の間隔が広くなって避けやすくなるんだ」
クガがそう言うと、アリシア、グレイは一旦、セシルから距離を取る。
「ほほう、なるほど……」
アリシアはクガの助言に感心している。
クガの助言のおかげもあってか、弾の間を縫うように、被弾せずに避けきることができた。
「本当ですね、クガ様……ありがとうございます」
グレイがクガに謝意を伝える。
【確かに例えば十個の弾が円状に放出されたら、半径が大きくなるほど弾と弾の間が広くなるな】
【冷静に考えれば当たり前のことではあるが……】
【クガ、なんでそんなこと知ってるんだ?】
「実はレトロなシューティングゲームを子供の頃にやっててな……」
クガはリスナーの疑問に律儀に答える。
「流石です、クガ様……ですが、こんなにセシルから離れてしまってはエネルギー体を破壊するのは難しそうですね」
「そうだな……皆は少しここで見ていてくれ……」
「え……? クガ様……?」
クガは再びセシルに向かって駆け出す。
セシルはエネルギー体からクガに狙いを絞った光弾を連続的に発射する。
「あ……! クガ様……!」
が、しかし、クガは最小限の動きでそれを回避する。
「え……?」
【流石、シューティングゲームかじってるだけあるな】
【シューティングゲームは実は知ってるかどうかで難易度が変わる知識やテクニックがいくつかあって、経験者の方が圧倒的にうまく立ち回れる】
【あれは通称〝ちょん避け〟だ】
【自分に向かって放たれた弾は下手に動き回るより、スライドするように少し動くだけの方が避けやすいんだよな】
「すごい……クガ様……でも、いくらクガ様でもこれ以上、接近するのは……」
グレイの言う通りであった。
クガはシューティングゲームの知識を利用し、セシルまでの距離をある程度まで縮めた。
しかし、そこから先の光弾の密度は非常に濃く、いくら知識があったとて、それ以上、接近することは物理的に不可能であった。
と、クガは実際に、足を止める。
皆がクガはそこからどうするのか? と思った時であった。
「……魔法:炎弾丸!」
クガは突然、炎属性の攻撃魔法を放つ。
「っ……」
それが見事にエネルギー体一つに命中し、セシルは顔をしかめる。
【あ……】
【そういえばこの人、勇者だから攻撃魔法使えるんだったね】
【普段あんまり使わないから忘れてたわ】
皆、クガが攻撃魔法を使えることをすっかり忘れていたのであった。
「ふむ……クガ、よくやった」
クガの言いつけを守り、後方で待機していたアリシアもクガを讃える。
だが……、
「しかしだ……クガよ。そもそもの話……避けるなど面倒だ」
アリシアはシューティングゲームの醍醐味に対する根本的な否定発言をする。
「ふむ……ここはひとつ……私もセシルに倣ってみるとするか……」
アリシアはそう言うと、ニヤリと微笑み、そして掌を前に出す。
と同時に、アリシアから次々に紅く尖った物体が放出される。
「っ……!」
アリシアの様子に気付いたのか、対抗するようにセシルも光弾を放出する。
弾の量はセシルの方が上だ。
一方でセシルの光弾は速度が比較的ゆっくりであるのに対し、アリシアの放つ紅石は弾丸のように撒き散らされる。
アリシアの紅石は、セシルの光弾を二つ三つ蹴散らしながら突き進んでいく。
「ん……弾切れか……」
アリシアは一度、紅石の放出が途切れる。
「くっ……」
しかし、セシルは焦りの表情をにじませる。
アリシアの一度の弾幕攻撃に圧倒され、エネルギー体が二つも破壊されてしまったからだ。
「ナイスだ! アリシア!」
「おうよ!」
セシルのエネルギー体は残り二つだ。
「流石に……形勢が悪いですね……」
セシルは嘆くように呟く。
「いいでしょう……私も少しやり方を変えましょう」
セシルはそう宣言すると、その掌をグレイに向ける。
「えっ……」
「まずは一人、仕留めることを目標にしましょう」
【セシルさんが人狼ちゃんにターゲットを絞った】
【一番たおしやすいと踏んだのか】
クガもセシルの意図に気が付く。
グレイはクガのようにシューティングゲームの知識があるわけでもない。
グレイが真の力を発揮できる獣化は身体が大きくなってしまい、むしろ弾幕を避けるのには不利である。
その点から単体での強さは他三人より劣ると判断されたのだ。
「くっ……!」
セシルの光弾が集中的にグレイに放たれる。
セシル自身もグレイの方にゆっくりと接近していく。
それにより弾の密度が高くなり、実際にいくつかがグレイの身体を捉える。
「きゃぁあ!」
「グレイ!」
クガはグレイに向かって駆け出す。
しかし……、
「っ……!」
膝をつくグレイはクガの方に掌を突き出す。
それはまるで「来るな」と言っているかのようであった。
【え? 人狼ちゃん、大丈夫なのか?】
【人狼ちゃん、まさか自分を囮にする気じゃ……】
「っ……! グレイ……」
コメントが耳に入り、クガも嫌な予感が脳裏をよぎる。
だが……、
「確かに獣化が不利に働く状況で、飛び道具を持たない私の力量は、他の方に少し劣るかもしれませんね……ですが……あまり侮ってもらっては困ります!」
そう言い放ったグレイはその姿を変貌させていく。
【え? 獣化か……?】
【いや、流石にあの巨体じゃ、かっこうの的なんじゃ……】
実際にセシルはグレイが変身する様子を見て、攻撃の手を強める。
激しい光の弾幕がグレイに襲い掛かる。
【うわぁあああ、人狼ちゃああん】
【なんてこった……】
だが、光が収まると、そこには一人の少女が立っていた。
「……グレイ……か」
クガもそう呟いたのは、その姿はこれまで一度も見たことがなかったからだ。
獣のような姿でありながら、人間のサイズ感を保ち、二足歩行で立っていた。
「えぇ……クガ様……これは人間の姿のまま獣化の力を発揮することができます」
【うぉおおお! すげえ!】
【なんだあの姿、かっけえええ】
【獣人化! 獣人化だな!!】
「ぐ、グレイ、どうやってあの弾幕を防いだんだ?」
「簡単なことです。全て避けたのです」
「っ……! あの弾を全て……?」
「クガ様。私は単独であの妖狐を倒したのですよ? どうか侮らないでくださいませ」
グレイはそう微笑むと、セシルの元へと駆け出す。
「っ……!」
セシルは迎え撃つように、さらに濃い弾幕をグレイに向けて放つ。
しかし、セシルは暴力的なまでの速さで、ことごとくそれを回避する。
シューティングの理論など、圧倒的な反射神経とスピードの前では無意味である。
そして、あっという間にセシルの目と鼻の先まで接近し、次々に、二つのエネルギー体を拳で破壊する。
「くっ……!」
全てのエネルギー体を破壊され、セシルの表情は歪む。
【やったぜ! 人狼ちゃん】
【ナイスぅう!】
【あ……あれ……?】
「っっ……」
だがしかし、それとほぼ同時にグレイは通常の人型の姿に戻ってしまう。
セシルはそれを見逃さず、グレイに掌を向ける。
「せめて一人くらい……仕留める……!」
【ど、どうしたの!?】
【獣人化は強い力と引き換えに短時間しか保てないのか?】
【人狼ちゃんんん!!】
だが、
「ふむ、よくやったぞ。人狼」
「っ……!」
まるでそれを予期していたかのように、アリシアがこっそりとセシルに接近していた。
「セシル、チェックメイトだ!」
アリシアの触手がセシルの身体を貫く。
「かはっ……」
セシルは崩れ落ちるように、膝をつく。
それと同時に展開されていた光のフィールドが解除されていく。




